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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(325)

第六章 「血と技」(325)

 そして現象は、工場を訪れる。
 昼間、香也や荒野、それに徳川などは、授業を受けている時間帯だった。工場の住所は、一族の者から聞いた。
 そこで現象は、予想だにしなかった光景を目撃することになる。

 工場の位置口に据えられたインターホンを押し、名乗って来意を告げると、「そろそろ来る頃だと思っていました」と女性の声で告げられる。
「今、手が空いている者がいないので、そのまま、奥の方まで歩いて来てください。
 中は、かなり広いですけど、あなた方なら、特に不都合はないでしょう……」
 慇懃な口調だったが、発言している内容は、無礼と紙一重だった。
「……まあ、こっちだって、アポなしで来ているわけだしな……」
 例によって、現象についてきた舎人は、そういって自分の顎を撫でる。
「門前払いを食らわなかっただけ、よしとするべきじゃないのか?」
「今、でたやつ……こっちの正体も、知っているようだったな……」
 現象も、頷く。
「一族のやつらが、この工場にたむろしている……というのは、本当のことらしい……」
 現象、舎人、梢の三人は、案内された通り、車両用ゲートの脇にある人間用の扉を開いて、薄暗い工場の中に入る。三人が扉をくぐると、オートロックになっているのか、背中で、扉の鍵が閉まる音が響いた。その鍵の音は、広い工場内に、予想外に大きく反響し、現象たちを少し不安にさせる。
 照明はあるのだが、天井が高いために、工場の内部は薄暗く見えた。おまけに、人の気配がなく、車が通れる幅だけを残して、乱雑に大小様々な金属片が積み重なっている。
「……奥の方に、とにかく歩いていけ……って、いっていたな……」
 舎人はそういって、廃材がのけてある道を、歩いていく。まともに歩けるのはその通路くらいしかないから、迷う心配はない。
 現象が、すぐに小走りになり、その舎人に肩を並べて歩きはじめた。
 梢が、二人に少し遅れて歩いていく。

 三人がそうしてしばらく歩いてところで、
「……えやぁー!」
 銀色のヘルメットとコスチュームを身につけた子供が、白く光る残像を残して、すぐ目の前を、ぎゅんっ……と風切音をたてて、通過していく。
「……今の……」
「……何っいぃ?」
 梢と現象が、目を丸くして呟く。
「……あれが、噂の……」
 舎人は、複雑な意味を含ませた笑みを浮かべた。
 三人は、その、「銀色の子供」が去っていった方向に、首を巡らせる。
「……遅いっ!」
 その先には、もう一人の「銀色の子供」がいた。
 しかし、こっちの「銀色の子供」は、最初にみた「銀色の子供」よりも、少し背が高いらしく、全体にほっそりとしたシュルエットをしている。
 その、やや細長い方の子供は、自分の背中に手を回して、棒状のものを取り出した。
「……おいっ!」
 即座に、その棒状のものの正体を察知した舎人は、いかめしい表情になって、叫ぶ。
 しかし、その子供は、舎人が制止する前に、棒状の物体の先を、もう一人の子供に向ける。
 棒の先を向けられた子供は、臆することなく、少し背の高い子供の方向に突進した。
 棒の先が、火を吹く。それも、立て続けに何度も。
「……あっ!」
 と、梢が、自分の口を掌で覆って、叫んだ。
 突進している子供は、身体の前に腕を振り回しながら、さらに長身の子供に向かって、迫っていく。一見、軽く腕を払っているように見えて、その子供の二の腕を覆った何かに、十字型のプラスチック片のようなものが当たってはじき飛ばされていた。その子供は、長身の子供に向かって走りながら、自分めがけて打ち出されたプラスチック片を、二の腕に取り付けていた防具(?)で、打ち払っていたらしい。
 長身の子供に迫っていた子供も、どこからか、細長い棒状のものを取り出していた。
 しかし、どうやら銃器らしい、長身の子供の棒とは違い、その子供の棒は、取り出した勢いもそのままに、鞭のように撓りながら、その棒を振るう子供の身長よりも長く、伸びる。
 伸びるに従って、最初、一本の棒のように見えた物体が、実は、いくつかの短い棒をつなぎ合わせたものだ、ということが、確認できるようになった。
 弧を描いて振り回される間に、一本の長い棒が、そのいくつかの短い棒に別れ、空間が発生していたからだ。
 どうやら、短い棒と棒の間に、距離を置いていては視認できないほどの、細い線が張られているらしい。

「……棍、か……」
 舎人が、ぼそりと呟いた。
 三人が、六節棍を使う……ということは、舎人も、知っていた。
 しかし、三人は、舎人も知らないうちに、六節棍にも改良を加えていたらしい。短い棒と棒を繋ぐワイヤーを、ごくごく細く、同時に強靱な素材に変えたらしい。
 その部分が、視認しにくいと……こうして、延ばして振るう場合、対応する側に、隙が生まれ易くなる。

 長身の子供は、六節棍の攻撃が届く、ギリギリまで待ってから、身を翻した。
 早い。
 舎人の目からしても、一瞬にして、その長身の子供がかき消えたように見えた。
 ……反応速度や瞬発力は、当然にしても……静から動くべき、適切で効果的なタイミングを、その子供は体得しているらしい。
 そういう勘働きは、ある程度、実戦をくぐり抜けなければ身につかないもの、なのだが……。
『……もはや、素質だけの存在でもない……ということか……』
 舎人は、三人の新種についての認識を、改める。

 しかし、六節棍を振るって迫っていた子供も、そうした長身の子供の動きを、予測していたようだった。
 六節棍の短い棒をしっかりと握り、もう一方の手で、端の短い棒を握って、一気に引く。そうしながら、身体の向きを変え、再び、一本の棒状になった六節棍を、真っ正面に突き入れる。
 瞬時にそれだけの挙動を行い、しかも、強く足を踏み出し、勢いも、十分に六節棍の切っ先に集中していた。

 そして……六節棍を突き入れた先には……ちょうど、長身の子供が、立っていた。




[つづき]
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