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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(330)

第六章 「血と技」(330)

「……あっ。
 そろそろ、時間だ……」
 突如、ノリは説明を打ち切ると、席を立ち、ビニールシートの外に出て行く。
「……何だ?」
 現象が眉を顰め、疑問の声を上げる。
「もうすぐ、学校が終わる時間だから……」
 ガクが、現象の疑問に答えた。
「学校?
 お前ら、まだ通っていないって話しだろ……」
 現象は、さらにいい募る。
「ボクたちは通ってないけど、おにーちゃんは、通っている」
 ガクは、露骨に辟易した表情、すなわち、「分かり切ったことを聞くんだなあ……」と顔に大書きしながら、
「……おにーちゃんを、迎えに行くんだよ……」
「……おにーちゃん?
 あの……絵描きのことなのか?」
 予想外の回答に、現象は、狼狽した声を出す。
「迎えにって……やつも、一人で家に帰れない年齢でもないだろう……」
「馬鹿だなあ……」
 ガクは、現象の顔に、心持ち、見下した視線を送る。
「迎えに行く必要はないけど、ボクたちが行きたいから勝手に行くの。
 第一、ボクらが行かなくても、おにーちゃん、楓おねーちゃんかあすきーおねーちゃんあたりと、一緒に帰ってくるだけだし……」
「……鈍くて、すいません……」
 何故か、梢が深々と頭を下げる。
「うん。
 いいよ、べつに。現象、おにーちゃんとちがって、全然モテなさそうだし……」
 ガクは、鷹揚な態度で応じた。
 現象は、二人の顔を交互に見比べている。
 二人が暗黙の了解としていることを、自分一人が、まるで理解していない……という事実に、現象は、かなり不安になってきた。なまじっか、自分の知性に自信があるため、他人が理解できることが、自分にまるで理解できていない……という、現在の状況は、現象を狼狽させ、不安にもさせている。
「……まあ、お前にも、そのうち解るようになる日が来るさ……」
 みょーに、同情の籠もったまなざしを現象に向けながら、舎人が、ぽん、と現象の肩に掌を置いた。
「解らないってことは……今のお前には、まだちょっと早いってことだろう……。
 そのうち、解るようになる日も来るから……今はまだ、気にするな……」
 優しい言葉を投げるわりに、舎人は、現象のことを、「かわいそうな人物を見る目」で見つめているのであった。
「な、な、な……」
 現象は、震える声で絶叫した。
「いったい……なんなんだっー!」
「……それじゃあ、ガク、行ってくるから……」
 その時、ひょいと顔を出したノリの格好をみて、現象、梢、舎人の三人は、目を丸くして凍りついた。
「……な、な、な……」
 と、現象が声を振るわせ、
「その格好で……外に出るんですか?」
 梢も、呆気にとられた口調で尋ねる。
「うん。
 そうだけど……」
 ノリは、自分のメイド服を見下ろして点検する。
「これ……どこか、ヘンかな?」
「……いや……似合っているとは、思うけどよ……」
 舎人が、何ともいいようがない微妙な表情をして、答える。
「お嬢ちゃん。
 最近の日本では……年頃の娘が、そんな格好で男を迎えに行くのが流行なのか?」
「……え?」
 今度は、ノリが目をぱちくりさせる番だった。
「流行……とかには、あまり詳しくないけど……。
 ボク、そういう話しは、聞いたことがないなあ……」
 少し考え込んでから、真面目な顔をして、ノリが答える。
「……そんな流行……どうっやったら出来るっていうんですか……」
 梢が、低く唸るような声で、つっこみを入れた後、気を取り直して尋ね直した。
「それで……ノリさんは、何で、メイド服なんかに着替えているんです?」
 梢の認識によれば、その服装は、確かに「ごく局地的な流行」ではあるものの……普通の女の子の普段着や外出着としては、決して、適しているとはいえない。
「何でって……」
 今度はノリが、首を傾げる。
「男の人にご奉仕する時は、こういう服装をするもんだ……って、茅さんからいわれて、貸して貰ったんだけど……」
 そう聞いた途端、舎人が、「……はぁー……」と、臓腑の底から太い息を吐き出した。
「姫様の……かぁ……。
 あの子も、どこか浮世離れしているからなぁ……」
 感心しているのか呆れているのかよくわからない口調でそう続け、
「……え?」
「この格好って……そんなに、何かおかしいの?」
「だって……茅さんだって、双子だって、普通に着ているけど……」
「ボクだって、昨日、それ着て学校まで迎えにいったし……」
 ガクとノリは、現象、舎人、梢の三人の反応をみて、どうやら、この服装にそれなりの問題があるらしい……ということを、ようやく、認識する。
「いいや……。
 おかしくはないし、実によく似合いっているよ……」
 舎人は、しみじみとした口調でそう呟いて、しきりに頷いた。
「ここにはここの、規範というのがあるんだろう。
 そもそも、おれたちがこうして雁首並べてファッション談義している時点で、もう、異空間なわけだし……今さら、この程度のことで驚くのも、あれかあ……」
「……ああ……まあ……そう、ですね……」
 梢も、弱々しい声で、舎人の言葉に追従する。
「お似合いだということは、確かです……」
 口ではそういったものの、梢自身、まったく同じ服を着ろ、といわれたら……かなり高い確率で、即座に断ったことであろう。




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