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彼女はくノ一! 第六話 (79)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(79)

「……中国文字……」
 楓は、少し考え込んで、ようやく彼らが言わんとしていることを察した。
「ああっ!
 漢字のことっ!」
「そう。そのカン、ジ……です」
「セバスチャン」が、大仰に頷く。
「カナの読み方は憶えましたが……シナの文字を、文脈によって幾通りにも読み替える現地の……当地の風習は、われらVisitorにとって、はなかなか厄介なのでごさいます……」
「……シナの、文字……」
 楓は、短い間だか、確かに絶句した。
「確かに、起源はChinaなわけですが……その、入って来た時代は、もう何百年も前のことですよ……」
 楓の感覚によれば、「漢字」は、もはや日本語の一部なわけであるが……「シナの文字」説も、決して間違いとは言えない。
「失礼ながら……我らには、東洋の方々……ChinaとKoriaの区別すら、明確ではありません。
 ましてや、Japanese!」
「……あらあら。
 結局、お隣りの加納さんの関係の方、なのですね……」
 それまで硬直していた真理が、急に生き生きとした態度で柏手を打って、話しに割り込んできた。
「……こんなところで立ち話もなんですから、楓ちゃん、お客さんを居間に入れてちょうだい。今、お茶をお出ししますから……。
 あら。いけない。
 もうこんな時間っ!
 お夕飯のお買い物に行かなくては……。
 わたし、お茶をお出ししたら、すぐに外出しますから、楓ちゃん、お客様の対応は、後はお任せしますね……」
 真理は早口にまくし立てると、楓の返事を待たずにそそくさと台所に引っ込んでしまった。
「……あっ……」
 楓は、一瞬、「……逃げられた……」と思いつつ、真理の背中に手を延ばしかけたが、よくよく考えて見れば、この来訪者二人が、明らかに一族の関係者だと分かった今、確かに真理がこの二人の対応をするべき理由は、ない……。
「……こちらに、お入りください……」
 楓は、若干肩を落として、二人の来訪者を家の中に招いた。
 とりあえず、家の中に招いて……すぐに、荒野を呼ぼう。それに、シルヴィも……と、楓は頭の中で「すぐやることリスト」を整備しはじめる。

「……Hey!」
 その日の夕方、文字通り「走り回っていた」孫子に、声をかけてきた者がいた。
「Are you …… son-su?」
 この時の孫子は、色気のない会社の作業服を着用して、荷台にかなりの重量物を載せて走ることができる、無骨な自転車に乗って、人気のない車道を走っていたところだった。
 この周辺では、週末とか休日になると、幹線道路以外の交通量は、極端に激減する。
 その時、孫子が走っていた車道にも、その声をかけてきた人物と孫子以外、姿が見えなかった。
 ……ネイティブの発音だな……と、その言葉を聞いて、孫子は判断する。
「わたくしの名前は、son-suではなく、そんし、と発音します」
 しかし、あえて……孫子は、明瞭な発音の日本語で答える。
「第一……他者の名を尋ねるのなら、その前に自らの名を名乗るのが、礼節というものです……」
「……Oh!」
 その、ローラーブレードで孫子の自転車と併走している人物は、大袈裟な動作で肩を竦めて見せた。
「……Sorry!
 My name is Isabel Anesaki!」
 ジーンズにノースリーブのジャケット、その下にTシャツ、という軽装。薄いブラウンのスポーツ・グラスをかけているので、瞳の色は判別できない。しかし、ヘッドガードからはみ出した髪は、燃えるような赤毛だった。
「……姉崎の、イザベルさん……で、よろしいのかしら?」
 孫子は、油断なく周囲を見渡しながら、慎重な口ぶりで対応する。
「姉崎を名乗るのなら、あなたも日本語の心得はあるでしょう。
 ここは、日本です。日本語でお話しなさい……」
 孫子とて、それなりの教育を受けてきている身だから、日常会話程度の英語なら、不自由なく操れる。
 しかし、いきなり姿を表したこの女性の目的が不明である以上、孫子はあえて、相手に負担をかける選択をした。
 イザベル・姉崎……と名乗るこの若い女性が、英語圏の人間なら、慣れない日本語を操ろうとすることで、多少なりとも、注意力が散漫になる筈……と、孫子は期待している。
「……Yes,……」
 イザベルは、「日本語で」という孫子の提案に、あっさりと頷く。
「……ほんじゃあ、不慣れじゃけん、日本語でいくかいの。
 機内からここに着くまで、ばっちゃに習ったこの言葉、試しにつこうとっとったんだけんど……みな、変なものを見る目付きでわしのことを見とったからの。
 ここしばらくは、英語で通しとったんじゃ。
 わしの日本語、どこぞ変なところ、あるんじゃろか?」
 そう返答され……孫子は、あやうくハンドルを切りそうになるのを、慌てて自制する。
 一瞬、よろめいた孫子は、体勢を立て直してから、自転車を路肩に寄せ、ブレーキをかけた。
「……それで……その……。
 姉崎のイザベラさんが、わたくしに、何のご用件かしら?」
 イザベラも、孫子の自転車の前に、立ち止まった。
「……どちらかというと、姉崎の一員として……というより、親父との関連で、挨拶しとった方がいいと思っての。
 わしの親父……Strange Love Cop.の取締役での……」
「……Strange Love Cop.……」
 孫子は、絶句した。
 Strange Love Cop.……ナイフから最新鋭の軍事衛星までを開発、製造し、世界中にばらまいている軍需産業の巨魁……。
 孫子の実家である、才賀グループの業務を考えれば、確かに、因縁浅からぬ関係にある。才賀もStrange Loveも、組織としてあまりにも巨大で、その活動も多岐にわたるため、単純に「敵」とも「味方」とも位置付けることはできないのだが……。
「孫子は、Rifle Womanじゃそうだの。
 わしの得意は、これじゃけん……」
 そういって、イザベラは、ジャケットの中からニ丁のオートマチック・ハンドガンを、ゆっくりとした動作で取り出す。孫子に見せつけるような仕草だった。
 両脇の下に、ホルスターを吊るしているらしい。
「……わしのこたぁ、堅苦しいのは苦手じゃけん、ベルとかベラとか呼んでくれりゃあ、ええ。
 わしも、しばらくはこの辺に住まうつもりじゃから、まずは、挨拶しておこう、思っての……」
 どうやら……敵意は、無さそうだ……と、孫子は判断する。

「……ああ。
 荒野か……」
 三島は、自分の車の中で背を小さく丸めて、携帯電話に話しかけている。
「……ついさっき、だな。
 フー・メイだかホン・ファだかいう、姉崎が三人、テンたちに声をかけてきてな……。
 茅とか舎人とかが止めようとしたが、三人組と現象が揃って挑発にのっちまって……結構、えらい騒ぎになっている……。
 一応、一目を避けて、検査用に確保していた体育館の中で暴れてくれているが……。
 ああ?
 そっちにも姉崎が出ているってか?
 それも、楓と孫子のところに……同時に?
 南米のジュリエッタと、北米のイザベラだぁ?
 こっちは、華僑だか客家だか知らないが、名前からして中華系だぞ……」
 三島は、そういってから携帯から少し顔を離して、呆然と呟く。
「……世界忍者、だな……」




[つづき]
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HONなび



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