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彼女はくノ一! 第六話(39)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(39)

 この学校では、原則として、一月に一度、全校で一斉に実力テストを行うことになっている。ただし、長期休暇のある月は行われない。たとえば三学期だと、一月と二月は実施したが、春休みや試験休み、それに、卒業式などの行事で日程が押せ押せになる三月は、行われなかった。
 この業者が主催する実力テストは、成績の考査には直接影響を及ぼさないが、代わりに、進路を考慮する上で、大きな指標となる「偏差値」を叩き出すので、学年が上の生徒ほど、真剣な態度で望む傾向がある。
 そうした重要な試験を、平日の最後の授業時間を振りあてて行う背景には、学校側の事情もあった。ただでさえ、文部科学省の方針で、年間を通じての授業時間数が減らされていることに加え、三学期は、他の学期に比較しても、実質授業日数が、
極端に少ない。全校生徒が参加しての、卒業式の予行練習なども行わねばならず、その分にも、日数を割かなければならない……。
 一言でいうと、日程的に、きついから……平日の最後の授業を一時限づつ潰して、一週間五教科分の試験を行うことになった。
 今日は、その初日であり……その初日のテスト科目は、英語だった。

 チャイムが鳴って、答案用紙を回収し、日直が号令をかけて先生が教室を去っていくと、教室内はいつもにもまして騒がしくなった。
 解放感と、諦観の入り交じった吐息、
「……できたー?」
「ぜんぜーん」
 などの、お定まりの会話。
 この日の科目が「英語」だったため、自分の成績が知りたい生徒たちは、楓の周囲に群がった。
 すでに楓は、「先生以上に、英語についての知識がある」との評価を、級友たちの間で得ている。正解をしりたければ、楓か、それとも全教科、受験対策まで含めてまんべんなく丸暗記している茅に聞くのが、一番だった。
「……答え合わせしたい人は、一度廊下にでるの」
 結局、すぐに茅が助け船を出すことになる。
「楓は、今日、掃除当番だし……いつまでも、みんながここにたむろしていると、教室の掃除もできないの」
 茅の言葉に従って、楓の周囲に群がっていた生徒たちが、ぞろぞろと外に出ていく。
 別に茅の語調はきついものではなかったが、どことなく、犯しがたい威厳とか風格のようなものが漂っていて、たいていの場合、茅の言葉に逆らう生徒はいなかった。
 鞄を持って廊下に出た茅を追う形で、生徒たちがでていくと、楓や香也たち、今週の掃除当番は、ようやく机を後ろに下げて、備品のロッカーから箒やちりとりを取り出し、掃き掃除をはじめる。
 男女四名づつ、計八名の掃除当番は、
「……今週は、ずっとこんな感じかなぁ……」
 と、いいあいながら、手を動かしていた。
 実力テストは、今週いっぱい、最後の授業時間があてられる。今週に掃除当番があたったことは、結構、貧乏籤かも知れない……。

 教室の掃除もそろそろ終わろうかという頃、ぴんぽんぱんぽーん、というチャイムとともに、突如、校内放送がはじまった。
『……校内に残っている、生徒のみなさん……』
 玉木の、声だった。
 香也と楓は、顔を見合わせる。
『……現在、図書室において、生徒有志により、実力テストの答え合わせと模範解答の解説が、行われています。
 全学年の試験問題について、解説を行う予定です。
 参加者が多数の場合は、別の教室に移動することもありえますが、興味がある生徒は、とりあえず、図書室に集合してください。
 繰り返します……』
 顔を見合わせていた香也と楓は、玉木の声が同じアナウンスを繰り返しはじめると、どちらからともなく、呟く。
「……茅ちゃん……」
「……茅様……」
 他にも、協力者がいるのかも知れなかったが……例えば、三年の佐久間沙織が、茅の思いつきを手助けした……などいうことは、十分に考えられたが……それでも、「主犯」は、明らかに茅だろう……と、期せずして、二人の推測は、一致する。
 そういうことが可能である、という「能力」と、思い立ったらすぐに実行に移してしまう「実行力」……加えて、最近では、知り合いになった生徒をうまく利用することも、覚えはじめている。
 昨日、荒野がちらりと口にした、「来年度、生徒会長に立候補する」とかいう話しも……こうしてみると、茅に向いているかも、知れない……とか、思えてくる。
「……掃除終わったら、ちょっと見てきましょうか……」
 楓が、ぽつりと呟いた。
「……んー……。
 ぼくも、いく……」
 香也も、楓の意見に賛同する。
 いつものように美術室に向かっても、まだ当分、放送部による、昼休みにやりきれなかった分の撮影作業が続いている筈であり、落ち着いて絵を描ける環境でもないのであった。
「あっ。
 じゃあ、こっちはもう終わりだし、いっちゃっていいよ……」
 同じ掃除当番である、牧野がそういってくれて、
「そうそう」
 矢島も、賛同してくれる。
「やること、もうほとんど残ってないから……」
 流石に、その言葉に甘えるのも悪いと思ったので、香也と楓の二人でゴミ箱を抱えて、中身をゴミ捨て場まで持っていく仕事をさせて貰うことにした。
 香也や楓にしろ、別に先を急いでいるわけでもないし、香也はともかく、楓にしてみれば、中身がぎっしりと詰まったゴミ箱を抱えて移動するなど、造作もない作業だった。

 校庭の隅にあるコンテナの中に、ゴミ箱の中身を空けて教室に戻ると、他の掃除当番が帰り支度をしているところだった。
 ゴミ箱を教室の隅に置き、香也と楓は、そのまま図書室に向かう。あまり、成績とか試験とかに興味がないのか、牧野と矢島はついてこなかった。
 図書室は、それなりに生徒が集まってはいるものの、図書室からはみ出て別の教室を使う、というほどには、盛況ではなかった。
 案の定、茅と沙織が中心になって、他の生徒たちに、正解とか問題の解説を行っている。この時期になると、例外的な例を除いて、ほぼ受験を終えている三年生の姿は、沙織以外に見えず、一年生の分を茅が、二年生の分を沙織が、担当している。
「……よう。来たか……」
 目ざとく香也たちの姿を見つけた荒野が近寄ってきて、二人に声をかけてくれる。
「今、見てたけど……二人とも、教え方がうまいや……」
 荒野は、香也と楓に向かって、そういった。




[つづき]
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Comments

はじめまして。
いつも楽しく読んでいます。
さて、誤字ですが、
「~実力テストの答え合わせと規範解答の解説が ~」
のところ、規範でなく模範だと思われます

今後もがんばってください

では、失礼

  • 2007/06/10(Sun) 11:15 
  • URL 
  • #-
  • [edit]

修正完了。

ご指摘、ありがとうございました。

  • 2007/06/10(Sun) 12:10 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

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