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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(326)

第六章 「血と技」(326)

「……いつまでも、力押しじゃあ通用しないって……」
 長身の、銀色の子供が、ノリの声で呟いた。
 その子供は、六節棍の上に乗っている。
「いくよ、ガク!」
 その子供は、一声叫んだかと思うと、六節棍の上に飛び乗った時と同じ、身軽さ、素早さで、身を躍らせた。
 体重が存在しないかのような身軽さで、六節棍の上を駆け……もう一人の銀色の子供頭部を、蹴り上げようとする。

 精緻な知覚系を誇る現象や梢の目にも、その動きが追い切れないほどの素早さだった。

「……そんな、のぉっ!」
 ごん、と鈍い音がした。
 一瞬、長身の子供が跳ね上げたつま先が、もう一人の子供の頭部を捕らえたか……と、思えたが……。
「……ノリの方こそ、自分の特性に、頼りすぎっ!」
 頭部を蹴り上げられた……かに見えた子供は、一瞬早く、自分に向かってくる「足」に向けて、逆に、額を突きだした。
 銀色のヘルメットが、長身の子供……ノリのつま先を、潰したかに見えたが……。
「……わっ!」
 ノリは、その側頭部を、手にしていた銃身で払う。
「……相手がやることを、予測できれば……」
 ノリに相対していたガクは六節棍を放りだし、冷静な動きで、自分の側頭部をめがけて振り下ろされた銃身とノリの足首を、両手でしっかりと掴んでいる。
「……いくらでも、対処できるのっ!」
 そのままガクは、ぶん、と、ノリの身体を無造作に放り出す。
 特に反動をつけたようにも見えなかったが、ノリの身体は高々と真上に放りあげられる。
 空中に放りあげられたノリは、そのまま手足を畳んで丸まり、何度かくるくると回転した後、とん、と軽い足音をたてて着地して、立ち上がった。
「……もう……。
 ガク……なにかというと、人のこと放り投げて……。
 なんか、いつの間にかへんな癖、ついちゃったなぁ。
 って……あれ?」
 それから、すぐそばで目を点にして突っ立ていた、現象、梢、舎人の姿に気づき、ヘルメットのバイザーを押し上げて素顔を晒しながら、声をかけた。
「……来てたんだ……」
「……お、おう……」
 すっかり毒気を抜かれていた現象は、気の抜けた返事を返した。
「来てやったぞ……様子を見に……」

「……まあ、そんなわけで……」
 工場の奥にある事務所に案内された現象たちは、そこでびしっとビジネス・スーツを着こなした美人さんにお茶を出されていた。
「……利害関係は当面、一致しているし、おれたちも、こいつらに協力している、というわけだ……」
 そう説明するのは、目つきの鋭い、三十前後の男だった。
「……いや、、まあ……。
 それは、理解したけどよ、仁木田さん……」
 舎人が、その男……仁木田に、質問を返した。
「あんたまで。その……マンガみたいな格好は……なんなんだ?」
 仁木田直人は、緑色の宇宙服のような着ぐるみを着て、首から上だけを露出した格好のまま、ずずずとお茶を啜り、表情も変えずに、答える。
「……武闘派の、敵幹部の役……だそうだ」
 舎人の説明を飲み込むまで、舎人は数秒を要した。
 その結果、ようやく、
「……あんたがぁ……」
 と、間の抜けた声をあげる。
「CGで出すのが難しい質感とかがあるって話しでな」
 仁木田は、舎人の気の抜けた様子にも気づかない風で、淡々と説明を続ける。
「あいつらとの格闘シーンをこなせるものは、そうそういないだろう……。
 それに、おれは着ぐるみだからまだいいが、丸居や睦美なんかはメイクをしただけの顔出しだぞ……。
 それに比べれば、まだしも……」
「……い、いや……まぁ……」
 舎人は、どういう表情をつくったものか、露骨に迷い、困惑している。
「あんた自身が、それで納得しているんなら……おれが、とやかくいう筋合いではないけどよぉ……」
「……知っている方ですか……」
 舎人の隣に座った梢が、軽く肘で舎人の腕を押して、小声で尋ねる。
「一族でも名の知れた、荒事の専門家だよ……」
 舎人も、小声で答える。
「……六主家の出ではないから、冷遇されている部分もあるが……その実力のほどは、ある程度現場に出ている人間なら、誰もが一度は聞いている筈だ……」
 梢は、舎人の驚愕の理由を理解した。
 三人の活動に与している一族の者がいる……と、あらかじめ聞いてはいても……第一線で働ける有能な人材が、こうして着ぐるみを着て、ヒーローショウの悪役を演じていれば……。
『……朝、河原に集まってくるような……』
 一族としての技能や能力では、どちらかというと、劣る方の……水準以下の術者しか、この土地には流れ込んできていないのではないか……と、そんなことを考えていたところに……こうして、いきなり、広く名が知られるほどの実力者がでてくれば……舎人でなくとも、驚きもしよう。
「……仁木田さん」
 舎人が、かなり真剣な声で、仁木田に尋ねた。
「他に……誰が、ここに来ている?
 おれが知っていた方が……挨拶に出向いた方が、いいような人は……」
「……そこまで堅く考えることはないんじゃねーか……」
 仁木田は、緊張している舎人とは対照的に、のほほんと弛緩しているように見えた。
「ここはなあ……今では、一族の保養地みたいなもんだから……。
 ここに来るような術者は、なんらかの問題を抱えているか、行き詰まっているようなやつらばかりで……そんなところで、一族の仁義だとか流儀だとかを押し通そうとするのは、野暮というもんだろう……」




[つづき]
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