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第六章 「血と技」(355)
「……こいつはまた、随分と上等な真鯛じゃないか……。
それも、二尾も……」
三島は、静流が取りだした包みを開いて中身を見せると、感歎の声を漏らす。
「……さ、魚屋のご主人とお話ししていて、今日、人が大勢集まるといったら、べ、勉強するから持って行きな、と、いってくれたのです……。
い、活きのいいのが入ったし、人数が多いんなら、ちょうどいいって……」
「玉木の家か……」
静流の答えを聞いて三島が頷く。
「……ここの家の連中も、いいお得意さんだからな……。
まあ、こんだけ立派なのが二尾分も、丸々あるとなると……刺身以外にも骨蒸しや兜焼きも作れるな……」
三島はしばらく考えてから、自宅から持参した包丁を取りだし、
「……おし、こっちは任せろっつーの!
真理さん! 蒸し器、用意していてくださいっ!」
といった。
台所の方でそんな準備が進んでいる間に、途中から楓や孫子が合流してきて茅たちと一緒に下拵えの手伝いをはじめる。
居間の方では、荒野たちや酒見姉妹も合流してきて、かなり賑やかなことになっていった。
そのうち、仕事に出ていた羽生も帰ってきて、真理が玄関に出迎えにいく。
「……おおー。今日も、いるいるー……。
新顔さんも何人か、いるなぁ……」
その後、そんな羽生の声が居間の方から聞こえてきた。
「……ところで皆さん……。
こーちゃんの後に固まって、何やってんの?」
羽生はしばらく居間の荒野たちとやりとりをした後、台所の方にも顔を出し、
「……おお。やってるやってる。
みなさん、ご苦労さんでーっす。
せんせ、なんか手伝いますかぁー?」
と尋ねてくる。
「……いいって。
見ての通り、もうそろそろ、終わりだ……」
三島は、答えた。
事実、三島や舎人、ジュリエッタの主だった料理人たちは、流石に手際が良く、この頃には、使い終わった調理器具を交互に洗いはじめている。
茅や楓などの年少組が、食器や料理を盛った鍋や皿を、居間に運ぶ準備をしている所だった。
「……なんか、多国籍になっちまったがな、なかなか豪勢だぞ、今回も……。
お前さんも、仕事から帰ってきたばかりだろ?
さっさと着替えてこいってーの……」
羽生にそういった三島は、少し疲れた顔に満足そうな笑みを浮かべている。
「……おおっー……」
着替えて居間に戻った羽生は、所狭しと炬燵の上に並べられた料理を見渡し、思わず声をあげる。
具だくさんのパエリア、一口大のガーリック・ステーキ、エビと挽肉、二種類の具が入った水餃子、野菜の生春巻き数種類のエスニック・ソース添え、真鯛の刺身、骨蒸し、兜焼き、皮焼き、根菜の煮付け……。
「……確かに、豪勢で多国籍だ……」
「……いっぺんに並べきれなかったが、お代わりもまだまだあるからな。
遠慮なく食え、育ち盛りども……」
三島がそういったのを機に、
「「「「……いっただきまーっす……」」」」
の合唱が響き、炬燵の周囲にずらりと並んだ「育ち盛りども」は一斉に箸を取り、それぞれ、思い思いの料理に手をつけはじめる。口にした料理の感想を交換しては、別の料理に箸を延ばし……という小品評会が、しばらく続いた。
「……ステーキとガーリックの組み合わせが……」
「……この水餃子、皮がつるっとしてて、もちもちっとしてて、中の具が、歯ごたえあって……」
「……お刺身……。
ただ、切って並べただけなのに……甘い……」
「……このパエリア……味が染みてて、また、この焦げ目のところが香ばしくって……」
どの料理も、特別凝った調理法をしているわけではないのだが、素材の味を素直に引き出し、自然な旨さを醸し出している……というのが、大方の意見だった。
一通り、情報交換がなされると、後はほとんど全員が料理に夢中になって、黙々と食べ続ける。
特に荒野と茅、ガクとノリ、それに現象の五人は、他の面子が満腹して箸を止めてからも、黙々とマイペースで箸を動かし続けた。
交代で台所から残りの料理を持ってきながら、真理や羽生、三島の年長者一般人組は、珍しそうにその「食べっぷり」を眺めた。
「……みんな……細っこいのに、良く食うなあ……」
しばらく見物した末、羽生がそう感想を述べる。
「……荒野たちについては、話しは聞いていたがな……」
そう答えたのは、三島だった。
「……おい。おっさん。
現象も、いつもこんなもんか?」
三島は、そう舎人に問いかけた。
「……最近は、確かに食が太くなってきているな……」
舎人は少し考えた後、慎重な口ぶりで、そう答える。
「……うん。
確かに、一緒に住みはじめてからより、ここ数日の方が、かなり大食らいになっている……」
「……そうか……」
三島が、舎人に答えた。
「そうなると……現象も、これから、急激に身体が成長する可能性があるぞ。
ガクやノリも、こっちに来てから、急激に身体がでかくなった……」
「……ああ……」
舎人が、何かに思い当たった表情になる。
「……噂に聞く……加納の体質、ってかやつか……」
確かに、現在の現象は……身体がやせ細っていて、全体に、同年配の少年よりも、頼りなく見える……。
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つづき]
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