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彼女はくノ一! 第六話 (59)

第六話 春、到来! 乱戦! 出会いと別れは、嵐の如く!!(59)

 休み時間中には、有働と玉木、あるいは他の放送部員たちが、入れかわり立ちかわり校正刷りを持参して香也を訪ねてきた。昨日の放課後に、かなり突っ込んだ打ち合わせをしているため、香也も自然と印刷用語のいくばくかを記憶しており、自然と、話し合いは白熱して来る。元版は、経費削減のため、学校のパソコンとソフトを使って作成しているとかで、色合いやロゴのデザイン、大きさ、構図……など、かなり細かい部分にまで、香也に判断を求めてきた。もちろん、おおもとの原版は放送部員で作成するのだが、ヴィジュアル面でのセンスは、香也の方に一日の長があり、問われるままに、「この箇所は、もっとこうした方が……」と香也のがアドバイスを行うと、放送部員たちは一様に感心したように頷いて、帰っていくのであった。
 同じクラスの生徒たちは、もちろん、そうした光景を奇異の表情で見守っていた訳だが、そのうちに慣れたのか、表面上、気にしなくなった。
 ただ……日に何度も、休み時間のたびに、上級生を含めた生徒たちが、入れかわり立ちかわり香也の意見を伺いにやってくる……という事実は、いやがおうでも同じクラスのクラスの生徒たちに、印象づけられる。
 香也は……楓や孫子、あるいは、荒野や茅の陰に隠れているだけの、生徒ではない……と、そのように、認識されはじめていた。

「今日は……現代国語、だったっけ?」
 あっと言う間に昼休みが過ぎ去り、五時限面が終わる。
 その日の最後の休み時間に、柏あんなはげんなりとした声を出した。
「……比較的、点数を取りやすい科目、ではあるんだけどねー……」
 たまたま近くにいた羽田歩が、あんなに同調する。押しが弱いため、委員長などを押し付けられているが、歩もあんなと同じく、あまり勉強は得意な方ではない。
「……昨日も、茅ちゃんの授業、あったんでしょ?
 そっちに参加すればよかったかな……」
 羽田歩は、あくまで気弱な声を出す。
「……今からでも遅くはない……」
 あんなは、歩の手を、がっしりと握った。
「今日の放課後、一緒に残ろう。
 わたしみたいな落ちこぼれにも、誰かしらが懇切丁寧に教えてくれるし、期末試験の対策なんかも教えて貰えるから……」
「……あんなちゃん……」
 羽田歩は、あんなの手を握り返す。
「……死なばもろとも、とか、自分だけが苦労すんのはいやー、とか……そんなこと、考えているでしょう……」
 別に、あんなの気遣いに感動して、手を握り返した……ということでは、ないらしかった。
「………………うん。
 死なば、もろとも……」
 あんなが返答するまで、微妙に間が空いていた。

「……誰だ……。
 現国が、点数取りやすいなんていったの……」
 試験が終了し、答案用紙が回収されると、柏あんなは机につっぷして死んでいた。
「……はいはい。
 あんなちゃん。
 お掃除の邪魔になるから、早く外に出て……」
 さきほどのお返しとばかりに、羽田歩があんなの襟首を持ち上げて、あんなの上体を持ち上げる。
「……掃除が終わったら、ご期待通りにみんなでお勉強、しましょーねー……」
「……何、張り切ってんの?」
 あんなは、うろんな目付きで歩を見返す。
「……ぼちぼち、参加者が多くなったんで……というか、このクラスも、大半が居残ることになったんで、茅ちゃんに仕切りを任されたの。
 掃除当番が掃除している間に、パソコン実習室につきあって。
 あんなちゃん、力があるんだから……」
「……パソコン実習室?」
「茅ちゃんが、休み時間中に、教材をプリントアウトしておいたんだって。
 紙の束って重いけど、あんなちゃんならそれくらい、大丈夫でしょ……」
 歩はあんなを引きずるようにして、教室を出て行く。
 試験期間中は、帰りのホームルームもなかったので、おおかたの生徒が廊下に出ると、香也たち掃除当番が掃除を開始した。

「……確かに、ほとんど全員、残っているし……」
 分厚い紙の束を両腕に抱えたあんなと歩が戻ってきても、クラスの生徒たちは、ほとんどそのまま残っていた。
「まあ……明日のテストとか、期末の予想問題とかも、教えて貰えるっていうし……」
「それに……三日目だよ?
 前日に、残って教えて貰った人が、軒並み、テストでいい感触を得ていれば、それなりに、話題にはなるわさ……」
 交互にそう答えたのは、矢島と牧本だった。
「……ぼおっと突っ立ってないで、いくらかでもこのプリント、持ってよ……。
 これ、意外と重いんだから……」
 歩がジト目になって、二人にいった。
 矢島が、教室内をのぞき込み、前の方の掃除が終わっていることを確認する。
 そして、ちょいちょい、と手招きして、プリントの束を持った歩とあんなを教壇に呼び寄せる。
「重いのなら、いったん、ここに置いたら……」
 と、教師用の机の上を指さした。
「……あくまで、自分では持たないつもりか……」
 ぶつくさつぶやきながら、歩は教室内に入り、よっこらゃしょ、と声をかけて、紙の束を机の上にどさりと落とす。
「……ふぅ。
 重かったぁ……」

「……柏が持ってきたプリントは、こっちの教室に……」
 歩の後をついていこうとしていたあんなの肩を、とんとん、と指で叩き、茅はあんなを隣の教室に誘導した。
「こっちのプリントは、期末対策用。
 羽田が持ってきたのは、明日のテスト対策用……」
 あんなが、プリントを隣の教室に搬入するのを確認すると、茅はそういって、廊下で待っている生徒たちに呼びかけた。
「……掃除が終わったら、希望する教室に別れて、移動するの……。
 茅はこれから、今日のテストの解説を収録してくるから……収録が終わったら、こっちに戻ってくるから……それまで、プリントをみて、静かに自習してて……」
 ひとしきり、大きな声で周囲に告知した後、茅は廊下を小走りにかけて去って行く。

 半時間もすると、先程の告知通り、茅が撮影機材を抱えた放送部員を引き連れて戻ってきた。その頃には、二つの教室がほぼ満杯になって、静かに自習をしながら茅を待っていた。
 放送部員たちが機材をセットしているうちに、茅は、
「……今日のテストの問題の解説を希望する人は……」
 学校のサイトの、しかじかのURLアドレスに動画が置いてあります。自宅にネット接続環境がない生徒は、空いた時間にパソコン実習室にいけば、視聴できます……と、前置きし、茅は、二つの教室を行き来しながら、同時進行で講義を続けた。
「……すげぇ……」
 カメラをのぞき込んでいた放送部員が、うめく。
 相変わらず茅は、黒板も見ずに板書きし、そうしながら、空で、必要な説明をする。それも、滞りがない、滑らかな口調で。
 そして、生徒達が黒板の字を写している間に、隣の教室に移動して、同じことを行い、元の教室に帰ってくると、質問を受け付ける……。
 茅一人で、内容が違う授業、二つを、滞りなく、同時進行させていた。
 そして、その様子を撮影していた放送部員たちは……茅の授業を受けている生徒たちよりは、精神的に余裕がある状態で、茅の行動を評価することができた。
 控えめにいっても……人間技では、ない。




[つづき]
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