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彼女はくノ一! 第六話 (84)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(84)

「……われら、姉崎は、伝統的に研究熱心なのです」
 フー・メイが、周囲によく通る声で説明しはじめた。
「加えて、肉体的にいうのなら、女系ということもあり、六主家の中でも最弱、とされてきました。
 いや、身体的な能力に限らず、姉崎には、加納のように一代で膨大な知恵を蓄積する寿命も、佐久間のように卓越した知力もありません。一般人並の寿命と、一族でも最低レベルの貧弱な肉体があるだけです。
 ただ……母から子へ、子から孫と収集した知識や体得した技を、愚直に引き継いでいきました。
 単純に、筋力や反射神経などを比べれば、われら、姉崎は、あなた方新種はおろか、他の一族の方々の足下にも及びません。
 ですが……それでも、幾世代にも渡る研鑽と創意工夫の蓄積は、この貧弱な肉体でさえ、あなた方新種を、凌駕することができます……」
 決して、勝ち誇った口調ではなかった。
 淡々と、事実を事実として告げる口調が……かえって、テンやガクの耳には……痛い。
 ただ一人、フー・メイたち三人に挑まなかったテンが、フー・メイの前に進み出て、膝をついた。
「……どうか、その技を……ボクたちに、伝授してください……」
 テンは、フー・メイに頭を垂れながら、静かな口調で懇願した。
「……賢い子だ……」
 フー・メイは、ふ、と、笑みを漏らす。
「加納の姫が、どうやら予測したように……われらがここに来た目的は、あなた方新種が、われらの技を伝授するのに値する存在かどうか、見極めるためでした。
 しかし……」
 フー・メイは、ふと顔をあげ、三島たちが去っていった出入り口に、顔を向ける。
「……どうやらここで……無粋な邪魔者が、入ってくるようですが……」
 ばん!
 とそこのドアが開いて、大柄な、古風なドレス姿の女性を先頭にして、数人の男女が入ってくる。
 だいたいは知った顔だったが、先頭の女性を筆頭に、何人か、見慣れない顔も混ざっている。
「……オーラ! アミーゴ!」
 最初に入ってきた女性は、つき従っていた顔色の悪い男から、細長いプラスチックのケースを受け取り、その中から、素早く、手慣れた動作で、長大な細身の剣を二振り、取り出して、ケースを放り投げる。顔色の悪い男が、やはり手慣れた挙動で、女が放ったケースを受け止めた。
「……二天一流!
 ジュリエッタ・姉崎、参るっ!」
 ジュリエッタという女性は、誇らしげに両手に持った長剣を構えた。
 片刃で反りの入った日本刀、ではない。両刃の、直剣だった。しかも、ひどく長い。刃渡りの部分だけで、それを持って構えている、ジュリエッタ自身の身長と同じくらいの長さになる。柄の部分までを含めれば、二メートル近くになるのではないか。
 ジュリエッタは、そんな細長い得物を片手に一つづつ持って、構えている。
 また、その構えが、ぴったりと決まっていて、隙がない。  
 ただ、得物を持って立っているだけで……その得物が、手になじんでいることが、容易に推察できた。
「……オンビンにぃーできない人はぁー、ジュリエッタが斬り刻むねーっ!」
「……何だよ、それは……」
 ジュリエッタの後ろについてきていた荒野が、文字通り、頭を抱えている。
「実は、ジュリエタ様は、日本語があまり得意とはいいかねまして……」
 細長いケースを抱えたセバスチャンが、ぼそぼそした声で、荒野に告げる。
「……耳慣れない単語や、複雑な言い回しは、理解していないではないかと愚考します……」
「二天一流……二刀流って!
 ……武蔵かよっ!」
 すかさず、三島がつっこみを入れる。
 しかし、それからすぐに、
「いや……でも……柔術の例もあるし……意外と海外の方が、そういう古い流儀は、原型のまま、伝わっているものなのか?」
 などと、自分の前言を打ち消しにかかった。
「姉崎は、伝統として、知識とか情報を収集し、蓄積し、研究することには、熱心なのです……」
 シルヴィが、誰にともなく、解説をはじめる。
「それに……二天一流の、いわゆる宮本武蔵が生きていた時代には……姉崎の祖先も、まだ本格的に、拠点を海外に移していませんしたから……」
 実際に、開祖直伝である可能性は、完全に否定しきれない……ということらしい。
「Oh!……Musashi!
 Musashi Miyamoto!」
 何故か、荒野たちと入ってきた赤毛の少女が、ここで大声をあげた。
「……It's……Vagabond!
 Eiji YoshikawaのNovel、読んだことあるねっ!」
「いわゆる、武蔵は……碑文や弟子たちが残した記録によって、剣聖のイメージが残っている人物ですが……実際に強かったかどうかは、異論が出ている人物でもあります。有名なところでは、文士の菊池寛と植木三十五の論争などがありますが……」
 孫子までもが、すっかり解説モードになっていた。
「……現実の武蔵はどうか、知らんがな……」
 三島が、双剣を構えて微動だにしないジュリエッタを指さして、指摘する。
「……あの、でか乳ねーちゃんは、結構やるんじゃないのか?
 あの、二刀流ってやつを……。
 現に、あんな長物……片手で、軽々と持ってるぞ……」
 
「……道化が……」
 フー・メイは、苦笑いを浮かべて静かに呟き、
「ホン・ファ、ユイ・リィ、手出しは無用!」
 と、厳かに、仲間たちに宣言し……無造作に、ジュリエッタの前に進み出る。
「……フー・メイ。同じく、姉崎。
 一介の、拳士。
 流派の名を部外者に漏らすことは、禁じられている。
 ご所望なら、お相手つかまつる……。
 ここにいる子供たちに……六主家最弱の姉崎がどう戦うのか、披露するいい機会だ……」
 そういって、フー・メイが躊躇することなく歩んでいくと……ある一点で、ジュリエタが、動いた。
 より、正確にいうと……ジュリエッタの体幹を中心とした、銀色の弧が、幾重にも発生した。ジュリエッタが剣を振るう度に、残像が、銀色の半円となって出現する。
 そして、その銀の半円を歪めながら、フー・メイが、ジュリエッタに近寄っていった。
 半円は、フー・メイの身体の周囲に近寄ると、そこで、フー・メイの身体を避けるように、大きく上下に歪曲する。
 どうやら……フー・メイが、手足をジュリエッタの剣に当てて弾いているらしい。
 ジュリエッタは、何度もフー・メイに剣を弾かれながらも、素早く体勢を立て直し、再度、斬劇を入れる……ということを、繰り返している。 
「……おお……」
 三島が、感嘆の声をあげる。
「しっかり二刀流、しているじゃないか……。
 それ、素手で弾く方も、いい加減非常識だが……」
「……うわぁ……」
 顔をあげたノリも、呆れたような声をあげた。
「刃身の横から力を加えて……軌道を、ねじ曲げている……」
 ノリの動態視力なら、その様子が、つぶさに観察できる。
 しかも……フー・メイは、特に意識を集中させているようでもなく、涼しい顔をして、そうした離れ業を行っている。
「……考えずとも……身体が、自然に動く」
 フー・メイは、一言呟くと、さらに大きく、前に踏み出した。
 ごおぅっ、と、周囲の空気が音をたて……。
 それまで攻勢に徹していたジュリエッタが、はじめて、大きく跳躍して退いた。
「……避けた……」
 ノリの目は、拳と脚によるフー・メイの、幾重にも重なった攻撃を、ジュリエッタが、すんでのところでかわた……動きを、しっかりと捕らえていた。
「……なかなか、やるねー……」
 ジュリエッタが、のんびりとした語調で、声を出す。
 ジュリエッタの額が薄く切られて、うっすらと血が滲んでいた。




[つづく]
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