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彼女はくノ一! 第六話(45)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(45)

 三人と茅にしばらく話しをさせたから、楓と孫子は、三人に向かってお風呂に入りにいけ、と即し、三人は、素直にその言葉に従ってプレハブを出ていった。
 それを機に、荒野と茅もマンションに帰っていき、プレハブの中には香也、楓、孫子の三人が残された。 
 香也はといえば、人数が増えたり減ったりしても、外見上は特に態度を変えることなく、淡々と手を動かし続ける。
 他の者がにぎやかに話していても、返答を求められない限りは自分から話しに加わる、ということもない。また、他の者も、絵に集中したいという香也の意向を尊重しているので、香也の背中に返答や相槌が必要な話しをすることはなかった。
 風呂に入りにいった三人も、小一時間もすると、パジャマに上着をひっかけた姿で香也を呼びに来る。それを機に、香也も画材を片づけはじめた。いつの間にか、これから風呂に入れば、後は寝るだけ、という時間になっていた。

 真理が帰ってきて以来、特別な事情がない限り、香也の入浴の順番は、一番最後になっている。何度かの乱入事件があったことを知った真理が、気を回すようになった結果だった。香也としても、特に順番にこだわりはなかったので、この方が気が楽だった。
 手足を伸ばして、こころなしかぬるめのお湯に浸かっていると、長時間、画架に向き合って強ばっていた手や肩がほぐれていくのを感じる。
 自分では、リラックスして描いているつもりだったが、こうしてお湯に浸かってみると、絵を描いている最中、必要以上に手や肩、背中が緊張していたことが、わかる。長年、やりつづけて、慣れいる分、意識せずに済んでいるが……香也にとっても、絵を描くことは、それなりに精神的な緊張を強いられる作業だった。

『……なんで……』
 こんな、肩が凝るまで緊張して……何時間も、何年間も……自分は、絵を描いてきたのだろう……。
 湯船に身体を延ばしながら、香也は、今まで気にしたことがなかった疑問について、ぼんやりと考える。
 絵を描くようになったきっかけは……よく覚えていない。
 気づくと、誰とも遊ばずに、何かを描いていたように思う。
 それは、ずっと昔からで……おそらく、この家に来る、前からのことで……その証拠に、幼いころ、順也に初歩的な画材の使い方を習った時も、『これ、もっといろいろな種類の絵がかけるようになる』と思ったことを、香也は記憶している。
 と、いうことは……順也から、絵を描く楽しさを習ったのではなく、順也に出会う前から、香也は、有り合わせの紙と筆記具で……当時の香也の年齢からいって、おそらく、クレヨンとか色鉛筆とか、そんなものだったのだろう……誰かにお知られる前に、まったくの自己流で絵を描いていた……ということになる。
 事実、香也が今の時点で想起できる、もっとも古い記憶は、幼い自分が、施設の一室らしい場所でクレヨンを使っている場面であり……。
 それ以上に古いこととなると、香也はまるで記憶していない。
 今までは、そんな過去のことは、気にかけたこともなかったが……。
『……廃棄物同士、か……』
 現象がいった言葉が、香也の脳裏に引っかかっていた。
 あれは……どういう、意味だったのだろう……。
 現象は、今のままでうまくいっているのだがら、無理に思い出させてバランスを崩す必要もない……というような意味のことも、いっていた。
 裏を返せば、香也が今、忘れていることを思い出すと、何か、不安定な状態になる、ということで……。
 香也は、そんなことをぼんやりと考えながら、浴室の天井を見上げている。
 結局は、いくら考えても香也自身にはどうにも手の出しようがない問題であり、また、現象がいうように、気にし過ぎるとかえって今の良好な状態を損ねる可能性もあるので、気にし過ぎない方がいいのか……という気も、している。
 だから、ぼんやりと天井を見上げながら、適当に身体が暖まった時点で、香也は「そんなことを、考えても、しかたがない」という当たり障りのない結論を、とりあえず出しておいて、思考を中断する。

 翌朝、香也は孫子に起こされた。
 先週にはじまった「当番制」とやらは、今週に入っても継続しており、日曜日に香也はあみだ籤を用意させられ、その結果、昨日は楓が一日、香也に張り付いていた。
 周囲に他の少女たちがいない状態では、楓も必要以上に香也にべたべたしてくることもなく、そういう意味では安心して過ごすことが出来たのだが……性格が異なる孫子に、そうした楓の「控えめさ」を期待するのは無理だな……と、至近距離にある孫子の顔を見上げながら、香也は起き抜けの不明瞭な思考で、そんなことを思う。
 目を覚ますと、孫子が香也の口唇を塞いでいた。いや、息苦しさを自覚して目を開けると、孫子の顔がどアップになっており、そこで香也も、今、自分の身に何が起こっているのか、自覚した……という方が、より正確な記述なのか。
 目を覚ました香也は、孫子の身体を押し退けようと、孫子の肩に手を置いた。
 すると、香也が起きたことを察した孫子が、いよいよ上から香也に身体を押しつけてくる。
 孫子は、布団に寝ている香也の上にうつ伏せに寝そべって、香也の口を塞ぎながら、身動きを封じている。
 んんんんっ……と、口を塞がれながれているため、不明瞭な音を喉の奥から漏らす。
 すると、孫子は、僅かに香也の口を離し、
「……はぁっ!」
 と、香也が息をついだところで、すかさず、その口の中に舌を割り込ませてきた。
 香也が首を左右に振って振り払おうとしても、孫子は、香也の上に覆い被さったまま、首にしっかりと腕をまわして離れようとしない。
 それどころか、香也の口の中を舌で探りながら、二人の身体の間にある掛け布団を手探りで剥ぎ、香也の胸板に、自分の身体を押しつけてくる。
 パジャマの薄い布地越しの感触で、香也は、孫子がすでに制服を着用していることに気づいた。
 ちらりと視線を横に走らせて、香也は目覚まし時計で時刻を確認する。
 目覚ましが鳴る、十五分前。
 自分の身に、何が起こっているのかを把握すると、香也は、少し冷静になった。
 どうやら、孫子は……香也と二人きりになれる、僅かな時間をこうして作って、香也とこういうことをしているらしい……。
 おそらく……孫子の存在を、香也の中で大きくするために。
 たとえ動機が、性的な欲求からくるものであっても、自分が香也に必要とされる機会を増やす……というアグレッシブなアプローチは、理解してみれば、何となく、孫子らしい……と、香也は思う。
 香也がそんなことを考えている間にも、孫子は掛け布団を手探り剥いで、いよいよ香也にのしかかって身体を密着させてくる。
 布地越しにでも、孫子の身体が熱を持ちはじめていることが、香也にも、感じられた。




[つづき]
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