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彼女はくノ一! 第六話(41)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(41)

「……あっ。ようやく来た……」
 樋口明日樹は、香也たちを複雑な表情で出迎えた。
「この人たちのことを避けて、わざと遅く来たでしょ……」
 そういって、後かたづけに入っている放送部員たちをみる。
 香也の思考法や行動パターンは、見透かされているのであった。
「……んー……。
 今週は、掃除当番……」
 香也は、とりあえず、そう返答しておく。少なくとも、嘘ではない。
「それにしても、遅すぎ。
 もう、一時間以上たっているし……」
 明日樹は、少し怒った顔をしている。
 楓は、「あっ。これは……遅れたことだけを、怒っているのではないな……」と、察した。明日樹は、楓から故意に目を反らしているように感じたからだ。
 明日樹は、香也と楓が一緒に来たことを……不満に思っている。
「……あの……」
 そこで、おずおずと、口を挟んでみる。
 楓自身が、この場で発言することが、いことなのかどうか……という判断は、実は微妙なところだったが、いわないで後悔するよりは、きちんと伝えるべきことを伝えておくべきだった。
「放送、ここでも聞こえたと思いますけど……わたしたち、茅様のテストの解説を、聞きにいって……それで、遅れました……」
「……あっ……。
 あれ……か……」
 明日樹は、虚を突かれた表情になる。
 楓が、いかにも申し訳なさそうな様子でそういったので、明日樹は、それ以上の追求を封じられた。
「そっか……勉強に、いってたのか……」
 そういうことであれば……明日樹も、おおぴらに香也を攻めるわけにもいかない。そもそも、美術部の活動は、強制参加なわけでもない。
「……茅様が一年生で、佐久間先輩が二年生を見ていました。
 今日、突発的に行ったにしては、随分、人が集まっていたようですが……」
「まぁ……あの二人、なら……」
 明日樹も、納得したように頷く。
 佐久間先輩、はもとより、茅も、ここ最近、放課後に行う勉強会で、その記憶力の確かさを、多くの生徒に印象づけている。
 自分の能力を、無償で他の生徒たちのために、公然と、役立てようとしているから……二人に、仮に妬みなどを抱いた者がいたとしても、公然とその感情を表沙汰にできない雰囲気が、形成されつつある。
 第一、こうして二人が行動をともにしていれば……。
「……茅ちゃん、来年、生徒会の選挙にでるとかいってたっけ?」
 明日樹は、楓に尋ねた。
 今朝、登校する時に、そんな話しがでていた。
「ええ」
 楓も、明日樹がいいたい内容を察して、頷く。
「ああしていると……茅様が、佐久間先輩の後継者だと、アピールしているようなものですね……」
 沙織できることは、茅にもできる……と、他の生徒たちに印象づけているようなものだ。現在の在校生にとって、半年前まで生徒会長を務めていた佐久間沙織の存在感は、それなりのものであり……。
「……他にも、いろいろなところで公然と動いているし……断然、有利だよね……茅ちゃん……」
「……ええ……」
 楓も、明日樹の言葉に頷く。
「ボランティアとか、あちこちで、顔をみるから……もうすっかり、有名人ですよね……。
 少なくとも、校内では……」
 マンドゴドラのポスターに出ていた頃にも、それなりに顔は知られていたが……今では、茅が外見だけの存在ではない、とアピールする機会が、いくらでもある。
 楓と明日樹は、期せずして、同じようなことを思いながら、顔を見合わせた。
 茅は……この先、この学校を……どのように、変容させていくつもりなのだろうか?
「とりあえず、明日あたり……樋口先輩も、行ってみた方がいいですよ。
 勉強になることは、確かですから……」
 楓は、とりあえず、当たり障りのないことをいう。
「……うん。
 明日は、そっちに寄ってみる……」
 明日樹も、素直に頷いた。
「……受験対策もあるし……佐久間先輩の解説なら、折り紙付きだもんね……」
 その時の明日樹は、毒気の抜かれた顔をしていた。
「……そんなに、すごいんですか?」
 撤収作業をほぼ終えた有働が、二人の話し割ってはいる。
「茅様の方は……参加希望者が多くて、途中から、図書室から別の教室に移りました。わたしたちのように、最初の方から聞いていた人は抜けたりしましたが、教室を埋まるだけの人は集まっていましたね。
 何の事前告知もなく、突発的にはじめたことを考えると、かなりの盛況かと思いますけど……」
 楓は慎重な口振りで、有働に説明する。
「なるほど……」
 有働は、頷いた。
「……佐久間先輩の場合、ネームバリューからいっても、それ以上であってもおかしくない……ですね……」
 ひとしきり、一人で頷いた後、放送部員たちに、
「……これから、動画撮影の準備っ!」
 と、宣言する。
「生徒の活動を記録にとどめるもの、放送部の活動のうちですから……」
 と、楓たちに説明して、大きな体を押り曲げて一礼し、他の放送部員たちを引き連れて、有働は、美術室を出ていった。
「……んー……。
 みんな、もう、出ていったの?」
 準備室で、放送部員たちが梱包しなおした絵をチェックしていた香也が、ようやく自分の画材を持って出てくる。
 こちらはこちらで、マイペースだった。

 香也は、画架に新しいキャンバスを置いた後、スケッチブックを開いて、そこに描いてある小さなラフスケッチを見ながら、がっ、がっ、一見、乱雑にみえる大胆な動きで、線を引いていく。
 楓は、後ろからそっと近寄り、スケッチブックとキャンバスの上に姿を現しつつある絵を見比べる。
 香也は、スケッチブックに描かれた、小さくて簡単なスケッチと相似形の、ただし、もっと大きくて緻密な絵を、瞬く間に、キャンバスの上に、描きだしてみせる。
 構図を当たるだけの簡単な線が引かれ、その線の間に、下地になる、暗色系の絵の具が塗りたくられ、その上に、様々な色が重ねられ……。
「……あっ」
 楓は、香也が何を描こうとしているのかに気づくと、思わず声を上げている。
「夕日……」
 最初のうち、暗い色ばかりを塗りたくっているので、なかなか気づかなかったが……楓が見守るうちに、絵の中はどんどん茜色に染まっている。
「……んー……。
 そう……」
 手を休めずに、香也は、ぼんやりとした口調で答える。
「……この前、テンちゃんが、見晴らしのいい場所につれていってくれたから……その時の光景を、忘れないうちに……と、思って……」
 香也の言葉の通り……今や、キャンバスの上には、日の入りの間際、夕日に染まった町の展望が、
はっきりと姿を現している。




[つづき]
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