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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(349)

第六章 「血と技」(349)

「……おれのことは、ともかくっ!」
 荒野は、語気を強くした。
「ここで生活しようとするなら、絶対に、問題を起こさないでくれ。特に、周囲の住人、一般人の人たちに、迷惑をかけないっ!
 これ、おろそかにすると、ここいらに流れてきた一族の関係者、全部に累が及ぶからっ!」
 これがいいたくて、新参者の少女たちをひとまとめにしたようなものである。
 荒野にしてみれば、姉崎における自分の風評などにはあまり関心はない。それ以上に、話題が下世話な方向に流れていくのを防ぎたくなった。
「……ネコ、ミミ……」
 しかし、ユイ・リィは荒野を無視して、イザベラに聞き返す。
「それって……これ?」
 ユイ・リィが、自分の頭の上で手をひらひらさせ、掌で「猫の耳」の形を模してみせる。
「おう。それじゃ、それじゃ……。
 なかなか、似あっとたぞ。
 姫と一緒に猫耳つけてケーキ食べて、さっきの、にまーっ、とだらけきった顔、しておった……」
「さ、さっきの……あの……弛緩しきった顔を……ですか……」
 ホン・ファが、ちらりと荒野の顔をみて、何とも複雑な表情になる。
「それは……威力、大……でありますね……」
 といった後、ホン・ファは、しきりに頷いてみせた。
 つい先ほど、一緒にケーキを食べて、荒野の「その顔」を、間近にみたばかりである。
「そうじゃろ、そうじゃろ……」
 イザベラが、したり顔で頷きすた。
「破壊力、満点じゃ……萌え死ぬ者、続出っ、つーやつでな……」
 まるで、見てきたような口調である。
「燃え死ぬ……ドン・カノウ、焼死しましたですか?」
 ジュリエッタが、荒野を指さしながら、不思議そうな顔をして首を傾げた。
「違う違う!
 燃え、じゃなくて、萌え」
 イザベラが、真面目な顔をして、ジュリエッタに講義する。
「最近の俗語で、主としてCuteな有様を現す形容詞じゃ。
 細かいニュアンスを説明しはじめると、話しが少し複雑になるからここでは省くが……心の琴線に触れるものに出会った時、モエー! モエー! などと連呼するのが、ここ数年、ナウなヤングの間で流行っているそうじゃ……」
 妙に、日本のサブカルチャー事情に詳しいイザベラだったっが……その知識はどうにも偏っているし、それ以前に、かなり間違っているような気がする……。
 第一……
『なんだよ、「ナウなヤング」って……。
 どこでそんな奇矯な言い回し、憶えてくるんだろう……』
 と、荒野は、不思議に思った。。
 ジュリエッタは面白がって、
「……モエー! モエー!」
 と、イザベラの口真似をしはじめる。
 まだあどけない風貌のユイ・リィも、
「……モエー! モエー!」
 と、訳がわからないなりに、一応真似してみる。
「わ、若は……これで、Cuteなところが、あるのです……」
 静流までもが、ぶつぶつと小声で脱線しはじめた。

 荒野はその場で、頭を抱える。
 荒野の受難は、まだまだ続きそうであった。
 ……この場に、先生やらヴィがいないのだけが、救いだな……と、荒野は思った。
 三島とシルヴィは、茅たちの検査につき合っている。
 シルヴィも、「いい機会だから……」といって、なかなか興味深そうな様子で見学していた。

 結局。
 荒野はその後、かなり長い時間に渡って、女性たちの他愛のないおしゃべりにつき合わされる羽目になった。
 国境や人種、年齢の違いは、会話に不自由しないということもあり、女性同士の場合には、あまり障害にならないものらしい。

 俗に、「三人寄ればかしましい」などというが、ジュリエッタ、イザベラ、ホン・ファ、ユイ・リィ、静流と三人の二倍近い人数が火鉢の周囲に顔を寄せ合い、すっかりうち解けておしゃべりに興じている。会話の内容も周囲の雰囲気も圧倒的に女性くさく、荒野は、ただただ、圧倒されるばかりであり、結局、いいたいことの半分もいえないうちに茅から「もうすぐ帰るの」という連絡を貰った。
『楓と真理からメールが届いていて、夕飯は、日本に来たばかりの人たちも連れて、あの家でどうですかって……』
「あー……」
 荒野は、今ではすっかり盛り上がっている女性たちから少し離れた場所に移動して背を向け、携帯電話を掌で隠すようにして茅と通話している。
「いつもいつも、悪いなあ……」
 なんか、新規の人が来るとあそこで宴会するのが、パターン化しているし……と思いつつ、荒野は気弱な口調で返答をする。
「……ドン・カノウ。
 そんなところで、なに、矮小化しているのか?」
「……矮小化、って……」
 そんな荒野の様子を不審に思ったのか、ジュリエッタが、荒野の背中に向かって例によって微妙に間違った日本語で問いかける。
「いや、真理さん……さっきいた民家の奥さんが、日本に来たばかりの人たちを、夕食に招待したい、って……」
 どうせ、実際の料理は三島あたりが出しゃばるのだろうが、毎度毎度、あの家を使わせて貰っているのは確かな事実であり、荒野は、真理にはかなり深い感謝の念を抱いている。
「Oh! Dinner!」
 ジュリエッタが、「ぱん!」と両手を打ち合わせて、大きな声をあげる。
 ジュリエッタの風貌だと、そうした大仰なジェスチャーが、板について見えた。ジュリエッタのリアクションに、周囲の者たちが、何事かと荒野に注目した。
「そう。ディナー。
 それも、たぶん、日本食……」
 荒野は、その場にいた全員に告げる。
「先生の料理の腕は……そこの、静流さんも知っている筈だよ……」




[つづき]
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