2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

彼女はくノ一! 第六話(43)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(43)

 家の前で、香也は楓に鞄を預け、そのまま明日樹を送りにいった。
 楓は、「ただいま帰りました」と声をかけてそのまま玄関をくぐり、まず、香也の部屋に寄って香也の鞄を置き、それから自室に戻って制服を着替えた。
 着替え終わると、楓は台所に行き、真理に声をかけて、夕食の準備を手伝いはじめる。他の住人たちは、それぞれの事情でまだ帰ってきていないらしい。
 真理には、家事を手伝う代わりに、料理の仕方を教わっている。真理の料理は、例えば三島が作るものほど凝ったものではなかったが、そのかわり、レパートリーが広く、手軽に作れるものが多かった。また、同じような料理でも、味付けを工夫することでバリエーションを多くし、食べる側が飽きにくいようにする、ということも、教えて貰った。
 一言でいうと、真理の料理は、家庭の主婦としては、極めて実用的なのであり、他の住人たちも、手が空いている時は、今の楓のように、手伝ったり料理を教えられたりしている。
 しかし、最近では……ことに、真理が長旅から帰ってきてからは、もっとも長く真理に接しているのは、楓になっている。他の少女たちは……孫子や、テン、ガク、ノリは、今では家の外に、実質上、仕事を持っているような状態だった。テン、ガク、ノリの三人も、ボランティアの活動資金として企画されたシルバーガールズと、自分たちで使用するための装備開発、それに、ソフトウェア開発で、多忙を極めているようだった。
 それでも、孫子にせよ、三人娘にせよ、夕食が準備できる時間には、きちんと帰ってくるのだが……。
 ともあれ、真理と一緒に細々とした日常的な家事を行う時間は、今では、楓にとってもリラックスできる時間となっている。
 もともと、楓は、普段からにこやかな態度を崩さず、出来るだけ、表面に出さないように努めているので、気づいている者も少ないのだが……その実、神経が細かいところもあり、普段の眠りも、ひどく浅かったりする。
 そうした楓の神経過敏な傾向に気づいているのは、この時点では、荒野と孫子くらいなものだろう。それと、茅も、楓が抱える、根底的な部分の不安定さを見抜いているのかも知れないが……少なくともこの時点では、「そのことに気づいている」と、周囲の者に明言しては、いない。

 こうして、手を動かしていると、落ち着く……と、楓は思う。その安心感は、「自分が、何かの/誰かの役に立つことができる」という実感から来るものなのであるが、そのことを、楓はまだ自覚してない。
 楓が、常時、抱えている不安とは、「孤児である自分は、何者か、わからない」という思いであり、そこから出発して、楓は「自分が何者であるのか、明示してくれる者につき従っていきたい」という脅迫観念にも似た強い焦燥感を持つまでに至っている。
 誰かの命令に従っている以上、少なくとも、命令を発した人物は、楓を必要としてくれている……と、安心できる、という心理が、楓の行動を大きく規定している。また、「孤児=似たもの同士」であり、なおかつ、「自力で、自分が何者であるのか(=絵を描くもの)、自然体で自己規定して揺らぐことがない、香也」という存在に楓が惹かれているのも、そうした心理が多分に働いている。
 楓自身は、そうした心理を、ほとんど自覚していなかったが。
 楓が、真理と一緒に手を動かしていると落ち着くのは、真理が楓を、ごく自然な態度で「ごく普通の女の子」として扱ってくれ、その間、「自分が何者であるのか」という楓が持つ不安を、楓が意識しないで済むからだった。

 しばらく、真理の手伝いをしていると、すぐに明日樹を送ってきた香也が帰宅し、続いて、孫子、テン、ガク、ノリ、帰ってきて、すぐに家の中が賑やかになる。羽生が仕事から戻る頃には、夕食の支度は終わっており、後はみんなで食べるだけの状態になっている。
 居間で食事をしながら、テン、ガク、ノリの三人は、シルバーガールズの制作苦労話などを、身振り手振りでみんなに披露する。様々な手を尽くしても、実際に撮影してみると、最初の構想通りに行かないことが多々あり、それを、どうやって切り抜けるか……という話しが多かった。
 春休みがはじまり、茅の身体が空くまでの間、三人は、合成が必要なシーンの素材や、あまり人目のあるとこでは撮影できないようなアクション・シーンを、徳川の工場内で撮影しているところだ……という。
 日曜日、茅とのミーティングで最初の数エピソード分に関しては、大まかなプロットができあがっており、まだ、ちゃんとしたシナリオはまだ作製されていないものの、必要となりそうなシーンは、かなりリストアップされており、合成や加工に必要な時間のことも顧慮して、素材として使用できる映像を撮り溜めている……との、ことだった。
「……たいがいは、そのシーンをCGで加工すれば、それなりに対処できるんだけど……それが無理だったら、全体に影響がない範囲内で、シナリオの方を変更するんだけど……」
 と、テンは説明する。
 そのシナリオも、まだ完全に固まったものがあるわけではないのだが、実際に撮影する段になって、はじめて判明する問題点を、みんなで知恵を絞ってなとか予定通り撮影するのが、パズルを解くみたいで、楽しい……とか、いい、ガクやノリも、テンの言葉に大きく頷く。
「予定と変えちゃうと……後で、新しい素材とか加工シーンとかがでてきて、結局、問題を先送りにしていことになって、後になるほどスケジュールがきつくなると思うんだよね……」
 と、ガクが、テンの言葉を補足する。
「デジタルツールは自前で揃えているし、自分たちの使いやすいように、自由にカスタマイズできる……っていう点は、有利だけど、それでも、無限に時間があるわけではないから……」
 ノリも、そういって首を振る。
 多少の手助けはあるにせよ、メインで動いている三人は、主演兼企画兼プロデュース兼撮影兼特殊効果兼ソフト開発……などなど、持ち回りで何役もの役割を代わる代わる行っている状態であり……三人の卓越した知力、体力、それに、あうんの呼吸を可能とする長いつき合いがなかったとしたら、撮影も、短時間でここまで進捗することはなかっただろう。
「……なんか、話し聞いていると、想像していたよりも、ずっと本格的だな……」
 羽生が、そんな相槌をうつ。
「うん。
 本格的、本格的……」
 ガクが、何度も頷く。
「……トクツーさんが、工場使わせてくれるし、それに手が空いている一族の人たちが、手を貸したりしてくれるから、どうにかなっているけど……」
「……どうにかなってくれないと、困ります」
 そういったのは、制作資金を出資している、孫子だった。
「そっちで利潤をあげて貰わないと、ボランティアも、十分な活動が出来なくなります……」




[つづき]
目次

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
HONなび

デジパダウンロード
JPムービーズ
NVネットワーク

Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ