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彼女はくノ一! 第六話(58)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(58)

 教室までに行く途中の廊下に、何カ所か、香也の絵が掲示されてた。絵の脇には、その絵が描かれた場所の住所と簡単な地図、ボランティア活動の現状説明、参加者の募集告知、サイトのアドレス……などが印字されたプリントアウトも、貼り出されている。絵を描いた香也の氏名も、当然、その紙に、印字されていた。
 ……この調子が、しばらく続くのか……と、基本的に目立ちたくない香也は、少し憂鬱になる。
 しかも、今の時点では、まだ校内にとどまっているが、有働たちが準備しているポスターが完成すれば、校外のあちこちに、香也の絵が掲示されることに予定である。
 このことで、香也の名前と、香也が絵を描いていることは、かなり広い範囲で知られるであろうことは、容易に予測がついた。
 校内でこそ、香也の顔は、「楓たちの一緒にいることが多い、生徒」として知られるようになっている。が、それはいわば「付属物」として、知られている状態であって、香也自身の言動の成果が、知られているわけではない。
 香也が美術部に所属していることを知っている生徒は、それなりにいるのだろうが……実際に、香也の絵を見たり、画風を知っていたりする生徒は、まだまだ少数派の筈だった。そもそも、香也のような、目立たない生徒のことを、いちいち気にかける生徒も、そう多くはない……。
 ところが……ここに来て、香也自身のことが、広く知られる素地が、出来てしまった。
 たかだか、多少、絵が描ける……という程度のことでは、過分に評価される、ということもないだろう。まだしも、楽器をうまく演奏できる、とかいう方が、注目を集めやすい……と、香也も、思う。絵が描ける……というのは、香也たちの年頃の少年少女にしてみれば、あまりにも地味で、魅力の欠ける特技だと。
 しかし……これまでの香也は、そもそも、存在自体、他の生徒たちに、あまり意識される機会に恵まれないくらいに、目立たない一生徒、だったのだが……。

 幸いなこととに、香也と楓、茅が教室に入っても、特にクラスメイトたちに注目される、とか、取り囲まれる、という椿事は起こらず、普段と変わらぬ雑然とした雰囲気が維持されていた。
 玉木や有働が休み時間に頻繁に出入りして、香也に絵の依頼や打ち合わせを行うので、同級生たちにしてみれば、今更、香也の絵が校内各所に掲示された程度では、インパクトに欠けるらしい。
 香也は、自分が同級生たちの注目を浴びることもなく、教室内の空気がいつもと変わりないことに、安堵を覚えたながら、自分の席につく。
「……ねーねー……」
「校内のあちこちに飾られていたね、狩野君の絵……」
 矢島と牧本が、香也の席に近寄ってきた。
「やっぱり、狩野君、うまいから……」
「来年は、面倒見てくださいね、次期部長……」
 この二人は、来年、マン研と美術部の併合を目論んでおり、その目論見は、現状では誰も邪魔する者がいないので、よほどのことがない限り、そのまま、完遂される公算が高い。二人が、来年度のはじめに、美術部への転部を届け出れば、マン研は、そのまま自動的に廃部になる筈だった。
 矢島と牧本は、どうした加減か、年齢不相応の画力を持つ香也を、過剰に頼りにしている。
 ……絵以外のことになると、からきしなのにな……と、香也などは、自嘲混じりに思うのだが……。
「……あー。
 狩野君……。
 思ったよりも、派手なことになっているね……」
 そういって近寄ってきたのは、柏あんなだった。
 こっちは、単純に喜んでいる矢島、牧島の二名とは違い、どことなく心配そうにしている。あまり注目を浴びずにひっそりとしていたい、という香也の思惑を理解しているから、今回のことも、それなりに心配しているのだろう。
 ことに、あんなは、当初、「香也の方が、二人に対して無理なアプローチをかけている」という思いこみを持っており、その後、事実はむしろその逆であることを悟ってからは、香也寄りの視点も持つようになっている。
「……んー……」
 香也は、不明瞭な発音で、もごもごと答える。
「でも……あんな絵なんて、あんまり、気にかける人もいないと思うし……できるだけ、気にしないようにする……」
「うん。そうだね。
 そういう風に考えた方が、いいと思う……」
 あんなは、香也の言葉に、こくこくと頷く。
「なんかあったら、他のみんなにも相談して……って、楓ちゃんとか才賀先輩とかが、黙っていないか……」
 そんなことをいいながら、あんなは一人で頷きつつ、自分の席に戻っていった。
「……た、確かに……」
「次期部長は、強力なガーディアン、引き連れてるし……」
 矢島と牧本は、そんなことを言い合いながら、顔を見合わせた。

 香也と楓、孫子の三人の関係については、転入初期のごたごたを含めた大小のトラブルを経て、少なくとも香也のクラス内では知らない者がない状態となっていた。狩野家の中で繰り広げられたあれこれは口外する者もおらず、多分に憶測が含有した「噂」レベルの理解のされ方なわけだが……その憶測とか噂とかを凌駕した経験を、香也は、何度か現実にしていたりする。
 しかし、純朴な同級生たちが、そのような過激な想像力を持つわけもなく、仮に持っていたとしても、その想像が現実化している、などと思うわけもなく、せいぜい、少年向けラブコメマンガ程度のさや当てがあるだけだろう、というのが、三人の関係に関する、この時点での、校内での平均的な評価であった。

「それでさ……」
「次期部長、あのロリっこメイドは……なんなの?」
 矢島と牧本は、「興味津々」といった感じで、香也の方に身を乗り出してくる。二人のとって、香也は「次期部長」で確定、らしい。四月になれば、「次期」が取れて、「部長」と呼ばれるのだろう。
 二人の真剣な表情をみて、椅子に座ったまま、背をそらして引き気味になる香也。
「……ロリコンは、ビョーキです」
 柏あんなまでもが、目にあやしい光をたたえながら、香也を睥睨しはじめる。
「な、なに……って、その……。
 同居人の一人っていうか……」
 香也は、露骨に動揺しながら、何とかそう答えた。
「狩野君のうちに下宿している三人が、シルバーガールズやっているとか、玉木さんたちとつるんでいるとかいうことは、割れてるの。
 でも……あの三人は、狩野君にとって、何なの?」
 あんなは、香也にとって、非常に答えにくい質問を、さらりとしてのけた。




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