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第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(97)
そんなやり取りをしている間に、食事となる。
新参のジュリエッタ、イザベラ、ホン・ファ、ユイ・リィも含めて、ずらりと並んだ料理の品評も兼ねた会話が、ひとしきり弾んだ。三島と真理、舎人、ジュリエッタは料理のレピシを交換したり、調理法や味付けについて、情報を交換している。特にジュリエッタは、生の白身魚が、包丁の入れ方によって味が変わってくる、という例を、先程三島が実演して見せたため、日本の料理についてかなり関心を持つようになっていた。
「……こういった料理は、比較的馴染みがあります……」
そういって、ホン・ファは生春巻きをかざして見せる。
その後、
「でも……こういったものは、はじめてです。
流石に、サシミくらいは知っていますが……」
といって、鯛の兜焼きを指さしてみせた。
ユイ・リィにいたっては、魚の頭がそのままの姿で「でん」と卓上に上がっている事に対して、かなり違和感を持っているようだった。
「……スシ、サシミー、テンプラー……。
ニッポンのフード、みんな、おいしいですねー……」
イザベラは、わざと奇妙なアクセントでそういってから、
「……くいもんに罪はなか。
それに、そっちも机と椅子以外の足のあるもんんは、たいがいに食う文化じゃろぉ。
たかだか魚の頭くらいでびくついて、どうする?」
そういって、兜焼きの目玉に箸を突っ込んで、ぐりっ、乱暴な動作で眼球をえぐりだし、自分の口にほうり込む。
ユイ・リィが泣きそうな顔になり、ホン・ファが、軽く眉間に皺寄せ、
「……その魚……寄生虫とかは、大丈夫なのですか?」
などといった。
ちょうど刺し身を口に含んだところだった現象が、そのホン・ファの言葉を聞いて、複雑な表情になる。
「……種類にもよるけど、海の魚は、だいたい大丈夫だよ。生でも……」
荒野が、イザベラの代わりに答える。
「種類にもよるんだけど……そういう心配がある食品は、日本の商店には並ばない。寄生虫の心配があるような魚は、刺し身以外の調理方で、食べる。
衛生的なことをいうのなら……この国は、世界で一番神経質な国だろうね……」
「……刺し身や寿司なんざ、今では世界中で食われているもんじゃと思ったがな……」
イザベラがそう付け加えると、
「わたしたちは、あまり、食べ歩きなんてできる生活ではなかったから……」
と、ホン・ファが返す。
「……あちこち、移動してばかりの生活だったし……」
「師父、厳しい。
修業中は、勝手に外、いっては駄目……」
「……なるほど……」
荒野は、ホン・ファとユイ・リィの言葉に頷いた。
「……君たちは、あっちこち渡り歩くフー・メイの後を追いながら、英才教育を受けていた……と……」
「……教育ではなく、習練、です」
ホン・ファは、荒野の言葉を軽く訂正する。
「……我が流派の技を完全に体得するのには、気の遠くなるような時間と精神の集中が必要となります。他のことに意識を向ける余裕は、あまりありません……」
「……でも……」
今度は、楓が口を挟む。
「お二人は……しばらく、こちらに住むんですよね?」
「そうです」
ホン・ファは、まっすぐ楓を見返して、返答した。
「……広い世界を見るのも、また習練だ……と、師父はいわれた……」
「……二人の最大の目的は、茅たちの動向を見て、茅たちが技を受け継ぐ資格があるのかどうか、判断すること……」
今度は、茅が話しだす。
「無論、そうです」
ホン・ファも、頷いた。
「なによりも、それが先決ですが……同時に、師父は、時間をかけて慎重に観察し、判断を誤るな……とも、いわれました。
何年かかけても、いいと……」
「どれほど慎重に扱っても慎重すぎることはない……対象……ということですわね……」
孫子も、頷く。
「この二人の社会教育も、兼ねているとは思うけどね……」
いいかけ、荒野は、慌てて言葉を付け足す。
「あ。
決して、お二人を馬鹿にしているわけではなく……」
「……わかってます」
ホン・ファは、生真面目な顔をして、荒野に頷いてみせる。
「確かに、わたしたち二人は……これまで、世界が狭かった……」
「すぐに慣れるよ、ここの生活も……」
ガクが、脳天気な口調でいった。
「ボクたちも、すぐに慣れたし……」
「まあ、そうだな……」
荒野は、こめかみを指先で軽く掻きながら、ガクの言葉に同調した。
「会話に不自由しない以上、特に問題はないと思います。
何かあったら、シルヴィにでもおれたちにでもいって貰えば……」
「……のう……」
イザベラが、不機嫌な顔をして口を挟んだ。
「……なんでこの二人のことは心配して、わしのことは心配せんのじゃ?」
「なんで……おれたちが、自分の意志で勝手に飛び出てきた家出娘の心配をしなければならないんだ?」
荒野は、まともにイザベラを見返して答えてから、大仰にため息をついてみせる。
「それでなくても……心配の種には、事欠かないというのに……」
「……この……」
イザベラの表情が、少し険しくなった。
香也はというと、それらのやりとりには関与せず、黙々と箸を動かし、目の前の料理を平らげている。
半分以上、会話の内容がわからなかったから参加のしようもないし、それ以上に、こうした席が設けられる度に、うまい食事にありつけるのは、香也にしてみても、非常にありがたかった。
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