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彼女はくノ一! 第六話(66)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(66)

 校門前にメイド服姿の少女たちがたむろしていて、しかも、そのうち二人は、まったく同じ顔をしている……となると、これが注目を浴びないわけはない。
 事実、三人は、校門から出てくる生徒たちにじろじろ眺め回されていた。ただし、かかわり合いになることを避けてか、下校中の生徒たちは全員、遠まきに避けて通りすぎていく。
 酒見姉妹は以前から茅を迎えに来ていたのだが、双子のメイド服に、さらにノリ一人が加わって三人になると、その非日常感は、格段に倍増する。
「……あ、あの……」
 ぽかん、と口をあけて立ち尽くしてしまった香也を明日樹を横目に、楓が、しぶしぶ、といった態度で三人に声をかける。
「……お出迎え、ですか?」
 できれば、楓だってこんな目立つグループに声をかけたくはないのだが……香也や明日樹にその役目を負わせるのは、少し酷だろう……。
 ティッシュを配るでもなく、町中、それも、学校の校門前に立ち尽くしている、コスプレばりの、異装の少女たち……出来れば、関わりあいになりたくは、ない。自分が通っている学校の校門の前であれば、なおのこと……関わりあいになるのを、避けるだろう。
「それより……」
 樋口明日樹が、じと目になって疑問を口にする。
「こんなに目立つところにいて……誰にも、何にもいわれなかった?」
 何しろ、校門前である。生徒や教師が、学校に出入りする時、かならず通りかかる場所だった。
「「……以前、先生に、声をかけられましたが……」」
 双子は、声を揃えた。
「「……免許証を提示して、茅様の関係者であり、迎えに来ただけだということをご説明申し上げると、ご納得していただけました……」」 
 その返答を聞いて……納得した……というのも、二人が生徒たちに危害や悪影響を与える存在ではなさそうだ……と、しぶしぶ認めただけなのではないか……と、楓は思い、念のため、確認してみる。
「その……服装のこととか、何もいわれませんでした?」
 どこからどういう観点でみても、「メイド服」が、学校に通う生徒を迎えに来るのに、ふさわしい服装であるとは思えない。
「「……その点は、指摘されましたが……」」
 双子は、またもや声を揃える。
「「それは、今度から、学校へいくのに最もふさわしい服装、この学校の制服を着用してきましょうか、と尋ねましたところ……先生方は、頼むからこの服装のままでいてくれ、と、懇願なさいました……」」
 明らかに、この学校の生徒ではない、部外者である酒見姉妹が、制服姿でそのへんをうろついたら……それも、この学校の教師の指示で……ということになれば……やはり、いろいろと不都合があるだろう。
 この学校の制服とメイド服を比較して、まだしも、メイド服の方が害が少ない……少なくとも、学校側が責任を追求されることはない……と、判断したのに違いない。
 対応にあたった先生方の苦労が忍ばれるエピソードだった。
「……だから、ノリちゃんも、黙認か……」
 明日樹が、軽くため息をつく。
 こういう非常識……というか、イレギュラーな人々の相手をする常識人の苦労は、明日樹にとっては、他人事ではなかった。
「……今日も、先生じゃなかったけど、声をかけられたよ。
 柊さん、っていったっけ?
 そこの二人が、そこの路地を入った、人目につかない場所に連れてっていったら、それっきり帰ってこなかったけど……」
 ノリがそう補足説明をする。
 香也と楓は、はからずも、「……懲りないなあ……」と、同じ感想をいだいた。

「もう少し、茅が出てくるのを待っている……」
 という、酒見姉妹と別れ、香也、楓、ノリ、明日樹の四人は、帰路に着く。その途上、ノリが「あの二人とは、これから、毎晩のように会うようにから……」とかいいはじめ、今週に入ってから現象やあの双子の住む家に、茅と一緒に通っていることを話す。
「狩野君、知ってた?」
「……んー……」
 明日樹が尋ね、香也は、首を横に振る。
 楓はすでに知っていた話しだが、香也と明日樹は初耳だった。
「……そういえば……最近、茅さんが、夜、外出している……とは、聞いたことがあるような、気がする……」
 確か、この前、ひさびさに、夜間のプレハブに顔をだした荒野が、そんなことをいっていたっけ……と、香也は、ようやく思い出す。
「その、みんなが習っているの……佐久間の技、だったけ?
 それって……どういうの?」
 明日樹が、ノリに尋ねた。
 明日樹の場合、積極的に一族のことに興味を示す、というわけではないので、そのあたりの詳しい事情は、おぼろげにしか知らない。つまり、自分から、荒野なり楓なりに聞こうとしない……というわけだが、香也の同居人たちが、揃ってその技とやらを修得しようとしている……となると、無関心でもいられなかった。
「……最終的には、他人の考えていることとか、記憶の奥底にあるものが読めたり……意識の深い部分に、強力な暗示をかけて、思い通りにあやつったりも出来るようになるそうだけど……」
 ノリは、明日樹の質問に、素直に答えた。
「……今やっているのは、初歩の初歩だから、音の聞き取りテストとか、声の出し方、歌の歌い方、楽器の扱い方を、習ってる……」
「……へ?」
 尋ねた明日樹の目が、テンになる。
 到達点と、今やっていることとは、イメージ的に、大きな格差があった。
「……うーん、と、ねえ……。
 未開発の感覚系を育てるのに、音は、具合がいい媒体なんだって……」
 明日樹の表情を読んだノリは、そう、説明を重ねる。
「つまり……ボクたちが、今やっているのは、見たり聞いたり出来る範囲を、今まで以上に押し広げる訓練で……。
 犬笛、ってあるでしょ? 犬には聞こえるけど、人間には聞こえない音を出す笛。
 ああいう、本来なら聞こえない音まで拾えるように、感覚を鍛えて……」
「……それを極めれば、他人が考えていることまで、読めるようになるっていうの?」
 明日樹は、怪訝な……というより、もっと明るさまに、いかにも胡散臭いものを見る表情に、なっている。
「いくら訓練しても、素質がなければ出来ないって話しだけど……」
 ノリは、そういって肩を竦めた。
「今のところ、ボクらのうち、誰一人として、ダメを出されていないね……」
 ノリがいう「ボクら」というのは、テン、ガク、ノリの三人に、茅を加えた四人のことだ。
 そんな、身近な子たちが……そんな、非現実的な、浮き世離れした訓練を、夜毎に行っている……という事実に、明日樹は、目眩にも似た感覚を、味わう。
 四人とも、性格的にみて、そうした胡散臭さからは遠そうに思えたが……特に、茅の頭の良さは、明日樹もよく知っているだけに……そんなことに本気で取り組んでいる、というのが……容易に、信じられない。
 同時に、彼女らや「一族」の存在自体が持つ「突拍子もなさ」も、重々知らされていたから、「……ひょっとしたら……」そんなことも、平然と出来たりするのかも、知れない……とかも、思う。

 樋口明日樹は常識人であり……ここ最近、その明日樹の「常識」とやらは、頻繁に揺るがされていた。




[つづき]
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HONなび




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  • 2007/06/02(Sat) 17:18 
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