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彼女はくノ一! 第六話(54)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(54)

 結局、その日は、時間的にも半端になってしまったということで、香也も明日樹も部活をやらず、そのままずるずると勉強にいそしむことになった。周囲に顔見知りが大勢いて、がやがやと話したり教えあったりしていたせいで、とりたてて「強制されている」とかいう固っくるさは免れているわけだが、それにしても、勉強嫌いの大樹やあんなが、意外に嫌がることもなく、むしろ、積極的に取り組んでいる姿が、香也には印象的だった。
 結局……勉強そもものが嫌い……というよりも、学校の授業の雰囲気が嫌い……なんだろうな……と、香也は、二人について、思う。なんだかんだで、周囲の者がつきっきりで説明してみると、二人とも、飲み込みはそれなりに、いい。決して、理解力に劣るわけではなく……長時間、じっとしているのが、苦手なのだろう。だから、こういう賑やかな雰囲気の中でなら、嫌がる理由もない……。
 そこいくと、香也自身は、「勉強嫌い」というより、「勉強より好きなことがあって、そっちを優先させている」た結果の不登校であり、学力低下だった。
 保護者である真理が放任主義だったため、やりたい放題だった、と、言い換えてもいい。
 しかし、ここに来て、孫子や楓という強力な「準保護者」が丁寧な物腰で「絵を描く」という香也にとっての逃避先の意味を理解した上で、なおかつ、「それでも、最低限の知識は必要」と理詰めで迫ってきたので、香也は消極的に従っている。彼女たちの意向に逆らうと、結果的に、香也にとってかなり不本意なことになる……と、学習していたからだ。
 正直、最初のうちは、かなりいやいやだったのだ。しかし、今では……それなりに、面白くも、思いはじめている。
 基礎知識が充実してきたおかげで、授業の内容がかなりわかるようになったから、でもあるし、また、香也にもそれなりに好奇心というものがあり、知識が増大することに対する喜びというものがあったからだった。
 つまり、最近の香也は、それまで感心がなかった様々な事柄に、感心を持ちはじめている。
 何しろ、ごく身近にいる、自分と同じような年齢の少女たちが、学校に、あるいは、地域社会に……現に、少なからぬ影響を与えはじめている。
 香也は、その成果について、「彼女たちの特殊な能力」が原因である、とは、考えない。
 香也には、彼女たちは、その能力がどうあれ……やはり、自分と同年配の少女たち……としか、認識できない。その……年端もいかない……本来なら、保護者が同伴していなくては、かなり行動を制限される年齢の少女たちが、大人顔負けの活躍をしているのを間近に見るうちに……香也は、絵を描く以外、何の取り柄もない自身を省みて……まあ、その、ぶっちゃけ、香也自身は、かなり見劣りするよな……と、思いはじめている。
 多少の努力をしても、香也を慕ってくれる同居人の少女たちのうちの誰であれ、とてもではないが、釣り合うようになれるとも思わないのだが……せめても、もう少し、「普通」に歩み寄ってみよう……と、最近の香也は思いはじめている。
 思えば……香也は、ごく数ヶ月前まで……絵、しか、重要に思わなかったし、家族以外の知り合いも、ほとんどいない状態だった。
 それが気が付ば……。
『……みんなが、いるし……』
 香也は、教室内にいる友人たちを、そっと見渡す。
 わずか半年前の香也は、今の香也の状態を、想像できただろうか?

 そのまま、割と賑やかに全員で勉強しているうちに、下校を即すチャイムと校内放送が流れ出す。みんなでそそくさと荷物を片付けはじめ、下駄箱のあるエントランスまで降りる。
 家が少し遠く、自転車通学をしている堺雅史と柏あんなとは、校舎を出たところで別れを告げた。
「ほとんど、登校の時と同じメンバーだな……」
 飯島舞花が、ぽつりと呟く。
 放送部の用事でもう少し後まで残っている玉木を除けば、登校時の面子が全員、揃っていた。
「……茅とか楓経由で人が集まると、こういう構成になりがちだよな……」
 荒野も、頷く。
「今日のは、登校の時に話しをしていたから、余計に……ではなくて?」
 これは、孫子。
「でも……水泳部の人たちも、途中から大勢来ましたよね……」
 と、楓。
「いや……それ……。
 うち、ほとんど、まーねーか柏目当てで入部してきたやつらが多いから……それに……皆さんも、アレだし……」
 こめかみを指で掻きながら、栗田が楓に応じる。
「今日のも……出来るだけ、伏せておいたんだけど……やっぱ、実際に集まっちゃうと……ねえ?」
 栗田は語尾を濁して、舞花に話しを振った。
「……あー……」
 舞花も、栗田の言葉に頷く。
「わたしらのはともかく……でも、多いよな。
 放課後、茅ちゃんとか佐久間先輩が目当てで残っているやつら……。
 これで、ソンシちゃんとか楓ちゃんまでついてくる、って前評判があったとしら……まあ、確実に、収拾がつかなくなるだろうから……事前に情報伏せていたのは、正解だよなあ……。
 楓ちゃんはパソコン実習室にいけばたいているけど、放課後のソンシちゃんは、レアキャラだし……」
「……れあきゃら?」
 孫子は耳慣れない単語に、一度、首を傾げてから、すぐに意味の見当がついたのか、一人で頷き、ついで、軽く眉をつり上げた。
「レア……はともかく、わたくし、キャラではなくてよ」
「そう、それ。
 ソンシちゃんはあれだな、少し怒ったくらいの表情のが、魅力的だよな……」
 飄々とした口調で、舞花がいなす。
「……飯島……。
 才賀に軽口叩けるの、この学校ではおれを除けばお前くらいなもんだと思うぞ……」
 荒野が、呆れたような感心したような口調でいう。
「まーねーは、あれ、昔っから、こう、剛胆なところ……でっ! でっ!」
「……余計なこという子は、この場で締め落としちゃうぞー……」
 口を挟もうとした栗田の首を、舞花が背後から羽交い締めにする。
「……死なない程度にしておけよー……」
 荒野が気の抜けた声で注意しておいた。
 舞花のほうが栗田よりも三十センチほど背が高いので、加減を知らないと確かにしゃれにならない。
 幼少時の舞花の行状を知っている明日樹と大樹が、どこか畏怖を含んだ視線で、じゃれ合っている二人をみていた。
 舞花に抗弁しようとしていた孫子は、話しの接ぎ穂を失って、どこか残念そうな顔をしている。




[つづき]
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