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彼女はくノ一! 第六話(37)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(37)

 樋口明日樹が借りてきた鍵で美術室を開けると、みんなはぞろぞろと連れだって香也の絵を中に運び込む。明日樹は続いて、準備室の鍵も開けた。
「……ここ、勝手に倉庫代わりにしちゃっていいのかな?」
 玉木が、明日樹の開けた準備室を指さして、尋ねる。
「この準備室、一応、美術部の部室も兼ねている筈だし……」
 明日樹は、軽いため息をつきながら、答える。
「……狩野君の絵だから、まったく部活と関係がないってわけでもないし、第一、放送部の方は、備品がいっぱいで、こんな荷物、入りきらないでしょ?
 大丈夫よ、旺杜先生、そういう細かいこと、気にする人じゃないから……」
「……それも、そっか……」
 玉木は、軽く頷いて、持っていた荷物を準備室に運び込む。他の連中も、それに続いた。
「でも……邪魔は邪魔だから、なるべく早く、そっちで引き取って貰えると助かるんだけど……」
 明日樹は、玉木にそう声をかけるのも、忘れなかった。
「……うん。そだね。
 有働君や他のみんなにも声かけて、早めに処理するように進言してみる。早ければ、昼休みから作業に入るよ……」
「……作業?」
 具体的に、これらの絵をどう処理するのか想像がつかない明日樹は、小首を傾げてみせた。
「ま、撮影、だね。
 そのまま、印刷所に回せるのは、放課後に運び出しちゃうけど……。
 フィルムに焼き付ければ印画紙にもできるし、スキャンしちゃえば、デジタル加工もできるし……」
 持ち込んだ絵をすべて準備室を運びいれると、明日樹は鍵を職員室に返しに行き、他の面子は、始業までそれほど間がないこともあり、授業を受けるためにそれぞれの教室に散っていった。
 玉木は、早速携帯を取り出し、メールで関係者各位に連絡を取っているようだった。

 そして昼休み、案の上、香也は、放送部員に呼び出された。楓と、それに牧野と矢島までもが、香也の後をついていく。
「……やあ、どうも。
 今回は、ありがとうございました。期待していた以上のものを、頂いちゃって……」
 有働が、にこやかに香也を出迎えてくれた。
 その後ろでは、立てかけた香也の絵に、三脚に据えたカメラを向けた旺杜先生が、放送部員たちにライトや反射板の位置を指示していたりする。
 旺杜先生は、
「……それで、光度計であたりとってみろ。
 だいたい、均質に光が当たっている筈だ……」
 とかなんとかいうと、慌てて放送部員の何人かが、光度計を取り出して、香也の絵の表面にあててチェックをはじめる。
「……何、しているんですか?」
 楓が、有働に向かって、その作業についての解説を求めた。
「スキャナーで取り込めない大きさのものは、ああして撮影しています」
 有働は、朝の玉木の説明と、同様の意味のことをいった。
「なんか……旺杜先生が、妙に協力的でして……」
「おっ。
 狩野か……」
 美術室の入り口近くにたむろしてた生徒の中から香也の顔を認めた旺杜先生が、香也を手招きする。
「随分と、描いたな……。
 ところで、この絵、データを取った後の使い道とか、もうあるのか?」
「……使い道、ですか?」
 香也は、一瞬、旺杜先生が何をいっているのかわからなかった。
 そもそも、絵は、「使う」ものではない。少なくとも、香也の認識の中では……。
「……ああー……。
 聞き方が、悪かったか……。
 いや、この絵……お前ら、今朝、ぞろぞろと大名行列で運び込んでたろ?
 あれ、意外に目立ってな……。
 で、何人かの先生が、休み時間とかに見に来て、まあ、描かれているモチーフがモチーフだから、なんだこれは、って話しになって……。
 それから、放送部とかボランティアに関わっている生徒から、話しを聞いたりして、だな……。
 結論をいうと、この絵を教室とか廊下とかに、掲示したいって意見が、先生方の中から、ぼちぼち出てきているんだ……」
 予想外の事態に、香也の目が点になった。
「……そのボランティアってのは、あれだろ?
 これから、このゴミの山を片づけて……その過程も、いろいろな方法で伝えていくってことだろ?
 狩野の絵も、その広報の一環で……」
「そうです」
 呆然としている香也の代わりに、有働が、頷いた。
「……まあ、学校ていうのは、いうまでもなく、教育機関なわけだ。
 なら、予算や職員の人手は割けないにしても……生徒が、そういう結構な活動しているのなら、それとなく支援してやるのが、筋じゃないかって話しでな……。
 印刷物やネット向けの素材に使用された後の絵を、校内で展示したらいいんじゃないか、ってことでな……。
 なにより、金も人手もかからないし……」
「……ボランティアとしては、非常にありがたい話しです」
 有働が、頷く。
「これから、活動の成果が出てくれば、ゴミがなくなった風景も、そのうち展示されていくわけで……これ以上の広報も、ないでしょう。
 後は、絵を描いた狩野君の意向次第、というわけですが……」
「……んー……。
 いいけど……」
 話しの流れをようやく理解した香也は、なんとか、頷いてみせる。
 一連のやりとりを目撃していた楓や、牧野と矢島までもが、背中のほうでなにやら騒ぎはじめていた。

 正直、描き上げた絵が、どのように利用されようとも、香也の関心の外にある。
 それでも、躊躇を覚えるのは……。
『……校内、だと……』
 香也が描いた絵だと、かなり多くの生徒たちに知られるのは……避けられないように、思えたからだ。

 現に、今朝、運び込む様子を目撃した生徒は、それなりにいるし……実際に、これらの絵が校内に展示されたり、印刷物やネット上に出回ったりした後、それらの絵と香也の存在を結びつけて考える人間が、増えていく……という想像は、ひっそりと他人の視線を避けて生きてきたい香也にとっては、あまり楽しいものではなかった。
 だが……。
 香也は、放送部員たちに指示を与えながらシャッターを切っていく旺杜先生の姿を、ぼんやりと眺めながら、考える。
 もう、自分は……すでに、以前の状態に引き返せないところまで、深入りしているのではないか……と、今更ながらに、香也は、思う。

「……大丈夫ですか?」
 香也の様子がおかしいことに気づいた楓が、心配そうな顔をして、声をかけてくれた。
「……んー……。
 大丈夫」
 香也は、できるだけ平静な声を出そうと、努める。
「なんでも、ないから……」




[つづき]
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