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彼女はくノ一! 第六話(69)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(69)

 テンも、前日、前々日の、ガク、ノリと同じく、メイド服姿で香也の登校につきあった。三人が三人とも、香也の鞄持ちまでやりたがったものだが、流石にそれは、香也が遠慮させて貰っている。この格好で送迎されるのもかなり抵抗があるのに、その上、明らかに香也より少女たちに、荷物持ちまでやらせてしまたら……それこそ、外聞が悪い。
 何しろ、毎朝利用する通学路、でのことである。近所の人はもとより、同じ学校に通う生徒たちだって、見ている。基本的に、香也は、他人の目はそれほど気にかけない方だが、それにしたって、限度というものがある……。
「……今更、っていう気も、するけどねえ……」
 樋口明日樹は、心持ち不機嫌な声で、そうコメントした。
「今までで……さんざん、目立っている筈だし……」
 楓や孫子の、香也を巡るやりとりは、この時点では、校内も知らない者の方が少ないくらいだった。
「まあ、まあ……」
 そんな明日樹をいなしたのは、飯島舞花である。
「絵描き君も、これからは、別の意味で注目されるようになると思うけど……」
 そういって舞花は、町内会の掲示板を指さす。
 そこには、香也の絵をポスターにしたものが、貼られていた。
 ボランティア人員の募集要項、などの他に、商店街店舗の広告、孫子の会社の求人広告などが、隅の方に印刷されている。
「……これ、昨日とか一昨日、やってたの……。
 もう、貼りだされている……」
 明日樹は、半ば呆れた口調で呟く。
「……放送部のやつら、仕事が早いってぇか、性急なところがあるからな……。
 刷り上がったやつから、順に貼っていってるんだろう」
 舞花は、そういって鷹揚に頷いた。
「……大丈夫か、期末試験前にそんなことをやてってて……」
 荒野が、つっこみを入れる。
「もう、二年は、玉木と有働君しか活動していないし……その他の面子も含めて、後で何とかするつもりじゃないかな?」
「……後で、なんとか……ねぇ……」
 荒野は、露骨に「……信用できない」というニュアンスを口調ににじませていた。

「ああ。それ……」
 合流してきた玉木は、その懸念を聞くと、大きく頷きながら、答える。
「……もちろん、考えてるよっ!
 みんな、頑張っているからさ、頑張っている人に、損をさせてはいけないよね。これは主に下級生向けなんだけど、春休みあたりに、有志の部員だけで自習会とか企画しているし……仮に、そういうの、なくってもさ、うちの部は、他の人たちよりも実は有利だったりするんだけど……」
 放送部は、沙織とか茅とかの講義を直接撮影する他に、その映像を編集する作業も交代で行っている。
「……編集するためには、同じシーンを何度も繰り返して見る必要もあるわけで……」
 その際に、自然と内容を、ある程度覚えてしまうのだ……という。
「……もちろん、それだけだとまだまだ弱いけど、その前後にも、正規の授業とか、自分で予習復習もするわけだから……」
 一見、ばたばたと忙しく飛び回っている放送部員たちも、その実、勉強の理解度ということでは、他の生徒たちには引けを取っていない……それどころか、有利かも知れない……と、玉木は説明する。
「……あと、教材の電子データ化を手伝った生徒とか、それをまとめたパソコン部員なんかも、実は、結構おいしいお役目だったし……」
 そうした教材を整理するさいも、内容をまったく見ない行う、ということは、かえって珍しい。
「そんなわけでさ……うちの部の場合、やっぱ、茅ちゃんとか沙織先輩の講義を撮影する役、その映像を編集する役……は、希望者のが多いんで、今は、当番制にして、出来るだけ公平に回しているくらいだけど……」
「……それは、結構なことだな……」
 どこか釈然としない顔をしながら、荒野は頷いた。
「何……不満そうな顔をしちゃって……」
 玉木が、眉間に軽く皺を寄せる。
「不満ってことも、ないけどな……」
 荒野が、微妙な顔をして答える。
「こうも、何もかもがうまくいっていると……かえってこの先、すぐに大きなしっぺ返しが襲ってくるんじゃないかって……不安になってくるんだ……」
 玉木は、
「……心配性だなぁ。
 カッコイいおにーさんはぁ……」
 と叫び、荒野の背中を、渾身の力を込めて叩いた。
「……その、勉強会のことだけど……」
 それまで黙ってやりとりをみていたテンが、唐突に口を挟む。
「来年からは、ボクらも参加できるから……」
「教材も、基本的なデータに関しては、全学年分、整備し終えているの……」
 茅も、そう補足する。
「……本年度末までのは、初期条件の整備と運用試験。
 本格的に効果的な活用法を模索するのは、来年度から……」
 飯島舞花が、「なんか、どんどん面白そうなことになってくるなぁ……」といって、笑った。

 香也の絵がポスターになってご町内のあちこちに貼りだされたからといっても、クラスの生徒たちの態度に、特に変わったところはなかった。ここ数日、有働が日参してポスターの原稿を修正していたから、香也のクラスの生徒たちににとって、いずれ、ポスターが貼り出される、というのはわかりきったことであり、今更騒ぐまでもない……ということなのだろう。
 香也のため……というより、たいていは香也のそばにいる楓に遠慮している側面は多々あるのだろうが、とりあえず、いい具合に放置されているこの状況は、香也にとっては好ましく思えた。別に香也は、誰かに褒めたたえられるため、何枚ものゴミの絵を書き上げたわけではない。むしろ、有働のあの一群の絵を手渡した時点で、香也の仕事は終わった
と考えていて……その後の打ち合わせとか、ポスターとかは、香也にとっては本気で関心を持てない、「おまけ」みたいなものだった。
 それよりも……と、香也は、クラスの雰囲気に、ふと違和感を感じ、周囲をゆっくりと見渡す。
 そして、数秒考えた後……香也は、その違和感の正体に、ようやく思い当たった。
 今日はもう、金曜日であり、来週には期末試験が行われる。本年度、最後の……一年生としては受ける、最後の定期試験だ。
 いつもなら……同級生たちは、試験前ともなれば……もっと、取り乱したり、殺気だったり、やる前からあきらめたり……と、クラス全体の雰囲気も、それなりに、緊張感にあふれてくる。
 それが……今回に限り、まるでない。
 みんな、どこかのほほんとした様子で……。
 そう。
 みんな、いつもより、ずっと自信に満ちているように、見えた……。

 その、原因として考えられるのは……。
『……茅ちゃんの……』
 茅と、沙織の講義の存在しか……考えられない。
 以前の定期試験と、今回との違いは、それしかないのだ。
 今週の実力テストで、十分な手応えを感じた生徒たちは、自分たちの学力の向上を、肌で実感しはじめていて……それが、余裕のある態度として現れている……。

 香也は、いつもと変わらない教室内を見渡して、そう、観察した。




[つづき]
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