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彼女はくノ一! 第六話(74)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(47)

 テン、ガク、ノリの三人は、三島の車から降り、狩野家に向かう。
 庭のプレハブは、窓から灯が漏れていなかったので、香也はもう、母屋に帰ったようだ。かなり高い確率で、もう寝ているのだろう。三人がこの家に寝泊まりするようになった時には、すでに、香也は楓孫子の影響もあってかなり規則正しい生活を送っていたし、香也が早めに就寝することも珍しくはない。
「……おにーちゃん、もう、寝ちゃったかな……」
 などと話し合いながら、玄関から家の中に入った三人は戸締まりをして居間でテレビをみていた真理と羽生に声をかけ、風呂場に向かった。
「先生、明日は検査とかいってたね」
「今度も、かなり詳しく調べるらしいよ」
「現象も、加わったからね。今のうちに、詳しいデータ、取っておきたいんでしょ……」
 そんなことを話し合いながら、三人は服を脱いでいく。荒野が頻繁に、自分の憶測も交えて、「一族的な思考」というものを三人にも語るので、当事者であるこの三人も、自分たちのことを、ある程度客観的に眺める視線を持ちはじめている。
 三人の身体は、ここ最近、短期間に著しく成長してきている。
 真っ先に背が伸びはじめたノリは、今では楓や孫子と肩を並べるほどになった。背が伸びたほどには、体重が増えていない。つまり、ほっそりと縦に伸びた。
 ガクも、ノリほどではないが、背が伸びつつある。しかし、それ以上に印象的なのは、体型の変化の方で、凹凸の少ないお子様体形から、全体に丸みを帯び、ウエストがきゅっと締まって、腰と腿を中心として、脂肪がつきはじめている。小柄ながらもメリハリのある、実に女性的な体型に体形しつつあった。
 三人の中で一番、変化の少ないテンでさえ、ノリやガクほどには顕著ではなかったが、それなりに背が伸び、身体全体に、うっすらと脂肪がつきはじめている。
 この家に来た時は、外見からは性別も判別できなかった三人は、今では、成熟の度合いに違いはあっても、見間違いようがなく、「女の子」になっていた。

 一緒に湯船に浸かりながら、三人は饒舌に、早口でおしゃべりをしはじめた。テンは、自分たちを取り巻く状況の変化について、あるいは、学校に入学してからの行動指針などについて、自分の考えていることを他の二人に話し、ノリやガクも、それらの情報に自分たちが見聞した情報を補足したり、活発に自分の考えを述べたりする。もともと、島にいた当時から、経験したこと、考えたこと、発見したことを出来るだけ話し合い、把握した情報を共有する、というスタンスが三人の間には出来ており、だからこそ、現在の「一般人社会」という新しい環境への順応も、比較的短期間に完了した、という側面もあった。
「……明確な悪意がないけど……違和感が積もり積もって、排除される可能性、か……」
 テンの話しを聞いたガクが、ぽつりと呟く。
「なんか、ピンと来ないな……」
「ガク、鈍いからね。
 他人の悪意とかには、特に……」
 ノリは、テンの話しには、むしろ、頷いた。
「ボクは、わかるな、テンのいうこと。
 ボクが見てきた範囲でも、確かに、一般人社会は、見慣れない人を排除するような圧力をもっているし……」
 島にいたときは、「他人の目」など気にする必要はなかった。しかし、ここでは違う。
 思慮深く、物事の深い部分まで突き詰めて考える癖を持つテンや、真理とともに何日間か、ここよりも人が多い都市部を回ってきたノリは、自ずと気づいていることも、よくいえば純朴、悪くいえば鈍感で我が道を行くガクは、なかなか気づけなかったりする。
「ガクのそういう、他人を疑わないところは、長所でもあると思うんだけど……」
 テンは、内心では「……だから、ボクたちが余計に警戒してやらないと駄目だんだ」と思いながら、そういった。テンは、口にした通りに、そうしたガクの鷹揚さを好ましくも思っている面もある。
「……調べたら、そういう心理、同調圧っていうらしいね。
 みんな横並びでなければいけない、って心理……」
「……そんなこといったって……」
 ガクは、口唇を尖らせる。
「ボクたち……実際に、一般人の人たちとは違うんだから、しょうがないじゃないか……」
「その、しょうがないって言葉は好きじゃないな」
 ノリが、即座に反応した。
「なんか、現状を無条件に認めるみたいで。
 整理するよ。
 一般人が……一人一人はともかく、集団になると、その、いわゆる同調圧っていうのが発生しはじめる。特に学校のような教育機関の内部に入れば、その圧力は、かなり強くなる。
 これは、どうしようもない事実。ボクたちがいくら気にくわない、っていっても、そこの部分は変わりはしないから……」
 ノリが、さきほどのテンが告げた内容を要約すると、テンとガクは同時に頷いた。
「そこで、ボクらは、今後どういう方針をとるべきか……っていうことを、テンは問題にしたいんだよね?」
「そう、そう」
 テンは、また、頷いた。
「選択肢としては、いくつかあるけど……。
 まず第一が、出来るだけみんなと同じ振りをして、自分を小さくして、足並みを揃えて生きる。従来の一族がやってきた方法が、これ。
 次に……現在、かのうこうやがやっている方法だけど……出来るだけ、一般人並みに見えるよう、大人しくした上で、しかし、自分たちの正体は、隠さない。誇示するわけでもないけど……周囲の人たちの役にやつことをいっぱいして、出来るだけ、反感を買わないようにする……っていう方針。
 かのうこうやの場合、自分の意志で選択したっていうよりも、外部からの圧力によって、そういう方向にシフトせざるを得なかった、っていう感じだけど……目下のところ、ボクたちも、こっちの路線に従って動いている……」
「一般人でもないのに、一般人の振りをして、縮こまっているより……そっちの方が、ずっといいよ……」
 ガクが、口を挟んだ。
「だって……ボクたちは、ボクたちだよ?
 違う振りをすることは、できても……そんな、上っ面なウソ、長続きするもんじゃないよ。
 だから、自分たちの力を隠すよりは、それを他の人たちのために使って、ボクたちの存在を堂々と認めて貰う方が、絶対、いいって……」
 テンは、ため息をついた。
「……ガクの素直さは、やっぱり長所だなぁ……」
 ノリも、その後に続ける。
「ガク、本気で正義の味方になるつもりなんだもんね……」




[つづき]
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