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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(338)

第六章 「血と技」(338)

「……挿れます……」
 荒野は静流の膝を押し広げて、その間に自分の腰を割り込ませる。
 静流は、喘ぎながら、しかし、明瞭な動作で頷き、荒野を受け入れる意志があることを告げた。
 荒野は、亀頭を静流の入り口に当てがい、ゆっくりと上下に振る。荒野の硬直は静流の襞をかき分けて、ゆっくりと中に沈んで行く。
 静流は、はやり初めて異性を受け入れることで苦痛を感じているのか、時折、顔をしかめて「……うっ!」とか「……いっ!」とか、短い悲鳴をあげる。そのたびに荒野は、それ以上、静流の中に侵入するのを中断し、静流の中に入りかけた硬直を微妙に左右に振って、周辺の静流の肉をほぐそうとした。
 まだ、僅かに亀頭が半分も潜っていない状態だったが、荒野の慎重な侵入振りに、静流は破瓜の痛みとじんわりとその部分から染みてくる、痺れに似た快楽とがないまぜになったものを感じている。
 荒野があまりにもゆっくりと侵入してくるので、静流は、その動きがもどかしいような、もうすぐに中断して、身体を離して欲しいような、複雑な心境になっていた。
 しかし……口に出しては、
「……も、もっと……」
 などと、いっている。
 それで、またメリっ、と静流の肉を割って、荒野が一段深く、侵入してくる。茅や酒見姉妹など、処女と経験もそれなりにある荒野は、かなりゆっくりと、静流の表情を読みながら、侵入の度合いを調整していたが……だからといって、静流が感じる、身を引き裂かれるような苦痛がなくなる訳ではない。
「……い、一気に……」
 苦痛に喘ぎながら、静流は荒野に告げる。
 ……貫いて、欲しい……という静流の意図は、荒野には伝わったようで、荒野は、
「痛いですよ……」
 と、前置きした後、静流の体が上に逃げないよう、肩の上に腕を回して固定する。
 静流は、荒野の首に腕を回し、身体を密着させて、荒野の口を求めた。
 汗まみれの二人の身体の前面が、隙間なく密着し、それまで、ほんの先端が沈んでいただけの荒野が、本格的に静流の中に入ってくる。
 ……自分の身体が、半分に裂けるのではないか……という錯覚を、静流は感じた。
 もはや、苦痛や快楽を通り越して、身体の半分以上がじんじんと痺れている。
 静流は、きつく眼を閉じて、「んんっ! んんっ!」とうめき声をあげながら、いつまでも荒野の口を求めて抱きついていた。

 ……そうして、どれほどの時間が経過したことだろう……。
「……全部、入りましたよ……」
 耳元で、荒野の声が聞こえた。
 最初のうち、静流は、荒野のいう意味が、よく理解できない。
「……あ、あ……」
 焦点の合わない瞳で荒野を見上げて、そんな声をあげた。
「おれのが、最後まで、静流さんの中に入りました」
 ぼんやりとしている静流の様子をみて、荒野は、同じ内容の言葉を繰り返す。
「……あっ!」
 ようやく、荒野の言葉を理解した静流は、短い声をあげた。
「わ、わたし……。
 か、加納様の女に、なったのですね……」
 すると今度は、荒野の方が、一瞬、虚をつかれた表情になる。
「……その……ご自分を、誰かの所有物のようにいう感性は……正直、あまり共感できません……」
 しばらくして、荒野は表情を引き締めて、静流にいう。
「……静流さんは、おれの女でもなんでもない」
 次の瞬間、静流は、破瓜の苦痛も忘れて吹き出している。
「か、加納様は……本当に、真面目な方なのですね……」
 しばらく笑い転げた後、静流は、ようやくそういうことができた。
「そ、そういう方でなければ……今のような複雑な状況に……しょ、正面から、対峙しようと思いませんものね……」
 結合しながら、笑われた荒野の方は……なんで静流が笑い出したのか理解できず、憮然とした表情をしている。
「お、お気を悪くしたのなら、謝罪します……。
 だ、だけど……やっぱり加納様の相手は、茅様なのです……。
 わ、わたしも……時々でいいので……こうして、抱いてください……」
 この人は……あまりにも、大人びているので、時折、忘れるが……基本的には、年齢相応の、未成熟な部分を抱えているのだ……と、荒野について、静流は、思う。
 いや。
 今まで経験してきていることに、大きな偏重があるため、ある局面においては、同年配の子にも劣る部分も、あるのではないか……。
 例えば、異性の扱い、とか……。
 特定の局面だけに限定すれば、荒野は、大人顔負けのプロフェッショナルである。
 しかし、一度、プライベートな側面に入ると……意外と、不器用なのではないか……。
 そんなことを考えながら、静流は、
「も、もう……大丈夫、ですから……。
 か、加納様のよろしいように、動いてみてください……」
 と、いった。
 肉を裂かれた苦痛は、相変わらず、感じている。苦痛を通り越して、今でも下半身全体が痺れ、感覚がないような状態だった。
 しかし、それ以上に……静流は、この、なんでもできる癖に、ひどく不器用な少年を、自分の身体を使って、楽しませたくなった。
 痛みは、その気になれば我慢することができる。それ以上に、この、いつも張り詰めている少年の緊張を、自分の手で、身体で、ほぐしてあげたい……という要求の方が、静流の中で大きくなっている。

 荒野は、最初は遠慮がちに、次いで、徐々に動きを早くして、静流の上で、はねはじめた。
 静流も、最初のうちは痛みを堪えるだけだったが、荒野が自分の中を出入りするうちに、じんわりと微妙な、奇妙な感覚を、自覚した。それは、荒野が動くにしたがって段々と大きくなり、やがて、痛みを以上に、静流を意識を占めるようになる。

 そのままの状態で何十分か動いたあげく、荒野が静流の中に熱い固まりを放った時、静流は、
「……あーっ、あーっ、あーっ!」
 と、かなり大きな声をあげていた。
 静流自身にも、それが、痛みを堪えかねて上げた悲鳴なのか、それとも、静流の感じた快楽が喉を通して出た歓喜の声なのか、判然としていない部分がある。
 極めて珍しい事例ではあるが……静流は、初体験時から、一種のエクスタシーを感じることができた。

 荒野が長々と静流の中に射精した後、疲労と虚脱を感じた二人は、しばらく折り重なって、そのまま動くことができなかった。
 何分か、そのまま抱き合って息を整えた後、静流は、自分の中に在る荒野の分身が、まだ力を失っていないことに気づく。
「……ま、まだ……硬いままですね……」
 静流は、そういって荒野に微笑んでみせ、その後、抱きついたままで荒野の身体を仰向けに転がし、結合を解かないまま、その上に、跨る。
「……ちょっ……。
 静流さん……はじめてなのに……」
 荒野は、驚きの声をあげながらも、静流のするがままにさせておいた。
「い……痛みは、我慢できます。
 い、今は……加納様に、何かをしてさしあげたいのです……」
 結合したまま、荒野の上に座り込んだ静流は、そういって、膝をたてた。
「そ、それに……んんっ! はぁ……。
 痛いのは、相変わらずですが……ふっ!
 だ、段々……よ、良くなって、きました……」
 そういって静流は、荒野の上で、自ら、腰を降りはじめる。
 すでに一度、荒野が静流の内部に大量に射精しているので、二人の結合部の潤滑油も、十分にあった。
 ……はぁっ……はぁっ……と安定した吐息をつきながら、静流は、自分から腰を振って、荒野の硬直を味わいはじめる。




[つづき]
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  • 2007/06/15(Fri) 20:16 
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