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彼女はくノ一! 第六話 (91)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(91)

 その後、孫子と楓は、二人でもっぱら事務的な打ち合わせに専念した。その上、話題に出た倉庫が、孫子のいうとおり首尾よく確保できたとしたら、それは孫子の会社の配送業務が、量的質的に増大することも意味する。営業的に見るのなら、躍進のチャンスといえないこともないが、現在の業務についても、改善すべきところ、話しあうべき事案は無数にあり、二人の打ち合わせの種は尽きることがなかった。
 その間、香也は放置されていたわけになるが、それで香也が退屈していてた、というわけでもなかった。いや。少し前の香也なら、二人の話していることにまるで興味が持てなかったのかもしれないが、最近の香也は、他人と他人の行動に対して、以前よりも興味を抱くようになってきている。
 二人の話しの多くは、部外者にはよくわからない子細にまで及ぶことが多かったし、香也には、孫子が語る経営とか経済の用語、あるいは、楓が語る情報処理の用語の大半は理解できなかった。つまり、二人が話している内容のほとんどを理解できなかったことになるのだが、それでいて、何故か香也は、退屈を感じることがほとんどなかった。
 極めて実務的、事務的な内容を話し合う二人の表情は、香也の目には、普段よりも活き活きとして見えた。
 その会談を中断させたのは、楓のポケットから響いた着信音だった。
「あっ……茅様……」
 楓は、ポケットの中から携帯を取りだして液晶を確認してからそう呟き、短い応答を行った後、孫子と香也に向き直る。
「茅様から、用事が済んだので、みんなで一緒にお食事をしましょう、って……。
 真理さんの許可も得ているようです……」
「材料の買いだしは?」
 孫子が、すかさず聞き返す。
 新しい住人が来たときの狩野家での宴会も、もはや日常茶飯事と化している感がある。
「先に、荒野様に頼んだそうです」
 楓は、茅に伝えられた内容を答えた。
「そう」
 孫子は頷き、壁に掛けてある時計に視線をやって時刻を確認し、立ち上がった。
「もう……いい時間ですわね。
 そろそろ、帰りましょうか?」
「そうですね」
 楓も席を立って帰り支度をはじめる。
「今から帰れば、お手伝いくらいはできるかも知れませんし……」
 茅たちがジムから車で家まで行くのと、自分たちが家まで帰りつくのと、どちらが早いだろうか……とか思いつつ、楓は呟く。

「あっ……荒野様……」
 孫子の事務所から外に出た三人は、すぐにばったりと荒野のご一行と出会った。
 楓は、大勢の女性たちを引き連れた荒野を見て、不審そうな声をあげる。
「まだ……この近くに……」
「ああ……」
 その時の荒野は、何故か遠い目をした。
「静流さんの家で、こいつらに、この付近に住む心得を、いろいろと話すつもりだったんだがな……」
 後の方にいくにしたがって、荒野の声は小さくなる。
「……ああ。
 それで、遅くなったんですか?」
 楓は、いつもとは違う荒野の様子には気づかない風で、頷く。
「さっきはお買い物にいくとかいってましたが、それはもう……あっ。
 まだ……みたいですね……」
 言いかけて、楓は、すぐに荒野たちが揃って手ぶらであることに気づく。
「そう。
 それで、今し方も……茅から、連絡が来てな……それと、メールで、いろいろと、買い物を言付かってきたし……」
「わたしたちも、今まで才賀さんの会社にお邪魔していたところなんです。
 そのお買い物……みんなで、回りましょうか?」
「そうして貰えると、ありがたい……」
 楓がそういうと、荒野は、露骨に安堵した表情を浮かべた。
 荒野が何故ここで安心した表情を浮かべるのか、楓は違和感は感じたものの、その理由までには思い当たらない。
「……それから、ジュリエッタも何か作りたいっていっているけど……」
 楓と話しているうちに、荒野は、徐々にいつものペースを取り戻していく。
「構わないと思います。
 品数が多くなる分には、歓迎されるんじゃないでしょうか?
 どうします? 人数が多いから、何組かに別れて、分担して買い物にいきますか?」
「そうだな……。
 半分くらい、この土地に不案内なのがいるから……」
 荒野は、そういって、適当に組み分けをした。
 この中では年長組の、静流とジュリエッタ。
 実家が裕福ということと、それに、最初に接触したよしみで、孫子とイザベラ、それに、楓の三人で一組。
 荒野と香也、ホン・ファとユイ・リィは、四人で一組ということにした。香也と他の女性を一組にすると、楓や孫子が収まらない。荒野と一緒で、なおかつ、四人一組なら、そうした問題は回避される。また、荒野にしてみても、ある程度、背景が想像できるジュリエッタやイザベラと比較して、この二人の人となりは、まだ十分に把握していなかった。
 茅のメールを確認しながら、荒野は各組に買うべきもののリストを言い渡し、一端、解散する。

「加納様……」
 楓たちと別れると、二人ほど同行してきた少女のうち年長の方が、何故か香也に直接ではなく荒野に向かって、香也のことを尋ねる。
「……この方は?」
「ああ……そういや、さっきはどたばたしていて、ちゃんとした紹介はまだだったな……」
 荒野は頷いて、香也を二人に紹介した。
「この人は、狩野香也。
 たまたまおれと同じ名前だが、それは音だけで、字はまったく違う。
 おれと茅が住んでいる隣の家の息子さんで……その家に、今の楓と才賀も、下宿している……」
「楓って……今の人が、最強の、二番目のお弟子さんなんですか?」
 ホン・ファは、少し驚いた顔をして、楓が去っていった方向に首を向ける。
「……想像していたのと、全然、違います……」




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