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彼女はくノ一! 第六話 (65)

第五話 春、到来! 乱戦! 出会いと別れは、嵐の如く!!(65)

 香也は、茅の講習に一時間ほど付き合った後、美術室へ向かう。教室内は香也と同じクラスの生徒たちがほぼそのまま残っていた他に、他のクラスの生徒たちも大勢机や椅子を持参して詰め掛けており、長居するのも気が引けるような状況になっていた。
 超満員状態の二つの教室を忙しく往復して行われた茅の講義が一段落し、茅が休憩時間を宣言するとそれを機に香也は鞄やスケッチブックなどの荷物を持って席を立ち、人混みをかき分けて教室の外に出る。楓が、香也の後を追い、放送部員が、荷物をまとめて外に出た香也の姿を認めて、携帯のメールでどこかに連絡をうちはじめる。
「……んー……」
 香也は、昨日に続いて香也を追ってきた楓に向かって、声をかける。
「楓ちゃん……部活は、いいの?」
「あっちは……今、開発というより、実用の段階に入ってますから。
 備品の末端も、数が限られていますし、これから期末が終わるまでは、部員以外の生徒さんたちも大勢、使いたがっていますので、できるだけ、空けておかないと……。
 斎藤さんなんかが先頭に立って、普段、ああいう機械の扱いに慣れていない人たちのサポートをしてくれてますけど……」
 楓の話しによると、茅や沙織が中心となって作成した教材を参照したりプリントアウトする生徒たち、それに、教室内には入れなかったが、茅や沙織の講義を見たかった生徒たち……が、つめっかけ、ここ数日のパソコン実習室も、かなりひどい混雑状態になっているらしかった。
 それこそ……普段、そこを根城にしているパソコン部員が、邪魔者扱いにされるくらいに……。
 今の実習室は、落ち着いてプログラムを組んだりソフト開発をする雰囲気にはないらしい……と、香也は理解した。
 ……そういえば……こうして歩いている今も、廊下を出歩いている生徒の数が、随分と、多い……と、香也は改めて認識する。そのせいか、あまり「放課後」という感じがしない……。

 香也と楓が美術室に入るのと前後して、例によって紙の束を抱えた有働が、美術室に入ってきた。
「……今日も、やるの?」
 その姿をみて、先に美術室に入っていた樋口明日樹の顔が、かすかに強ばる。
「ええ。
 すいません。部活の最中に、お邪魔しちゃって……」
 有働は、大きな背を屈めて、明日樹に会釈してみせた。
「……この分なら今日中に……少し残っても、明日には終わりますので……」
「……別に……いいけど……」
 明日樹は、釈然としない顔をしながらも、有働に頷いて見せた。
 別に、有働がいうように、明日樹の部活の邪魔になるわけでもないし、当の香也がボランティアや放送部経由で依頼される仕事を嫌がっている様子もない。それどころか……香也は、詳細な打ち合わせを必要とする有働との共同作業を、楽しみはじめているようにも見える。
 ただ……明日樹本人は、明瞭に意識してはいないが、それまでほとんど親しい知り合いがいなかった香也が、このところ、急速に、他人と交わるようになってきっている……という事実に、明日樹は、最近になって、寂しさを覚えはじめていた。
 楓などの同居人はともかく、彼女らの存在が触媒となって、より多くの生徒たちも、香也に周囲に集まるようになってきている……。それは、本来なら、香也にとってはいい傾向であり、明日樹にとっても素直に喜び、歓迎すべきところ、なのだろうが……それでも、明日樹は、一抹の不安を感じ取ってしまう。

 有働と香也の打ち合わせは、基本的には、やはり昨日と同じことの繰り返しだった。違っていたのはそのぺースであた。香也にしろ有働にしろ、そろそろ相手がいいそうなことが、予想がつくようになってきており、同時に、お互いの意見を落ち着けるべき、落とし所や妥協点のつけどころも、予想がつくようになっていた。
 そのため、二人は、かなり速いペースで、校正原稿の修正を行っていく。昨日と同じく、他の放送部員たちが数人がかりでパソコン実習室と美術室を往復し、修正原稿をプリントアウトして持ってきくるのが、間に合わないほどで、結果、有働が持ち込んだポスターの版下作成は、最終下校時刻がくるよりも、かなり早く終了した。有働と放送部員たちは、香也に頭を下げながら、美術室から去っていった。
 彼らは、これから残りの最終原稿データを、懇意の印刷屋さんに送付し、最終的な発注作業を終了させる、という。

 いつも帰る時刻よりは少々早く、しかし、一時間以上の空きがあるわけではない、半端な時間に解放された香也は、少し、時間を持て余すことになる。
「……んー……」
 香也は、若干途方に暮れた表情で、うめく。
 本格的に絵に取り組むには、時間的に半端すぎた。
「少し早いけど……今日は、もう帰ろうか?」
 樋口明日樹が、香也に提案した。
「一応、来週、期末だし……それに、わたしの方も、ちょうど区切りがいいし……」
 そういいながらも、明日樹は、すでに自分の画材を片づけはじめている。そんな時に、パソコン実習室に行っていた楓が、美術室に帰ってきた。
「……あれ?
 どうしたんですか?」
 美術室に入ってきた楓は、香也と明日樹の間に漂う微妙な空気を敏感に感じ取って、そう尋ねた。
「なんでもない」
 明日樹が、楓に向かってことさらに明るい声を出す。
「少し早いけど、区切りがいいから帰ろうか、っていてたところ……」
「そう……です、か……」
 楓は、釈然としない表情をしながら頷き、茅宛に、「先に帰る」という旨のメールを打ってから、香也たちとともに、帰り支度をしはじめる。
 昨日、引っ越しが完了し、今日からまた、酒見姉妹の護衛が再開するとは聞いていたが、念をいれて連絡はしておくことにした。

 香也、楓、明日樹の三人が校門まで出ると、そこには三人のメイド服姿の少女たちが、立ち話しをしていた。
 ノリと酒見姉妹、であった。




[つづき]
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HONなび


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