2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

彼女はくノ一! 第六話 (85)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(85)

 跳躍して大きく後退してから、ジュリエッタは、それまでの「待ち」の姿勢から脱却して、積極的にフットワークを活用するようになる。
 ただでさえ、攻撃可能レンジが広いところに加え、一族の脚力で不規則に周囲を跳ね回り、長大な刃物を振り回すジュリエッタの姿に、ギャラリーは慌てて会場の隅まで後退、退避した。
 ここではじめて、先にここにいた茅やテン、ガク、ノリたちと、後から来た荒野たちのグループが合流する。現象は、気を失ったまま舎人に抱えられており、ガクは、首を振りながら、先程のダメージから回復しつつある。
 その時のジュリエッタの印象を率直に述べるのなら、「走り回る凶器」、だった。
 合流した、といっても、まだゆっくり話し合って情報を交換する、というほど、落ち着いた状況ではない。

「……それにしても……こうして間近でみると、凄いな……」
 三島が、呆れが混ざった口調で呟く。
 何しろ、数メートルの間合いを一気につめて、両手で長剣を奮うジュリエッタと、素手で、そのジュリエッタにまったく引けを取っていない、フー・メイとの戦いが、目の前で展開されている。
「でも、あの二人……」
 三島は、少し、首を傾けた。
「二人とも、なんか……笑ってないか?」
「……笑っている!」
 乱入して来た三人組のうち、一番年少であるユイ・リィが、無邪気な歓声をあげて、三島の言葉に同意した。
「あの、長剣使いの人も、すごいっ!
 姉様と互角にやり合える人、ひさしぶりっ!」
「全力を出せる人とめぐりあえて……」
 ユイ・リィより少し年長のホン・ファも、そういって頷く。
「フー・メイの姉様も、喜んでいる……」

「……誰だよ……姉崎が最弱だなんていったのは……」
 舎人は、なんとも間の抜けた顔をして、この事態を見守っていた。
「二宮や野呂にだって……ここまで動けるのは、少ないぞ……」
「……彼女たちの場合、少数の例外と見なすべきですが……」
 自身、姉崎であるシルヴィが、舎人の独白に答える。
「……フー・メイの方はともかく、あのジュリエッタについては、こちらでも把握していなかった……」
「……ジュリエッタ様の血族は、ここ何代か、領地内に引きこもって、外部の方々とはあまり接触してこなかったもので……」
 セバスチャンは、シルヴィにそういって、軽く会釈をした。
「コウ……あの、二刀流……お買い得よ」
 シルヴィは、今度は荒野に顔を向けて、頷いて見せた。
「フー・メイと、あれだけ渡り合える者を身近に置いておけるなんて……」
「……そうはいっても……先立つものが、なあ……」
 しかし、荒野の返答は、慎重なものだった。
「あれだけの術者を拘束するだけの金なんて、どこにもないぞ……」
「対価なら……今、すぐに……とは申しません」
 セバスチャンが、荒野に囁きかける。
「お嬢様は……むしろ、若が示された共生のビジョンに共感し、それに賭けようとなさっています」
「……買いかぶりだな……」
 荒野は、ため息をついた。
「その、共生のビジョンとやらも……別に、自分で希望したものではなく、状況に押し流されて、泥縄式に後から理屈づけたようなもんなんだが……」
「……ご謙遜を……」
 セバスチャンは、荒野に頭を下げた。
「こちらの詳しい事情は、知りませんが……いずれにせよ、お嬢様の、本物を見極める嗅覚は……本物です。
 ゆえに、若様も、本物ですあると確信しています……」
「あの、ジュリエッタさんの勘は……そんなに、凄いのか……」
 荒野は、聞き返す。
「ここ一番、という時に、お嬢様の選択に賭けて、後悔したことはございません……」
 セバスチャンは、真面目な顔をして、頷く。
 強い信頼関係で結ばれているようで、何よりだ……と、荒野は思った。
「……さて、流石に二人とも、息が上がってきたようだし……」
 ……無粋だが、止めに入るかな……と、荒野は動き出す。
「楓。
 六角、二つ貸して……」
 荒野は、楓の前に手を差し出す。
 楓が、差し出された荒野の掌の上に、隠し持っていた六角を二つ、乗せると……。
 次の瞬間、荒野の腕が一閃し、ぶん、と風切り音を発する。

 少し離れた場所で、金属がぶつかりあう音がした。
「……Oh! Oh!……」
 ジュリエッタが、自分が手にしている剣を、信じられない物を見るような目で、見つめている。
 二本の剣に、一度に、六角をぶつけられ……剣の刃が損なわれる、ということはないのだが、衝撃で、ジュリエッタの手が痺れている。かろうじて、剣を取り落とすことはないのだが……それでも、今までのように、自由自在に剣を奮うことは、できそうにもない。
 ジュリエタの動きが止まったのを機に、フー・メイも、後退して距離をとる。
「……そこまで……」
 荒野は、静かな口調で告げた。
「それ以上は、不毛でしょう……。
 もともと、大した理由があってはじめたわけではないし……二人とも、この辺で収めてください……」
 フー・メイが、荒野に向かってはっきりと頷いて見せた。
 セバスチャンがジュリエッタに近づき、ジュリエッタの手から剣を受け取って、プラスチックのケースに剣を収めた。
「……Oh Great……」
 剣を手放したジュリエッタは、いまだ痺れ続ける自分の手を見つめて、しきりに頷いていた。
「……ドン・カノウ……You are Great……」
 ジュリエッタは驚嘆と尊敬の入り交じった視線を荒野に送りながら、そう呟いた。高速で動かしていたジュリエッタの剣に、正確に、六角を当てて見せた荒野の手腕を、褒めたたえている。
「それは、ともかく……」
 荒野は、ジュリエッタには対しては冷淡にいないしておいて、フー・メイに向き直る。
「……そちらの、武闘派の姉崎さんの用件は……もう、済みましたか?」
「……この子たちと話しをしている途中で、この者が乱入してきたもので……」
 フー・メイは、荒野に対して軽く頭を下げた。
「ご挨拶が遅れました。
 姉崎の、フー・メイと申します……」
「……その用件は……どうやら、こいつらと、直接話したいようだけど……急ぎの用件なの?」
 荒野は、愛想良く微笑みながら、続ける。
「もし急ぎの用でなければ、こいつらの検査が一通り終わってからにしてもらえないかな?
 うちのじじいがせっかくこの場を確保したのが、無駄になる……」




[つづく]
目次

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
HONなび

【格安レンタルサーバを紹介してお小遣いGET!】



Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ