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第六章 「血と技」(321)
佐久間の技を習いにこの家に来るも、これが二度目になる。今夜は、羽生が車を出してくれたので、昨夜のように自分の足で走る必要はなかった。
車で庭に乗り付けると、出迎えにでていた二宮舎人は、恐縮した様子で、しきりに羽生に頭を下げていた。車から降りるなり、羽生が、「これ、おみやげ」と舎人に大きな風呂敷包みを手渡したから、かも知れないが。
「真理さんから、って。
この間、ご馳走になったお礼に、って……」
「これは、どうも」
舎人は、丁重に頭を下げて、包みを受け取る。
「ところで……ここで、なにやってるの?
夜な夜な、若い少女集めて……」
羽生は、周囲を見渡して、舎人に尋ねた。
「あー……」
舎人は、一瞬、答えに詰まる。
「……そんな、いかがわしいことでも……ない、と……思うんですが……。
一種の、能力開発です」
一般人である羽生に、どう説明したものか迷った舎人は、結局、そんな表層的な表現をして、お茶を濁した。
「せっかく、ここまで足を運んだんだし……なんなら、見学していきますか?」
舎人は、羽生にそう尋ねる。
羽生は、目をしばたいてから、尋ね返した。
「……いいんすか?」
「まあ、羽生さんは、こいつらと一緒に住んでいるわけだし……ここで、どういうことやっているのか、確かめておいた方がいいとも、思うし……」
舎人は、手近にいたテンの頭に掌を乗せ、ぽんぽん、と軽くたたきながら、そういい、
「……それに、今日もはもう、別口の見学者がいますから……」
と、続けた。
「……はぁーいっ!」
家の中から出てきたシルヴィ・姉崎が、羽生や茅たちに向かって、手を振った。
「……おおっ!
シルヴィさん……」
羽生も、手を振り返した。
「姉崎が視察に来るのは、不思議ではないの」
茅が、呟く。独り言のような口調だったが、羽生に聞かせるために、故意に声に出したのかも、知れない。
「佐久間の技に関する情報が欲しいのは、他の六主家も、同じ。
むしろ、現象たちが、見学を許す事の方が、不思議……」
「……そうはいっても、二宮のおれも、こうしてみているしなぁ……」
舎人が、頭を掻きながら、苦笑いを浮かべる。
「野呂の平三さんも、どこかに潜んでみているし……。
佐久間の方も、漏れることは承知の上で、人をよこしたんじゃねーのか……」
昔気質の平三は、監視対象である現象たちとなれ合うことを避け、この間、荒野の前に姿を見せたのを例外として、身を潜めている……といった意味のことを、舎人は説明した。
「第一、佐久間である現象たちが、好きに見ろっていってるしな……」
舎人は、そういいながらも、羽生、茅、テン、ガク、ノリを家の中に招き入れる。
前の時と同じく、家の中にはいってすぐの土間に、現象と梢が待ちかまえていた。
羽生は、物珍しそうに周囲をきょろきょろ見渡しながら、「うわぁっ、レトロ」とか、呟く。
舎人は羽生を囲炉裏端に案内し、羽生は、先にそこにちょこんと座っていた子たちをみて、目を丸くする。
「双子ちゃんたちも、いるのか……。
そういや、この前も、引っ越すとかなんとかいってたな……」
「「……引っ越しは、無事、完了したのです……」」
酒見姉妹が、声を揃えて返答する。
「……すんげぇ、疲れる引っ越しだたけどな……」
舎人が、げんなりとした口調でいい添えた。
「……よう、チビ。
あれから、調子はどうだ……」
現象は、ガクに体調を尋ねることから、今日の講習を開始した。
「これ以上はない、というくらいに、絶好調だよ」
ガクは、不適な笑みを浮かべて、答える。
「それに、チビっていうな。
今だってそっちとそんなに変わらないし、それに、今、伸び盛りだから……お前なんか、すぐに追い越してやる……」
事実、現象は小柄な方で、背も小さければ、身体も細い。外見だけでみれば、虚弱に見えないこともない。
「それは、結構だ」
現象は、にやにや笑いを顔に貼り付けている。
「元気がよすぎるくらいの方が、しごき甲斐があるからな……」
などと挑発し合う割に、実際に教習にかかるとなると、極めて穏当なことしかやらないのだった。
「昨日、笙でやったのと同じ、聞き取りテストだ」
現象はそういって、ノートパソコンを操作する。土間の上に小さな机が持ち出されており、その上にノートパソコンと少し大きめのスピーカーが置かれている。
「このスピーカーは、特別製でな。市販のものよりもずっと広い音域を出力することができる。
各自、聞こえる音域、ぎりぎりの音を探り、それを拡張していくところから、知覚の拡大トレーニングをはじめる……」
「昔は、こうした精巧な機械こそありませんでしたが、楽器を使って能力を拡張していくのは、古くからの佐久間の訓練法です」
と、梢が言い添えた。
「……このぼくが、直々に脳を蹴飛ばしてやったんだ。
昨日よりもいい結果を出してみせろよ、チビ……」
と、現象は、再び、ガクを挑発する。
現象は、昨日、笙を使ってやったように茅たち一人一人の可聴音域を調べることとから開始した。昨日と違うのは、機械を使用することで、発生させる音の制御がより細かくできるようになったこと、それに、検査結果をそのままノートパソコンに、詳細に記録していったこと、だった。
ガクの可聴音域は、一晩明けただけなのに、格段に広がっていた。
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つづき]
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