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第六章 「血と技」(299)
茅の方は、そんな荒野にまともに答えるほどの精神的余裕もない様子で、荒野の荒々しい動きを受け入れながら、荒野の動きに合わせて切なげな声を上げている。
荒野が茅の中心を出入りする動きに合わせ、茅は、
「……あぁ……はぁ……あはぁ、あー、あー……」
とかいう声を、高くしたり低くしたしながら、喉の奥から絞り出している。
『……なんだか……』
そんな茅をみて、荒野は「楽器みたいだな……」という感慨を持つ。
おそらく、今の茅は、荒野がそうであるように、結合している部分の動きから、遂一、深い快楽を受け取っているのだろう。そして、その快楽は、動くほどに、深くなっていく……。
その証拠に、荒野の下で喘いでいる茅は、目を閉じ、明らかに恍惚とした表情を浮かべていた。その表情をみていると、荒野の動きによって……というよりは、茅自身の奥底から湧いてくる快楽を、一心不乱に受け止めている……という風にも、見える。
今の茅は、もはや荒野の存在さえ意識しておらず、荒野が跳ねる度に深くなっていく悦楽の波に翻弄されている……と。
そう思う荒野自身も、機械的な動きで茅の中を往来しつつ、そこから得られる快楽に酔っている。
……ああ……。
もう十分に高まってきていた、荒野は思う。
おれたちは……茅と、おれは……つい半年前まで、面識さえ、なかったのに……今では……。
自分の中心から、熱い塊がわき出してくる感触を、荒野は自覚した。
「行くよっ! 茅、もう、行くからっ!」
荒野は茅の中をさらに激しく動きながら、叫ぶ。
茅は、言葉では答えなかったが、両腕と両脚を荒野の身体に回して、ぎゅっと荒野にしがみついてくる。
荒野と茅の、身体の前面が密着し、二人が汗まみれになっていることを、荒野は「肌で」実感した。特に、下腹部、陰毛のあたりは、汗とそれ以外の体液ですっかりぐしょ濡れになっている。
二人の濡れた陰毛がぶつかり合う場所は、荒野の動きが激しいこともあって、水音と茅の中の空気が外に漏れる滑稽な音が入り混じり、かなりのノイズが発生している。
しかし、行為に夢中になっている二人は、自分たちの行動が作り出すノイズを気にかける様子はない。
荒野は何度か「行くよっ! 行くよっ!」と繰り返し叫んだ後、実際に避妊具の中に熱い欲望をぶちまける。
茅は、荒野が急に動きを止めたことと、それに、自分の体内に差し込まれた荒野のパーツの感触の変化かから、荒野が終わったことを感じて、反射的に、さらに手足に力を込めて、荒野にしがみつく。
どちらからともなく口を重ね、そのまま舌を絡ませ合い、唾液を啜りあった。
密着した二人の身体が、ビクビク、を通り越して、ガクガク、揺れる。
二人とも汗まみれになっていた。お互いの呼吸音だけが、しばらく、聞こえる。
数分間、そうして抱き合った後、荒野は茅の上から離れ、ごろりと茅の横に寝ころぶ。荒野のモノが抜けると、茅のそこから、茅の体液がどろりと流れ落ちてきた。一度放出しているのだが、荒野のモノはまだ硬度を失っておらず、湯気をたてて天を向いていた。
荒野はすぐに平静な呼吸をするようになっていたが、茅はまだ、しばらくは、早い呼吸をして、せわしく胸郭を上下させながら、トロンとした半眼でぼんやりと荒野の顔を見つめている。
「……すごかった……の……」
やがて、茅が、荒野の横顔を観ながら、いった。
「途中から……何も、考えられなくなった……。
頭の中……真っ白になって……」
そういいながら、茅は、また荒野の肩の当たりに、頭をすり寄せる。
「……おれも……今までで、一番、すごかった……」
荒野も、呆然とした口調で答える。
「セックスって……こんなに気持ちいいもの……だったんだな……」
最近になって、荒野は何人かの女性と関係を持った。
が……やはり、茅との関係が、一番荒野を、満足させる……と、そう確信できた。
経験の浅い荒野には、茅とその他の女性とに、どういう差があるのか、しかとは分からなかったが……やはり……。
『……精神的な……関係とか、帰属感とか……』
そういう要素、なのだろうな……と、ぼんやりと、そんなことを思う。
何分かその姿勢のまま、休んだ後、荒野は唐突に、呟く。
「おれ……もう、茅が近くにいない生活……想像できない……」
特になにも考えずに、ふいと、口をついて出た言葉だった。
茅が、もぞもぞと動いて、それまで以上に、荒野に密着してこようとする。
それから、小さい声で、
「……茅も……」
と、いった。
その時、茅は、顔を荒野の肩口に密着させていたので、荒野からは、茅がどういう表情をしていたのか、確認できなかった。
ただ、肩に当たっている茅の顔は、その前後で心持ち、熱くなった気がする。
「……二人とも、汗まみれだな……」
荒野は、なんとなく照れくさくなって、そんなことを言いだす。
「シャワー浴びて……それに、シーツも換えよう。
そうしないと、風邪引きそうだ……」
荒野は、茅の肩を腕で抱えて無理矢理半身を起こした。
それから、立ち上がり、茅の身体を両手に抱えてバスルームに向かう。
茅は何も言わず、荒野のするがままに身を任せていた。
シャワーを浴びて軽く汗を流し、シーツを換えて再びベッドに横たわると、二人ともすぐに寝息を立てはじめる。
その夜は、二人とも、熟睡ができた。
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つづき]
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