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彼女はくノ一! 第六話 (86)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(86)

 実は、香也は、この時はじめて一族同士の戦いを間近に目撃した。
 以前、孫子がはじめて姿を現した時、というのは、つまり、楓と派手にどつきあった時、ということなのだが……その時、香也は、自分と同じ年頃の少女たちが思いっきり殴り合う光景が痛々しくて、すぐにその場に背を向けて、プレハブに籠もったものだった。
 以来、香也は、彼ら超人的な能力を持つ人々が、その本領を発揮する場に、居合わせたことがない。仮に目撃する機会があったとしても、香也自身の意志で、それを見まいとしただろう。
 しかし……今回、「イザベラ」という「香也の意志を無視することもある」個性の出現によって、ジュリエッタとフー・メイの対決を、目の当たりにすることになった。
 その結果……香也は、高度な技の応酬に、すっかり魅入られてしまった。
 もちろん、せいぜい常人並みの動態視力しな持たない香也に、高速で繰り出される二人の攻撃を見切ることはできない。しかし、残像や二人の動きによって発生する空気の動きなどの迫力は、香也を圧倒した。いきなり、その場に胡座をかいて二人の戦いを熱心に見はじめた香也を、楓が心配そうな表情で覗き込んでいることに香也も気づいていたが、香也は、楓のことを考える余裕もなく、ジュリエッタとフー・メイの戦いの趨勢に注目した。

 しかし、その戦いは、荒野のたかだか一挙動で、ぴたりと収まってしまった。
 荒野が、楓から「ろっかく」とかいうモノを受け取り、腕の一振りで、同時に二つを投げつけ……高速で動き続けるジュリエッタの双剣に、ぶち当てたのだ。
 そんな離れ業に、香也はまたしても目を剥いたが、驚いているのはどうやら香也一人だけのようだった。その場に居合わせた人々にとっては、荒野ならその程度のことをしても、別段、不思議でもなんでもないらしい。
 ……とんでもない、人たちなんだな……と、香也は、改めて思った。
 いや、それは……香也とて、「知識」としては認識していたわけだが、そうした特殊な部分を意識的に無視し、できるだけ「普通の人々」として見ようとしていた香也にとっては、軽いショックではあった。
 ああ、やはり……彼らは、自分とは、違う人種なんだな……と、言語にすれば、そんな感慨を香也を抱いてしまい、そして次の瞬間、そんなことを考えてしまった自分に軽い嫌悪感を感じる。自分が……他人のことをどうこう思えるほど、偉い人間なのだろうか、と。
「……大丈夫ですか?」
 荒野が、争っていた二人の女性たちとなにやら話し合いをしている間に、楓が、心配そうな顔をしながら、胡座をかいた香也の顔を覗き込んでくる。香也の様子が、いつもとは違っていることを、察知してのことだろう。
 香也のことを常に見守り、心配してくれるのは、楓である。孫子も同じようなものだが、孫子は楓よりも、感心や興味を持つ範囲が広いと思う。楓は……ほとんど、香也のことしか見ていないような気がする時がある。
 香也にしてみれば、その一途さが、歯がゆかったり、怖かったりするわけだが……。
「……んー……。
 大丈夫……」
 香也は、荒野たちのやりとりを横目で伺いながら、気の抜けた声で応える。
 遂さっきまで激しく争っていた二人の女性は、明らかに自分たちより年少の荒野に一目置いている様子で、それどころか、うやうやしいほどの態度で、荒野のいうことに大人しく頷いていた。
 その様子をみて……やはり、荒野は……「彼ら」の中でも、特殊な位置を占めている人物らしい……と、香也は思う。
 あれほどの能力を持つ人々の中でも、自分よ大して変わらない年齢の荒野が、大人たちから明らかに敬意を持って扱われているのをみて、香也は、「……やっぱり、凄い人だったんだな……」と、これもまた、今更ながらに思う。
 楓が荒野に全面的に服従しているのは知っているし、孫子は、逆に、ことさらに反発しているようにも見える。茅やテン、ガク、ノリは比較的自然体で荒野に接してはいるが、他の「彼ら一族」の大人たちは、ほぼ例外なく、まだ年端もいかない荒野に対し、VIPかなにかのような態度で接することが多かった。少なくとも、香也が目撃した限りにおいては、そういう傾向があった。
 あるいは……この時が、香也が、普段普通に接している「彼ら」の特殊性について、はじめて明瞭に意識した瞬間なのかも、知れない。

 どういう話しをしたのか、荒野が二人を伴って戻ってくると、検査に関係のない者たちは、広い会場の片隅に固まって、お茶会をすることになった。三島がこのスポーツジムの事務所に掛け合って電気ポットを借りてきて、楓が紙コップを調達、静流がお茶をいれる……という連携で、いつもの事ながら、こういう用意の段取りは、実に手際がいい……と、香也は感じる。
「……それって……非常時のみに招集できる、用心棒……というわけですか?」
 荒野は、今は、ジュリエッタと話し込んでいた。
「Yes」
 ジュリエッタは頷く。
「……そうすることで、日本の一族との関係を深めたい、という意味もあります」
 セバスチャン、とかいう、痩せすぎたダリみたいな顔をした人が、補足した。
「ジュリエッタ様の技量を活かせる場は、限られておりますので……しばらくこちらに滞在して、その実力をアピールする機会を与えてくだされば……」
「なるほど」
 荒野は、頷く。
「そちらにしてみれば、活躍する場さえあれば、デモンストレーションの機会を得ることが出来る。
 こっちにとっても……いざという時動かせる戦力は、多ければ多いほどいいし……。
 確かに、双方にとって有益な提案だと思います。
 が……ここに居座る間……お二人は、何もしないでいるわけですか?」
 荒野は、いくつかの指摘をしながら、ジュリエッタとセバスチャンに、今後の身の振り方を尋ねる。
 外国人で、どこか浮世離れしているこの二人が、この田舎町でごく普通の職業につけるとも思えない。そして……成人の、無職の外国人がうろついていれば……否応なく、目立ってしまう土地柄でもあった。日本は、いまだに同質性への指向が強く、特に、都会でもなんでもないこの土地で、外国人の存在は、かなり人目を引く……などと。
 荒野の話しが続くにつれ、ジュリエッタとセバスチャンは、黙り込んでしまう。
 ジュリエッタはニコニコと脳天気に笑っているだけだし、セバスチャンは、ハンカチを取り出して、しきりに汗を拭いていた。
 どうやら……周辺社会に対する偽装、ということは、まるで考慮していなかったらしい。ついでに、自分たちの外見が、この土地では目立ちまくりだということも、まるで意識していなかったらしい……。
 ジュリエッタは、いきなり、
「けせらーせらー……」
 と、歌い出した。
 どうやら「……なるようになる……」と、いいたいらしかった。
 実に、ラテン系らしい発想だ……と、端でやりとりを聞いていた香也も、そう思った。




[つづき]
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