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彼女はくノ一! 第六話(53)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(53)

「あ……。
 それ……似たようなこと、茅様にも相談されていましたけど……」
 楓は、荒野の提案に対して、そのように答えた。
「……教材の整備が一通り終わってから、取り組む予定でした……」
「……そうか」
 荒野は、あっさりと頷く。
「やっぱり、その程度のことは、考えているよな……」
「……それ……作業量が、膨大になりません?」
 二人の会話を聞いていた孫子が、近寄ってくる。
「生徒の一人一人に対応する……ということになると……労力的なコストがかかりすぎのではなくて?」
「……そうでも、ないですよ。
 今の構想では、プロトタイプのフォーマットをつくって、何人か選考試験してみて……それで良さそうだったら、後は、利用者が自分で入力したり、あるいは、ザーバから供給される小テストをやってみて、その成績で達成度を判断されたり、で……。
 作業量的なことでいえば、むしろ、今までの、三学年分の全教科の教材をデータベース化する方が、大変なくらいですが……でも、もう、それも、終わりに近づいていますし……」
「そうそう……」
 今度は、堺雅史が、話しに加わってくる。
「スキャナーとかOCRソフトをフル活用したにせよ、三学期の半分くらいの期間で、あそこまで取り込めるとは思わなかった……。
 データ取り込みの単純作業に、自発的に取り組んでくれた生徒が意外の多かったのと、それと、茅さんとか佐久間先輩の二人が全体像把握して、要所要所で必要なチェック入れてくれたんで、作業量が膨大な割には、スムースに進んだよね……」
 部活でパソコン実習室に詰めていることが多い堺は、その辺の実態をつぶさに観察する機会に恵まれている。
「……今の話し聞くと、要するに、個々人向けにどこまで覚えているのかチェックして、その結果をデータベース化するってことでしょ?
 だったら、一番面倒くさい部分は、もうクリアしちゃっている、ともいえるし……最初のチェックシート作りが少し手間がかかりそうだけど、それも茅さんとか楓ちゃんがテンプレ作ってくれれば、なんとかなりそうだし……。
 現在運用中の、携帯連動の単語帳だって、個々のユーザーの成績を記憶していて、ランキング表示する機能、ついているわけで……それを、多少複雑化するってだけのことでしょ?
 今の段階で単語帳のシステムが問題なく動いているってことは、全教科にまで発展させても十分にいけるってことだと思うけど……」
「そういう……もんなのか?」
 ことなげに請け負ってみせる堺に向かい……荒野は、呆気にとられた表情で頷き返す。
「……データもあるし、ノウハウもある程度持っているから……それに加えて、茅さんや楓ちゃんがいてくれれば、うちの部でも、もうそれくらいのことはできるようになってます。
 まるっきり、初体験のシステムってわけでもないですから……」
 堺は、平然と荒野に頷いてみせた。
「……いつの間にか……凄いことになっていたんだな……この学校のパソコン部……」
 荒野は、呆然と呟く。
「そりゃあ……普段から、鍛えられていますから……」
 堺は、平然とした顔をして、肩を竦めた。
「……学校のマシンも、ここに来てようやく、有効に活用されはじめたんじゃないですかね。
 今までは、そこにあるだけで、ろくに使われてなかったし……」
「……しれっといってますけど……」
 孫子も、荒野と同じく、若干、呆気にとられた顔をしている。
「それだけ規模のシステムの……外部に発注でもしたら、相当な開発費が必要になりますけど……。
 少なくとも、学校の部活でさっらとやるレベルではないのでは……」
「……周囲に、もっと凄い人たちが、ごろごろいるので……まあ、感化されているわけです」
 堺は、相変わらず平然とした顔をして答える。
「だって、あんなちゃんや樋口君……大樹君が、わざわざ勉強するために居残る、なんてこと、以前なら、考えられませんよっ!」
「……そーゆーところで人の名前だすなーっ!」
 柏あんなが、堺の肩口を、掌で、ぺしっと叩く。
「……まあ、いいんじゃないか、いい影響なら……」
 今度は、飯島舞花が、近寄ってきた。
「あれ、放送部の連中は、今日撮った映像も、ネットで見られるようにするとかいっていたし……」
「ああ……そういや、玉木たちも、今朝、そんなこと、いっていたな……」
 荒野も、呆然と頷く。
「茅ちゃんたち、あのルックスだから……内容そっちのけで、個人のファンとかが、学校外でできたりして……」
「……あー……。
 そういうのも……ありうる、のか……」
 気の抜けた表情で、荒野が呟く。
「……いや、もう……。
 どんどん、様々な事態が……おれの認識できる範囲内から飛び出していくような……」
「……情けないこと、いわないっ!」
 孫子が、うなだれた荒野を一喝する。
「物事が、常に自分の思い通りに、動くものですかっ!」
「……そうそう」
 舞花が、孫子に同調して頷く。
「おにーさんは……あれだ。
 自分自身で何とかできることが多いから、わたしらみたいに、何も出来ない普通の学生の気持ちが、よくわからないんだな……。
 自分の周囲のことを、自分の意志でコントロールできない……なんて、わたしたちにしてみれば、ごく当たり前のことだし……それを不安に思えるっていうのは……やはり、おにーさんは、恵まれているんだと思うよ……」

 荒野たちがそんな話しをしている間に、楓は、自分が話せることから話題が逸れたと判断し、香也のもとに近寄って、香也がつまっている方程式の解き方について、丁寧に説明しはじめた。



[つづき]
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