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彼女はくノ一! 第六話 (77)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(77)

 このところ、孫子は多忙であった。理由は、いうまでもあるまい。先日、事業主になったばかりだったからである。
 孫子は周到な計画を作成して、その計画通りに淡々と作業をこなしていくことも苦にしない、几帳面さを持っていたが、会社を一つ経営するとなると、流石に自分一人だけの裁量で片がつくことばかりではない。それどころか、社内、社外の不特定多数の人間とつき合い、取引をするわけだから、不測の事態は常に起こり得る。
 加えて、孫子の会社は、まだ業務を開始してから間もなく、用意した業務マニュアルにも、不備が多い。孫子は、時に自分の手で実際に作業をして作業マニュアルの整備をしたり、登録してきたアルバイトの中からしっかりしていそうな人を選んで、昇給を含む待遇改善を餌に、リーダー、サブリーダーを指名していったり……などという、「ゼロから事業立ち上げ」に必然的に伴う作業に忙殺されている形だった。
 業務自体の合理化と組織作りを平行して行っている形で、まだ社員は、事務員数名しか抱えていない現在、どうしても、孫子の負担は多くなる。
 開始して数日が経過した、商店街の配送作業に関しては、徐々に安心して仕事を任せられる作業員の目星がついてきたので、どうにか軌道に乗りはじめたところだが、孫子は、配送ルートその他の改善、工夫が必要であると感じている。
 そんなわけで、最近の孫子は、週末など学校がない日は、社用に買い入れた自転車の荷台にノートパソコンを放り込み、作業服姿でそれをにまたがって、町内のそこここを徘徊して、自社の従業員たちの作業ぶりを虱潰しにチェックして回っていた。自転車は、免許を取得していない孫子が気軽に乗り回せて、小回りが利く乗り物として重宝していた。時には、孫子自らが、汗を流して仕事に従事することもある。
 大局から事業計画を見直すのも重要だが、時には現場に出て、自分の身で末端の作業内容を確認してみることも、重要だ……と、孫子は、実家でしつけられていた。現場での孫子のチェックは、その性質上、ほとんど抜き打ちだったが、勤務態度いかんによっては、その日限りで登録を抹消されたものもいる反面、昇給とともにより責任のある立場に引き立てられる者も多かったので、現場にもおおむね歓迎されていた。
 孫子の会社では、周辺の相場より割り増しの時給を支払っている。そのかわりに、多少なりと手を抜いて仕事をした者は、容赦なく仕事を外された。競合の同業者との差別化を、孫子は、仕事内容のクオリティを高めることで、アピールしようとしている。
 現在のところ、孫子の会社の主な業務は、商店街の荷物を個人宅まで配送する仕事なわけだが、孫子は、これから徐々に、他の業種にも手を広げていくつもりだった。
 そのためには、一人でも多く信頼できる従業員を確保しなければならず、経歴や年齢、性別を問わず、人材を確保するために、孫子は、実際に仕事をやらせてみた上での入念なチェックと可能な限りでの公正な審査の上、できるだけ多額の報酬を支払えるよう、会社全体の財務状況を常に改善するように努めること……で、クリアしようとしていた。

「……いわれてみりゃあ……ここいら、経営規模と設備投資が釣り合っていない病院ばかりだよな……」
 三島は、舎人の他に誰もいない病院の待合い室で座り、ぽつりと呟く。
「長老が根を張っているってのは……そういうことなのか……」
 テン、ガク、ノリ、それに、現象が検査を受けている間、三島百合香と二宮舎人は、大人同士の話しをしている。
 このような時は、流石の三島もそれなりに引き締まった表情をしていた。
「……そういうことなんすよ……」
 舎人は、真剣な顔をしている三島とは対照的に、飄然とした態度を崩そうとはしなかった。
「おれたち、別に国とか大義名分のために命張っているわけではないだから……バックアップ……老後、怪我を治す、家族を住まわせる……そういう場所を、ごく普通の町中に、ひっそりと確保しているわけだ。もちろん、一つ二つってわけではない。
 この町も、……長老が長い時間をかけて下地を整えてきた、そうした土地のひとつだ……」
「……荒野のやつ、そんなこと全然、こっちには説明しないからな……」
 三島は、下唇を、軽く噛む。
「あいつは……国内の事情は、あんまり詳しく知らないんじゃないかな?」
 舎人は、少し首を傾げながら答えた。
「荒野のやつ……長老のこと、どうも苦手みたいで、必要なこと以外はしゃべっていないようだし……。
 長老も、聞かれない限りは……いいや、聞かれても、答えをわざとはぐらかして他人を煙に巻くようなところもあるし……」
「必要なことも、聞かれないと答えない……聞かれても、時に答えを濁す……か……」
 三島は、天井を仰いで、ぼやく。
「……そういや、荒野もそういうところ……あるよな……」
「荒野の場合は……」
 舎人は、何故かため息混じりだった。
「……あいつ、あれで、格好つけだから……知らないことを、素直に知らないっていえなくて……適当に誤魔化すことあるから……それが、故意に知っていることを、韜晦して伏せているように見える時があるんじゃないのか……。
 あいつは……外見や能力はともかく……中身は、まだまだガキのままなのに……自分では、いっぱしの大人のつもりなんだ……」
「お前さん……随分と、あいつのことをよく見ているじゃないか……」
 三島は、感心した顔つきで、舎人の横顔をみる。
「……まあ、あれも……荒野のやつも、半端に出来がいいからな。
 かえって自分のいたらなさに気づきにくいし、変に背伸びしがちなところがある、って点には、賛成なんだが……」
「……付き合いは、さほど長いわけではありませんがね……」
 舎人は、軽く肩を竦める。
「荒野は……物心ついてから、このかた……自分の境遇や出自を当然のこととして、受け止めようとしてきた。
 でも……どんなに出来がよくっても……どだい、無理ってもんでしょう。
 たった一人のガキが、一族の将来を丸ごと背負っちまうなんて……。
 それを、あの荒野は……自分なら、それが出来るもんだって、自然体で自惚れて……しかも、自分が無理をしているとは、これっぽっちも思っちゃいないんだ……。
 昔からあいつは、自分自身のことには無頓着だった……」
「……その無理が、どっかで来るかね?」
 三島が、再び表情を引き締めて、舎人に尋ねる。
「このままだと……いずれ、来ますね」
 舎人は、即座に頷く。
「何かきっかけがあって、取り返しのつかない失態をしでかすか……それとも、何事もなくても、心労が重なってポッキリといくか……」
 いずれにせよ……そう遠くない将来、何らかの変化があるでしょう……と、舎人は、呟く。




[つづき]
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