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「髪長姫は最後に笑う。」  第六章(334)

第六章 「血と技」(334)

 テン、ガク、ノリの三人とともに、三島の車に乗り込む茅を見送った後、荒野はマンションに戻ってシャワーを浴び、下着からすべて新しいものに着替え、静流の家に向かう。
 静流には、今日中なら、時間帯はいつでも……と、いわれていた。来週に入ると、今度は店の開店準備に追われ、しばらく落ち着くまでは、静流の方が思うように時間がとれない……とも、いわれている。
 つまり、今日の機会を逃すと、またしばらくお預けになる可能性が高く……。
『……あれ?』
 と、そこまで考えて、荒野はふと疑問に感じる。
 なんだかんだいって……おれ、静流さんとのこと、楽しみにしているのではないか……と、思った。なんだかんだいって、荒野は、静流のことを、異性として意識している……と。
 例えば、シルヴィや酒見姉妹が相手なら、茅もあそこまではむっとはしないのではないか……と、荒野は思う。
 シルヴィとは、たとえ、実際に身体の関係があったとしても……荒野が兄弟同然に育ったシルヴィに抱く感情は、やはり、「肉親への愛情」以上のもにはならない。酒見姉妹に対する荒野の感情は、もっとビジネスライクなものだ。
 そうした「茅以外の、荒野と関係する女性たち」の中で、静流のことを考えると……やはり、茅の次ぐらいに、荒野は「女性」を感じてしまう。
 現に、荒野が、静流との逢瀬を楽しみにしているのは確かなことであり、茅も、そのことを感じていたから、あそこまで不機嫌になったのだろう。
『……そうか、そうか』
 荒野は内心で頷きつつ、静流の家に向かう。荒野は、自分の心が浮き立っているのを感じ、茅への後ろめたさと同時にこの前目撃した静流の白い裸体も、思い浮かべ……歩きながら、目立たない軽く勃起をしてしまっている。
 まだ午前中の、朝といっても時間であり、こんな早くから性交を前提に女性の家に出掛けるのも、荒野には、はじめての経験だった。茅との関係は大事に思っているわけだが、荒野にしみみれば、ああなるより他に選択肢がないような状態からはじまっている。その分、あまり、「恋愛感情」という意識はなく、どちらかというと、「家族」とか「一番近い身内」という意識になってしまう。
 もちろん、荒野にとって、茅は、なによりも大切な存在なわけだが……。
『おれも……』
 男だったんだな……と、荒野は思った。
 性欲はあるし、たまには茅以外の異性を抱きたい、とも、思う。生物の牡としては健全な欲求だが、一部の女性には、嫌われる性向だろう……と、他人事のように、自己評価した。

 カーテンの閉まった店の引き戸を軽く叩くと、引き戸のガラスが耳障りな音をたてた。
 すぐに、引き戸がすっと開く。
 カーテンを空けて中に入り、挨拶の言葉をかけようとして、そこには誰もいないことに気づいた。
 いや。
 正確には、足元に白い毛並みの犬が蹲っている。
「……お前が、戸を開けてくれたのか?」
 荒野は、言葉をかけて見たが、呼嵐はピクリと耳を動かすだけで、蹲ったまま、その場から動こうとはしなかった。
「か、加納様、ですか?」
 店の奥から、静流の声が聞こえる。
「……そ、そのまま、上までお上がりください……」
 どうやら、静流は、階上で荒野のことを待ち構えているようだ。
「じゃあな、呼嵐……」
 荒野は、まだ何もない店の中に蹲ったままの白い犬に小声で呼びかけ、店の奥に向かう。
 以前、来たことがあるので、階段から二階に上がる道程は記憶していた。
「……お邪魔します」
 と声をかけ、荒野は靴を脱いで台所と兼用になっている狭い板の間にあがり、その角にある、階段へと進む。
 とん、とん、とん……と軽い音をたてて階段を上がるうちに、軽く硬くなっていた股間が持ち上がってきて、歩きにくくなった。
 どうやら……おれは、自分で自覚していた以上に、静流のことを求めているらしい……と、荒野は他人事のように、そう思う。

「……お、お待ちしておりました……」
 階段を上がりきったところで、静流がいきなり三つ指をついていたので、荒野は激しく動揺した。
「で、出迎えもせず、し、失礼しました……」
「い、いや……戸は、呼嵐が、開けてくれたし……」
 珍しくどもりながら、荒野は答える。
「あ、あの子……気に入らない人は、吠えかかるのです……」
 加納様は、気に入いられましたね……と、静流にいわれ、荒野は複雑な気持ちになった。
 先程、呼嵐は、戸は開けてくれたものの、荒野の存在など知らぬ気に、悠然と蹲っていたものだが……。
「そ、そうですかね……」
 荒野は、またもや、どもってしまう。
 どう考えても、あの犬が荒野のことを「気に入った」ようには、考えられなかった。
「そ、それ……わ、わたしの、真似ですか?」
 静流が、顔をあげて膨れてみせる。
「いえ、そういうことでは、なくて……ですね……」
 荒野は、静流の前に膝をついて、静流と顔の高さを同じにした。
「静流さんにお呼ばれして、これでも、緊張しているのです」
 そういって、荒野は、静流の頬に指をあてる。
 ぴくり、と、一瞬、静流は身体を震わせたが……すぐに、緊張を緩めた。
「……わ、わたしの方が……も、もっと、緊張してます……。
 この間、あんなことがあったのに……か、加納様を、自分で呼び付けたりして……」
「……嬉しいですよ、そういうの……」
 荒野は、静流に顔を近づける。
 吐息や体温で荒野の接近を感じたのか、一度緩みかけた静流の身体に、また緊張が走った。
 それを確認した荒野は、このまま静流を押し倒し、強引に服を剥いでしまいたい衝動に駆られる。
「お、お世辞は、いいのです……」
 静流は、緊張した面持ちで、荒野に告げる。
「か、加納様は……あくまで、野呂との取引として、わ、わたしにお逢いになってくださるわけで……」
 荒野は、暴力的に静流と交わりたい衝動を抑えながら、静流の手首をそっと掴んで、自分の股間に導いた。
「……あっ」
 指先に荒野の硬い感触を得、それが何か悟った静流が、小さな声をあげる。
「静流さんに、二人っきりで会えると思っただけで……こんなになっているんですけど……」
 荒野は、静かな声で、静流に告げた。
「……これも、お世辞だと思いますか……」
「し、知らないのです。
 だ、男性のことは……ちっとも……」
 静流は、荒野の視線から逃れるように、顔を伏せる。
 その頬が、早くも紅潮しはじめていた。
「好きな……抱きたいと感じる女性のことを考えると、男は、こうなるんです……」
 荒野は、静流の耳に口を近づけ、そこに息を吹きかけるようにして、囁く。
「……ここに来るまで、随分、歩きにくかったです……」
「し、知りません……」
 静流は、身体を小さくして、小さな声で呟く。
 荒野は、そんな静流の肩に手をかけ、抱きすくめた。
「……きゃっ!」
 と、静流が、小さい悲鳴をあげる。
「さっきから、静流さんを押し倒して、乱暴に服を剥いで……思う様、犯してやりたいという欲望と戦っています……」
 荒野は、静流の肩を抱き寄せて密着しながら、静流に囁いた。
 静流は、荒野の腕の中で身を硬くしながら……しかし、荒野の股間にあてた手を離そうとしなかった。




[つづき]
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