2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

彼女はくノ一! 第六話(67)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(67)

 いつもよりかなり早い時間だったが、それでも香也は、その日も、明日樹を家まで送っていった。
 ノリもついて来るのではないかと思ったが、そんなことはなく、ノリは楓とともに、大人しく狩野家に入っていく。そういえば、香也に送られていく時、楓などの同居人がついてくることはなく、いつも香也と二人きりにしてくれる。
 これは、同情されているのだろうか、それとも、明日樹と香也との関係を、みんながさりげなく尊重している……ということなのだろうか……と、明日樹は疑問に思ったが、いずれにせよ、彼女らがそこまでこちらの生活圏に浸食してこない、ということは、明日樹にとっても都合がいいことは確かであり、あまり深く考えないことにしている。
 第一、彼女たち自身も、じつのところ、どういう基準によってそういう行動を取っているのか、よくわかっていないのではないのか……とも、思う。
「……なんか、どんどんややこしいことになっているね……」
「……んー……」
 思わず、そんなことを口にしてから、明日樹は、既視感に襲われた。
 香也を相手に、似たような台詞を……いったい何度繰り返していったことだろう。
 それに、香也の返事も、毎回、変わらないような気がした……。

「……はい、おにーちゃん」
 香也が帰る早々、ノリは、香也に着替えさせる余裕すら与えず、そのまま居間の炬燵に座らせる。
「今日は少し早く帰ってきたから、晩ご飯まで、おべんきょーねー」
 香也の肩に乗りかかり、ノリは、眼鏡を光らせてそんなことをいう。
「……いいこと、ですね……」
 真理とともに夕食の準備を手伝っていた楓は、顔だけを出してその場の状況を確認すると、すぐに顔を引っ込めて、やりかけの作業に戻った。
「あら、いいわねー……」
 楓のように顔も出さずに、台所にいたまま話を聞いていた真理も、声だけで答えた。
「……うちのこーちゃん、今までがさぼりすぎなんだから、二年生になる前に、しっかり仕込んで貰いなさい……」
 楓にしてみれば、ノリが香也に不謹慎な真似をしなければなにもいうことはない。さらにいえば、香也の成績が上がることは、どちらかといえば、喜ばしい。
 だから、ノリを邪魔をしたり制止したりする理由は、楓にはないのであった。
「……ん、んー……」
 香也は、「……なんでここでノリちゃんが、張り切るんだろう……」と、不審に思いながら、ノリの勢いになんとなく気圧されている。
 気圧されながらも、香也は、素直に鞄から教科書やノートを炬燵に取り出してしまう。
「……それで、おにーちゃん。
 今日は、授業ではどの教科やったの?
 今日やったこと、ご飯が出来るまで、復習しよう……」
 ノリは愛想よく笑いながら、香也に顔を近づける。
 ……どうやら……これが、ノリなりに考えた、香也への「ご奉仕」の形らしい……と、ノリのメイド服をみながら、香也はようやく気がついた。

 夕食後、香也はみんなに風呂に入るように勧められ、香也はその勧めに素直に応じた。
 ノリが、
「ご奉仕ー……。
 背中流すー」
 とかわめいたが、真理、楓、孫子、羽生が総出で止めて事なきを得た。
 羽交い締めにされたノリだけではなく、テンやガクも、非常に残念そうな顔をしていたところをみると、ノリが前例を作ってしまえば、それを理由にして、二人もあやかろうと思っていたらしい。
 少し前まで、入浴時の乱入沙汰が日常茶飯事でああったことを考えると嘘のようだが、真理が帰還して以来、家の中の雰囲気は、良い意味で落ち着いてしまっている。やはり、真理の存在は、この家ではかなり大きかった。
 香也にとっては、非常に良い傾向といえる。何しろ……。
『……こうして、ゆっくりお風呂に入れるし……』
 香也は、湯船の中にゆっくりと手足を伸ばして、天井を見上げる。
 ちっぽけなことではあるが……香也にとっては、そのちっぽけなことが、割合に重要に感じられる。なにしろ、今の香也には……。
『……なかなか、一人になれる場所が、ないし……』
 ……少し前までの香也の状態を考慮すれば、それは、贅沢な悩みなのかも知れない。
 今、自分の周囲にいる人たちのことは、香也も好きだ。
 しかし……彼ら、彼女らが、香也にとって都合の良い状況をお膳立てしてくれることに関して……香也は、漠然とした不安を持つようになっている。
 そこまで、何でもみんながやってくれると……いずれ自分は、自分一人では何もやれない人間に育ってしまうのではないか……と。
 それに……大勢でわいわいやるのも、それなりに楽しいけど……それとは別に、一人で、自分自身の内面を見つめる時間も、それなりに必要なのではないか……。

 風呂から上がった香也は、居間に楓と孫子がいるのを確認してから、庭のプレハブに移動する。二人は、ノートパソコンを開いて、昨夜の続きをしているようだった。孫子の会社も、処理を必要とする案件が山積みになっているらしく、楓の仕事も一日や二日では片付きようがないらしかった。
 テン、ガク、ノリの三人の姿は、すでに見えなかった。
 今夜も「現象の家」とやらに、すでに出かけた後らしい。
 どうやら……今夜も、一人でゆっくりと絵に取り組めそうだな……と、香也は、安堵する。

 香也は、プレハブに入って灯油に火を入れ、画架や画材を用意し、すぐに絵を描きはじめる。
 静かで……今となっては、貴重になった、一人きりになれる時間……。
 手慣れた……どころか、もはや脊髄反射に染みついたような動きで、香也は手を自在に動かす。実のところ、こうして絵を描いている時の香也は、あまり意識して「何を描こう」などとは考えていない。
 そう考えるのは、絵を描く前の段階までで……いざ描き始めるとなると、その構想を具現化するために手を動かすのに忙しく、考えている余裕などない。
 香也は、自分の頭の中に浮かんでいるイメージと、目の前の描きかけの絵とを見比べながら、少しでも自分が想像する姿に近くなるよう、忙しく手を動かし続ける。




[つづき]
目次

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
HONなび

NVネットワーク
エロセブン
フリーセックスジャパン

Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ