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彼女はくノ一! 第六話(38)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(38)

 やはり、楓は、自分のことをよく観察しているよな……と、教室に帰る途中で、香也は思う。
 先ほどの香也の変化も、傍目には、さほど目立つ変化ではなかった筈だ。少し血の気が引いて、顔が強ばっていたのかも知れないが……それでも、よくよく、香也の様子に注目していなければ、そうとわからないうほどの子細な変化だった……と、香也は思う。
 確かに、「大勢の人からいきなり注目される」可能性と、そこ可能性に対する恐怖……に、ついては、今まで香也が想像していなかったことだけに、一瞬、自分でも意外に思えるほどの衝撃を受けたものだが……香也のつもりとしては、すぐに自制し、あまり態度には、出ていなかった筈、なのだが……数瞬にも満たない子細な変化を、楓は、見逃さなかった。
 やばいなぁ……と、香也は、深く考えたわけではないが、ぼんやりと、そう思ってしまう。
 香也がぼんやりとした危機感を抱くのは……これから、自分が、校内でそれなりに注目されるだろう、という予測についてに、ではない。
 そんな注目は、所詮一過性のものだと、香也は思っている。何かの拍子に、絵が描ける、ということで注目を浴びるにしても……香也のそんなスキルは、校内の生徒たちの関心を持続的に集めるほどの関心は、持たれることはないだろう……と、香也は予測する。
 そもそも、同級生や、前後の学年の生徒たちにとって、「絵を描く」とかいうスキルが、それほど重要な関心時になりうる、とは、香也は思っていない。
 仮に、一時的に話題を集めたとしても……せいぜい数日程度で、香也はもとの「目立たない一生徒」に戻るだろう、と、香也は、思っている。
 この時、香也が漠然と抱いた危機感を言語化すれば、以下のようになる。

 香也が、漠然とした危惧を抱きはじめたのは……楓と自分の関係について、だった。いや、楓でなくとも、孫子でも、テン、ガク、ノリの三人でもいいのだが……自分と、自分に対して、過剰なまでに献身的に尽くしてくれる少女たちとの関係は……香也自身がそれを歓迎しているのか、いないのか、という内面的な問題は保留するにしても……客観的にみて、はやり、健全とはいえないのでは、ないだろうか……


 以前から、香也が漠然と抱いていた不安が、この時に、香也の中で、より具体的な想念にまで育った……というべきか。
 香也は、同居人の少女たちと自分の関係を……やはり、健全とは、いえないのではないか……と、改めて、思いはじめている。
 彼女たちと自分の関係は……同年輩同士のつき合い、というよりは……保護者と被保護者の関係に、近い……と。
 この年齢で、性的な関係を結んでいる……ということよりも、香也は、自分が彼女たちの好意を「当然の前提」として受け入れ、一方的に「依存/被依存」の関係として、固定するのが……怖かった。
 彼女たちの抱擁力と現在の自分の状態を考慮すると、このままずるずると過ごせば、かなり高い確率で、そういう関係になってしまう……。
 そういう関係は、それなりに心地のよい状態なのかも知れないが……香也の本能的な部分が、警笛を鳴らしている。
 今の年齢から、そんな関係に甘えてしまえば……この先、一生、一人では何もできない人間になってしまうぞ……と。
 それを回避するためには……と、香也は、思う……自分の方が成長して、場合によっては、彼女たちに頼られるほどの存在になる……しか、ない。
 以前から、香也は、彼女たちの好意を受け入れ、誰かと特別な関係になることに、漠然とした不安と危機感を抱いていたのだが……そこまで考えて、「そういうことだったのか」、と、妙に腑に落ちる感覚があった。

 香也の無意識は……彼女たちの好意を無条件に甘受することで、香也自身が骨抜きになることを、以前より警戒していたのだった。そのことを、ここに至って、ようやく、香也は自覚した。

 そうした、ぐだぐだな関係を、回避するには……。
『……自分の方が、彼女たちと肩を並べても、遜色のない状態にまで……』
 成長するより他、ない……。
 そうでないと、今の時点で香也がどのような選択をしようが……誰にとっても、不本意な結果しか、うまないだろう……。
 そこまで考えて、香也は、
『随分……ハードルが、高いなぁ……』 
 と、心中で嘆息してしまう。
 彼女たちと、今の自分とを比較すると……一体、何年の歳月が、必要になることか……。
『でも、まあ……』
 待ちきれないくらいなら、彼女たちの方が、自然と香也から離れていくだろう。
 それはそれで、一つの結末だ……と、香也は、思う。

 当面の、香也の目標は……今まで、香也が回避していた事物……つまり、絵を描くこと以外の、ほとんどのことがら……を、逃げずに、自分で処理する、ということだった。そういうところから、手を着けるより他、ない。
 人付き合いとか、勉強とか……その他、今まで香也が意図的に敬遠してきたものは、数多くある。 
 彼女たちのように、「常人以上」の能力を持つ必要はないが、せめて、「普通の人並み」に、それら、香也が今まで回避したり人任せにしてきたものを、自分の手で行うことから、はじめる……。
 漠然と、これから自分が行わなければならないkとを想像した香也は、
『……気が遠くなるような話し、だな……』
 と、思ってしまう。
 いかに、香也が、それら「人並みの行為」をさぼっていたのかは……香也自身が、いやというほど、自覚していた。
 それでも……。
『……いい加減……』
 自分の足で、歩き出さなくては、いけない……と、香也は思う。
 楓や孫子、テン、ガク、ノリはいうに及ばず、荒野や茅、樋口明日樹、有働、玉木、堺、柏……それらの知人、友人たちの好意に、いつまでも甘えているだけでは、いけないのだ……と、香也は、切実に思いはじめている。
『……この先も、みんなと一緒に、歩いていけるように……』
 自分の意志で、歩き出さなくては、いけない……と、香也は、思う。

「……香也様?」
 気づくと、数メートル前に先行した楓が、香也の方を振り返って、怪訝な顔をして香也に声をかけていた。
 考えごとをしている間に、香也の足の動きが、鈍くなったようだった。
「……んー……」
 例によってのんびりとした声を出して、香也は、慌てて、大股に足を踏み出す。
「今、いく……」
 自分の教室はすぐそこだし、もうすぐ、午後の授業がはじまる。
 このあとも、香也の思惑に関わらず、教室では、「いつもの日常」が待っているのだろう。
 時間は、香也にも、他の誰にも、平等に流れていく。
 自分の……これ以上、みんなに遅れるわけには、いかない……と、香也は思う。

 そして、この時の香也は、その後に控えている六時限目に、実力テストが控えていることを、すっかり忘れていた。




[つづき]
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