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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(329)

第六章 「血と技」(329)

「……こちらが、臨時の編集ルームになってます……」
 そういって、敷島は三人をプレハブの外に案内する。
 工場内に二階建てのプレハブが建っており、その中に、事務所や応接セット、先ほど、テンが作業していた部屋……などがあるわけだが、そのプレハブから外に出て、ほど近い場所にあった、テント様の施設の中へ、と……。
「ここ、資材置き場か何かだと思っていたけど……」
 思わず、という感じで、梢が、呟く。
 何しろ……敷島が案内したのは、鉄パイプを組んだ骨組みに、ビニールシートをかけて周囲の空間と区切りをつけただけ……という、至って粗末な代物である。
 外側から見たら、中に人がいて、作業をしている……とは、なかなか思えない。
 もちろん、工場内に設置されているわけであるから、野外で雨ざらしになっているわけではないのだが……。
「シルバーガールズの制作にかかる費用は、スポンサーの意向で、ぎりぎりまでのコストダウンを命じられています」
 あくまでにこやかな表情を崩さず、敷島が説明する。
「どうせ、工場内ですし、人と機材が収容できて、暖房が逃げない……同時に、用が済めば、速やかに撤収できる……という条件を考慮してこういう形になりました……」
「……スポンサー?」
 現象が、鼻に皺を寄せ、少し考え込む表情になったが、すぐに顔をあげた。
「ああ。
 おそらく……あの騒がしい、才賀の小娘のことだろう。
 やつなら、それくらいのことは、考えそうだ……」
 現象は、孫子のことを経歴の概要、それと、こないだの、「だだだーっと狩野家の居間に入ってきて、いいたことを言い終わるとさっさと去っていった」時の様子でしか記憶していない。
 故に、その人物像は、多分に歪曲されている。第一印象は、大切ですね。
「確かに才賀嬢がスポンサーなわけですが……ふむん」
 敷島は、現象の語る「孫子像」に対して、一瞬異議を唱えかけたが、「……この誤解は、放置しておいた方が面白いか……」と瞬時に判断し、わざとらしく鼻を鳴らして語尾を濁した。
 ……敏感にも、敷島の様子に小さな異変を感じた梢が、ジト目で敷島を見ていたが、敷島はその程度のことでは、まるで痛痒を感じない。
「とにかく!」
 敷島は、気を取り直すように、少し大きな声を出す。
「この中では、撮影した映像データの編集作業やシナリオ、構成などの文芸関係の作業、並びに、若干の撮影をすることもあります」
「ようするに……ここで何でもやるのね……」
 ジト目のまま、梢は念を押す。
「そりゃあ、もう。ぶっちゃけ、低予算ですから。
 設備でも人でも、あるものをなんでも、徹底的に使い回します……」
 敷島は、ビジネスライクな微笑みを浮かべながら、平然と答える。
「それでは、お入りください……」
 敷島はそういって、垂れ幕状にかかっていたブルーシートを押し広げて中に入った。
「少々、お邪魔しますよ」
 シート内は、二十畳程度の面積に、ファンヒーター、事務机、撮影器具……などが置かれており、いくつかある事務机の上には小型のデスクトップパソコンやノートパソコンが何台か、ファイリングした書類や手書きのイメージボードなどのコピー、どうやらシナリオらしい、書き込みの入ったコピー用紙の冊子……などが、乱雑に散らばっている。
 事務机の二つを占領して、ノリとガクが肩を並べ、それぞれ、液晶画面とノートパソコンに向かっていた。二人は、ヘルメットこそ脱いでいるものの、シルバーガールズのコスチュームは身につけたまま、それぞれの仕事に熱中していて敷島の声も耳に入らないのか、顔を上げようともしない。
「ええ。
 お二人とも、一度集中しはじめると、周囲のノイズには構わなくなるのはいつものことなので、こちらから簡単に説明させていただきます」
 敷島は、そうした二人の様子になれているのだろう、平然と案内を続けた。
「現在、ノリさんは、今までに撮影した映像データを編集中、ガクさんは、映像データの加工や編集を行うためのソフトを開発中です」
「……もうすぐ、学校が春休みになるから……」
 それまで何の反応も見せなかったガクが、肩ごと後に振り返って、いきなり話し出した。
「茅さんが本格的に作業に入ってくるまでに、必要なツール類も、一通り、使えるようにしておきたいし……。
 幸い、重い処理とかが必要な時は、トクツーさんが中の高性能なマシンを使用してもいいっていってくれたし……」
「……と、いうことです」
 と、敷島が、ガクの言葉を引き取る。
「工場内のマシンは、無線LANで接続されていますので、データはリアルタイムで転送できます」
「必要なら工場内のマシン全ての処理能力を共有できるから、トクツーさんのマシンも勘定に入れれば、リソース的にはかなりリッチだと思うんだけど……」
 ガクは、ここで、敷島と三人が出てきたプレハブを指さしてみせた。そこの内部には、複雑な流体シミュレートもなども可能な、ハイスペックなマシンが格納されている。
「でも、ツールが……ソフトのインターフェースが悪ければ、ハードの性能がよくても、作業効率はがくんと落ちちゃうから。
 春からはボクたちも学校に通うようになるわけだし、出来るだけ、四月の新学期がはじまる前に、ある程度、仕事を片づけておきたいんだよね。
 そのためにも、今できる準備を、しっかりとやっておかなくちゃ……」
「……結構、しっかり考えているんだな……」
 舎人が、ぼつりと感想を漏らす。
「茅さんが参入してきてから、びしっと背骨が入った感じかなぁ。
 全十三話のシリーズ構成とストーリー概要、ぱっぱと決めて、シナリオも毎日、少しずつ送付してくるし……」
「……で、ボクは……」
 今度は、ノリが背後に身を乗り出して、三人の方に向く。
「今までに撮影した素材の中から、使えそうなところをピックアップして、編集しやすいようにタグをつけたり、今ある素材で作れそうなカットを、少しずつ仕上げたり……できあがったシナリオみて、ストーリーボードを描いたりしているわけ……。
 分担的にいうと、ガクがソフト関係の開発で、ボクがヴィジュアル関係の何でも屋さん、茅さんが全体の総括で、テンが進行管理……っていうところかな……。
 もちろん、ボクらは、それ以外にキャストも兼ねているし、一族の人たちにも、随分手伝って貰っているけど……」




[つづき]
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