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彼女はくノ一! 第六話(71)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(71)

 掃除当番を終えた香也は、楓とともに茅の講義を受け、部活へと向かう。そういえば、もうすぐ、今学期の部活も終わるのだな……という感慨に捕らわれる。
 それは同時に、本年度の部活が総括されるということであり、その程度のことは、自宅でも絵を描く香也にとっては大した区切りでもないわけだが、今度三年に進級し、今後は受験に専念する……常々公言している樋口明日樹にとっては、それなりに大きな区切りとなるのではないか……と、香也は、ようやく思い当たった。
 その大事な時期に、香也は、部外者である有働とともに、ここ数日、なにやら明日樹の集中力を、妨げることを、していたわけで……。
 自分の迂闊さにようやく気がついた香也は、その迂闊さを、心中で毒づき、後で、それとなく詫びておかなくてはな……などとも、思う。
 そんなことを考えながら、楓を背後に引き連れて、香也は美術室に入った。樋口明日樹はまだ来ておらず、どんな顔をして明日樹と向き合えばいいのか、かなり心配になってきていた香也は、実のところ、かなり、安心した。
「……どうかしましたか?」
 香也の変化に対しては、かなり敏感な楓が、香也の微妙な表情の変化について、問いただす。
「さっきから……顔色が、悪いようですけど……何か、心配なことでも、ありますか?」
「……んー……」
 そう指摘されて、香也は、少し考え込み……結局、楓に先ほどようやく気がついた心配について、相談してみることにした。
 もともと、対人関係の悩みについて、極端なまでに経験が乏しい香也が独力でうまい解決策を出せるとは思えない。
 それに、こうしたことの相談相手として見た場合、楓は、それなりに頼りになりそうな気もした。
 香也は、たった今気づいた心配について、一通り、楓に話して聞かせる。
「……そんな、ことですか……」
 香也の言葉を一通り聞き終えた楓は、ため息混じりに答えた。
「おそらく、樋口さんは……そんなこと、気にしてはいませんよ……。
 どうしても気になるなら、はっきりとそういうと思いますし……」
 明日樹だって、自分の意志や都合を明確に示せないほど、子供ではない。
 明日樹は、香也ほど、絵を描く、という行為を重要視していないし、それに、三年生になっても、今のように毎日は残りはしないだろうが、受験勉強の気分転換に、時折、美術室にも顔を出すのではないだろうか?
 第一、明日樹なら、自分自身の都合うんうぬんよりも、むしろ、香也の絵が認められた……ということの方を重要視するのではないだろうか……と、楓は、想像する。
 おそらく……香也は、自分を基準にして、「絵を描くのを邪魔する/される」ということを、過分に受け止めすぎている……と、楓は思った。
 そこで、ごく簡単に、
「……香也様の、考えすぎですよ……」
 といってみせる。
 こうした苦言に近い細々とした事柄を、いちいち口に出して伝える……というのは、楓の性格だと、苦行に近い。相手が香也なら、なおさら……で、故に、楓は、くだくだしい説明をせず、ごく簡単に……しか、いえなかった。
 そういいながらも……他人への配慮とか人付き合いを避けてきた香也が、不器用なりに、明日樹の立場や都合を想像してみせた……というのは、香也にとっては、それなりに前進なのではないか……と、楓は思う。
「……んー……」
 楓の言葉を聞くと、香也は少し、考え込んでみせた。
「そういう……もんなの?」
 香也は香也で、楓の舌足らずな言い方を頭の中で反芻し、なんとか理解してみよう……と、努力は、している。
 しかし、香也には、いまいち、その辺の微妙な機微が、ピンとこない。
「そうですよう……」
 楓は、いいたいことがあまりよく、香也に伝わりきれない感触を得て、もどかしい気持ちが口調ににじみ出てしまう。
 楓は、頭の中でいいたいことを整理しつつ、今度は、もう少し詳細に、順を追って話そうと試みる。
「ええっと……。
 まず、樋口さんが、香也様にとっていいことを、喜ばないわけがありません。
 香也様が、有働さんの依頼を受けて、ポスターの絵を描いたり、そのポスターがあちこちに張り出されたりすることは、絶対に香也様にとって、いいことですよぉ。
 ひとつは、香也様の特技が、もっと広い範囲に知れ渡るため。
 もうひとつは、他の人とあまりつき合いのない香也様が、有働さんと共同作業をしているということ。
 そういうのを、樋口さんが、喜ばないわけはありません。樋口さん、本当に、香也様のことを考えているんですから……」
 楓は、ここで言葉を切り、香也が考える時間を与えた。香也は、「……んー……」と唸りながら、何やら考え込んでいる。

 そこに、当の樋口明日樹が、美術室に入ってきた。
「……なにやってるの?」
 明日樹は、美術室の片隅で向き合って座り、なにやら難しい表情を作っている香也と楓を見て、首を傾げる。
 いつもの香也なら、美術室に入った途端、間髪を入れずに、絵を描くための準備を行う……筈だった。まず、香也が深刻な顔をして楓と話し込む……という状況自体が、かなり、おかしい。
 この組み合わせで、深刻に話し合う……という内容を、思いつかない……というのも、あるが、それ以上に、この二人が内密に話しをするのなら、いくらでも家で出来るわけで、わざわざ放課後の美術室を使用しなければならない必然性は、どこにもない。
 ようするに、明日樹の目からみて、現在の状況は、あまりにも不自然だったわけだが……。
「い、いえ……」
 楓は、露骨に狼狽した様子で、明日樹から目を逸らす。
「なんでも……ないのですよ……」
 それを機に、香也は立ち上がり、絵を描く準備をはじめた。
 明日樹は、二人のきごちない様子に不審をおぼえたものの、それ以上、追求をするということもなく、香也に倣って絵を描く準備をはじめる。もうすぐ三年生になる明日樹にとって、今の学校でゆっくりと絵を描くことができる時間と期間は、もうかなり限られており、そのことを明日樹自身も自覚しているため、時間を無駄にはできなかった。




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