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彼女はくノ一! 第六話(44)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(44)

 孫子は、実家から持ち込んだ衣服や小物類を売り払って作った資金を、「シルバーガールズ」に投じている。孫子の立場を考えれば、「やる以上は、成功して貰わないと困る」という意見なのも、無理もないであった。
「……ぜんぜん、大丈夫だよ……」
 テンが、口唇を尖らせる。孫子に信頼されていないことが、かなり不満そうな表情をしていた。
「今までの感触だと、結構、反響とか手応え、感じるし……それに、経費も、現金はほとんど動いていないから……」
 ガクとノリは、テンの言葉に力強く頷く。
 三人は、「コンテンツ産業としての、シルバーガールズ」について、かなり自信を持っているようだった。
「成功しても、必要経費を差し引いた純利益は、全部ボランティアにまわす予定だけど……だかこそ、成功しなけりゃいけないし……みんな、そのつもりで趣味に走っているから……結果として、かなりいい出来になってきているんだ、今……」
 テンは、静かな中にも、自信を湛えた声で、そう続ける。

 食事が済むと、テン、ガク、ノリの三人は、「用事がある」とかいって、外に出ていった。三人が、夜間に外出することについて、真理は「気をつけていってね」と注意しただけだった。いくら、夜間とはいえ、三人に対してどうこうできる者がいるとは、真理も思ってはいない。もともと、真理は、出来る限り子供たちの判断や自主性を尊重する放任主義者だし、注意、というよりは、ほんの挨拶代わりの言辞にすぎないのだろう。
 香也はというと、いつものように、庭のプレハブに向かう。
「……やあ」
 プレハブの前に荒野が、腕を組んで待ちかまえていた。
「久しぶりに、見学させて貰うよ」
「……んー……」
 香也は、不審に思っていることを示すために、軽く首を傾げながら、答えた。
「……いいけど?」
 荒野も年末頃までは、頻繁にプレハブに出入りしていたが、最近では、滅多にこないようになっている。
 特に、「何の用もなく、荒野が単独で……」というのは、最近では、皆無に近い。
「いや、その……」
 荒野は、照れくさそうに笑ってみせた。
「茅が、しばらく、夜に外出することになったんだ。
 一人でぽつんとマンションで待つのも、な……」
 ……そういうことか、と、香也は納得する。
 香也は、自分が、荒野は一人でいることに、不自然さを感じていることに気づき、少し驚いた。
 いつの間にか、香也の中では、「荒野と茅が一緒にいる風景」が、当然のものとなってしまっている。もちろん、荒野と茅とでは、学年が違うわけし、常に一緒にいるということも、ないのだが……。
『……二人一緒だと、絵になるからかな……』
 長い黒髪が印象的な茅と、プラチナブロンドの荒野とは、確かに、同じ視界に入っていると、風貌としては好対象であり、香也の心証としては「しっくり来る」のであった。
 今すぐ……とは、いかないが……そのうち、二人が並んで立っているところを、描いてみたいな……と、香也は、漠然と思った。香也が自分から人物画を描きたいと思うことは、かなり珍しいことだったが……当の香也自身は、そのことを不自然だと思っていない。
 香也はプレハブの中に入り、荒野が来ているからといっても特に身構えることなく、いつものように準備をはじめ、自分の絵に向かいはじめる。

 しばらくすると、風呂からあがった孫子と楓も、プレハブにやってきた。荒野が来ているのを知ると、孫子は軽く眉をひそめ、楓は目礼をしたが、二人とも、絵に集中しはじめた香也の邪魔はしたくなかったので、口に出しては何もいわない。
 香也は、
『……こういうの、なんか、ひさしぶりだな……』
 と思いながら、背中に感じる三人の視線を、極力意識しないように努めながら、目の前の絵に集中しようとする。
 背中に三人の存在を感じることで、手の動きに何かの力で後押しをされているような気分になって、いつもよりも描くペースが、明らかに早くなっていた。
『……他人の……視線は……』
 力だ……と、香也は実感する。
 たった一人で描いていた時と、今とを比較すれば……明らかに、今の方が、描く腕の速度が、加速している。
 それまで……自分は……。
『……たった一人で……』
 いったい、何をやって来たのだろう……と、香也は思う。
 絵は……見る人がいてこその、絵……なのではないか……と、ごく当たり前のことを、今更ながらに認識する。
 絵を描くことは、一人でもできる。
 でも、描きあがった絵を見てくれる人がいなくては……その絵も、意味がない。
 誰かに見て貰うあても、まるでなく……小さな頃から延々と絵を描き続けていた自分は……本当に、今まで……何を、やっていたのだろうか?
『……ぼくは……』
 手を動かしながら、香也は、思い返す。
 一番、古い記憶がある頃から……何かを、描いてた気がする。

 だけど……そもそも、何のために……ぼくは、絵を描きはじめたんだっけ?

「……たっだいまっー!」
「おにーちゃーんっ!」
「今帰ってきたよーっ!」
 しばらく、静かに香也が絵を描きつづけ、それを他の三人が見守る……という時間が過ぎ去った後、テン、ガク、ノリの三人が、けたたましく声を掛け合いながら、プレハブの中に乗り込んできた。
「……か、かのうこうや……」
「何で今頃、こんなところに……」
 そこで三人は、香也の姿を認めて、棒立ちになる。
「人の顔をみるなり、今更ながらに、失礼なやつらだな……」
 荒野は、故意に渋面を作ってみせた。
「それで……現象のところは、どうたった?」
 荒野がそういったので、香也は、はじめて三人の外出先を知った。何のために、総出で現象の家まで出向いていったのかは、香也には、見当もつかなかったが……。
 楓も孫子も、あらかじめその辺の事情を聞かされていたのか、荒野の言葉を聞いても、これといった反応を示していない。
「……まずは、簡単な概論と説明。
 それと、感覚拡張の適正試験をされたの……」
 三人の後ろから茅が進み出て、そう説明する。
 どうやら、茅も三人と一緒に現象の家に行っていたらしいが……当然のことながら、香也には、茅の説明が具体的に何を意味しているのか、まるで理解できない。
「……感覚、拡張?」
 荒野も、はやり茅の言葉の意味がとれないのか、軽く眉をひそめてみせた。
「最終的には、もっといろいろ拡張していくそうだけど……とりあえず、今日は、聴覚」
 茅は、荒野に頷いてみせた。
「……何種類もの音叉を取り出して鳴らせてみせて、どこまで聞こえるか、一人一人調べたて……その後、特殊な笙で、頭に刺激を与えられたの……」
 その……「特殊な笙」とは、いったい何で……何のために、三人と茅は、現象のところにいって、そんなことをしているのだろうか……と、香也は、疑問に思った。




[つづき]
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