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彼女はくノ一! 第六話 (80)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(80)

 ジュリエッタと自称「セバスチャン」という主従を連れて居間に入ると、二人の姿をみた香也が、ぽかんと口を空けた。真理はいそいそとお茶を入れると、
「じゃあ、楓ちゃん。後はお願い」
 とかいって、そそくさと居間を出て行く。
 楓は、真理の後ろ姿をみながら、「……逃げたな……」と思いつつ、香也に二人を紹介する。
 とはいっても、楓が知り得た情報はいまだ少なく、ジュリエッタが姉崎に連なる者である、ということ、それに、自称「セバスチャン」がジュリエッタの家来というか子分というか、ともかく、おつきの人であるらしい……ということくらいで、二人の名前を香也に告げると、楓も、後が続かなくなる。
「……んー……。
 姉崎……」
 珍しく、楓に助け舟を出したのは、香也だった。
「シルヴィさんは、もう、知っているの?
 あと、もう一人の荒野さんも……」
「あっ。はい。
 まだです……」
 香也にいわれ、楓は、背筋を延ばす。
「今、連絡をいれます。
 それで、こちらの方は……」
「今、もう一人のコウヤいいました」
 香也を紹介しようとした楓の言葉を、ジュリエッタが遮る。
「ということは……カノウ・コウヤが二人いて、今、目の前にいるのは、イチゾクとは無関係の、カノウ・コウヤ……と、いうこと?」
「……そういうことに、なります」
 楓は「察し悪い人では、ない……」と、ジュリエッタのことを評価する。今までに知り得た、最小限の断片的な情報から、即座に自分の勘違いを訂正できるくらいには、頭が切れるらしい。
「では、イチゾクのカノウ・コウヤの居場所か連絡先、教えてもらえませんか?
 すっかり、この家に、イチゾクのカノウ・コウヤ、いると思ってました……」
「連絡は、これからします」
 楓が、携帯電話を取り出す。
「近くにいると思うので……呼ぶ方が早いです」
 今までに何度か「緊急事態」を経験してきている楓は、このような場合、荒野を呼び付けることに抵抗がない。むしろ、対応が遅れることで話しがこじれることを恐れた。なんらかの事情で荒野が動けなければ、指示を仰げばいい。
 しかし……荒野は、電話に出なかった。
 仕方なく、楓は、その場で用件をメールに書いて送信し、時刻を確認して、「……茅様……まだ、検査をしている頃かな……」と予想して、同じ文面のメールを茅にも出して置いた。
 それから、ようやくシルヴィに電話をする。シルヴィの番号は、いざという時のために、以前、携帯に登録してさった。
 シルヴィはすぐに出て、はきはきとした口調で楓に必要な事項を説明させると、「すぐにそっちに向かう」といって通話を切った。

「……んー……。
 だから、発音が同じだけで、別人……。
 そちらの方には、よく間違えられるのだけど……」
 楓が電話やメールをしている間に、香也がレポート用紙に、「加納荒野」という字と「狩野香也」という字を、大書きしていて、来客の二人に説明しているところだった。
「そちらの方」というのは、おそらく一族の関係者のことで……これは、荒野に関する資料の大半が、英語をはじめとするアルファベットで記されている訳で……もう一方の香也の方は、年端も行かない学生であり、そもそもプロフィールなどを記した資料が流布しているわけもない。何の予備知識も持たない第三者は、通常、条件的に、両者を比較することすら、思いつかないのであった。
 思い返せば、楓が最初に見せられた資料も英文で、身長、体重などのデータは記載されていたが、写真はなかった。本人を目の前にすると、印象はぜんぜん異なるが、香也と荒野の背格好は、だいだい同じくらいである。
「……この、前の字が、ファミリーネーム……」
 ジュリエッタは、香也がレポート用紙に書いた、「加納」という文字と「狩野」という文字を、交互に指さす。
「それで……チョウロウのカノウは、こっち……」
 今度は「加納」の文字を指さす。
「このハウスに住むファミリーは、こっち……。
 イチゾクとは無関係の、people……」
 ジュリエッタは、「狩野」の文字を指し、首を傾げる。
「……セニョリータ・カエデは……なんで、こっちの家にいますか? 関係のない家に?」
「楓、だけでいいです」
 楓はジュリエッタに訂正を求めてから、
「……いろいろな事情があって、こちらの家に下宿させていただいてます」
 と、簡単に、説明する。
 初対面の人間に、当初の細々とした事情を遂一説明するつもりは、楓にはなかった。
「……ゲシュク?」
 耳慣れない単語を、ジュリエッタが聞き返す。
「ステイ……している、ということです」
 ジュリエッタよりは日本語に堪能であるらしい「セバスチャン」が、補足説明をした。
「……Oh……homestay……」
 ジュリエッタは小さく呟き、何度も頷く。
 その勢いで、ジュリエッタの大きく胸が、たっぷんたっぷんと揺れた。ジュリエッタは胸元が大きく開いたドレスを着ていたから、隣に座っていた香也は、顔を赤くして慌てて視線を逸らす。
 ……楓のよりも、大きいな……と、そんな感想を持ってしまった。流石は、外人さん。
「……加納様には連絡がつきませんでしたが、シルヴィさんは、すぐにこちらに向かうそうです」
 楓は、そんな香也の変化には気づいて少し表情を硬くしたが、素知らぬ顔で話題を変える。
「それで……ジュリエッタさんは、どういったご用件で、こちらに来たんですか?
 やはり、茅様とか新種が狙いですか?」
「……狙い……」
 ジュリエッタは、何か意味を含めたような笑い方をした。
「ジュリエッタは、ドン・カノウに、雇っていただきに来ました」
「……日本語でいう、出稼ぎです」
「セバスチャン」が、ジュリエッタの言葉を補足する。

 香也と楓は、思わず顔を見合わせた。

 時間を少しさかのぼる。
 茅と三人娘、それに、現象を含めた五人の身体検査は、滞りなく行われていた。各種スキャンや身体的なデータの採取はだいたい午前中に終わり、昼食を挟んで指定されたスポーツジムに向かう。そこの一区画を借り切って、新種たちの運動能力を測定する予定だった。
 この行程は、以前の検査の時とほぼ同じであり、強いていえば、検査に必要な機器を使用できるタイミングの問題で、検査の順序が多少、前後している程度の違いしかない。
 付き添いの経験がある三島の車に、茅と三人娘が乗って先導し、その後を、舎人の運転するワゴン車が追いかける形で、いくつかの医療施設を梯子した。そのワゴン車には、現象と梢が同乗している。ワゴン車は、舎人がここでの生活が長引くことを想定して、購入した中古車だった。
 一人二人ならともかく、ある程度まとまった人数が生活するとなると、買い物一つするのにも、自前の足がなければ不自由する土地柄である。

 関係者以外の出入りを完全に遮断した上で行われ各種測定は滞りなく進行し、そこではじき出された数値は関係者を驚かせた。
 茅やテン、ガク、ノリについては、わずか数週間前に行われた同様の測定の時のスコアから、著しい成長をみせていた。
 ガクとノリに関しては、外見上の変化も激しく、その成長についても、関係者をどこか納得させるところがあったが……前回の時には、「身体能力的には、一般人の水準以下」とされた茅までもが、今回は、大幅に能力を向上させていた。
 今回、茅がはじき出したデータによれば、茅は、一族の平均値に迫り、一部のパラメータは、遙かに凌駕さえ、している……。

 その場に集まっていたのは、当然のことながら、一族の息がかかった、かなり深いところまで事情を知っている者たちばかりだったが……それでも、彼らは、ごく短期間でこれほどの成長をみせたことに対して、驚きを隠せないでいた。




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  • 2007/06/16(Sat) 17:12 
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