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彼女はくノ一! 第六話 (99)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(99)

 居間の中は、大きくわけて、茅やホン・ファ、ガク、ノリなど、DVDを再生しはじめたテレビの前にかぶりつきになる子供たちの組、それに、ゆっくりと酒盛りをはじめる真理や羽生、三島や舎人の組との二手に別れていた。いや、そのどちらにも属さない、荒野や香也、楓、孫子などのグループも存在していたので、実際には三グループに分かれていたことになる。いずれにせよ、銘々のスタンスでゆっくりと寛いでいる、という感じだった。
「……ところで……」
 孫子は、荒野に向かっていった。
「あなた……いつまで、食べていますの?」
 荒野は、この期に及んでも、まだ箸を使って食事を続けていた。
「……いや、食える時は、食えるだけ食っておこうと思って……。
 料理も、うまいし……」
 荒野は平然と答えて、ペースを崩さずに箸で食物を口の中に放り込んでいる。「そういいながら、もう二時間くらい、食べ続けているし……」
 孫子は、呆れたような表情を浮かべて荒野を見ている。
 当初、茅やガク、ノリ、現象なども、荒野と並んで健啖ぶりを発揮していたが、今でも食べ続けているのは荒野だけだった。
「……そういう体質なんだよ……」
 荒野は、箸と口を動かす合間に、そんな風に答える。
「……加納って、家でもいつもこんな感じなの?」
 孫子は、今度は身体の向きを代えて、茅に問いかける。
「……いつもこんな感じなの」
 茅は、テレビの画面から目を逸らさずに、素っ気ない口調で答えた。
「茅のと合わせて、最近では十人分くらいの食費がかかるの」
 何気ない口調で茅にそういわれ、孫子は、どこまで本気で受け止めていいものかどうか、判断出来なくなる。
「「……そういえば……」」
 そのやりとりを聞いていた酒見姉妹が、声を重ねる。
「「……材料がなくなるペース、早いですねぇ……」」
 この二人は、茅の下校につき合う関係で、買い物にも同行する機会が多く、茅と荒野の「台所事情」についてもそれなりに詳しい。
「……加納も二宮も、どっちも大食らいだからなぁ……」
 コップ酒をちびちび舐めていた舎人が、口を挟む。
「荒野の場合、両方の血を引いているから……」
「……荒野もアレだ。
 いろいろと非常識なヤツだが、なんだな、代謝系が通常とは違うんじゃないのか?」
 三島も、便乗する形でそんなことを言いはじめた。
「……たまには医者らしいことをいうこともあるんだな、先生……」
 舎人は、まじまじと三島の顔を見返す。
「運動量を考えると、多少の大食らいではとてもじゃないが追いつかないくらいなんだがな……」
 三島は、不躾な舎人の視線は気にした風もなく、淡々とした口調で続ける。
「……カロリーの問題もあるし、瞬発力とか……その時、身体にかかる負担とかを考えると……運動量だけでは解決できない問題が、多いんだが……」
 三島は自分の思考の中に沈み込む表情をして、ぶつくさと呟き続け、その後、不意に顔を上げて、
「……本当に非常識なヤツらだよな、お前ら……」
 と、荒野にいった。
「……いや、非常識なのは、否定しませんけどね……」
 相変わらず箸と口を動かす合間に、荒野は短く答える。
「……あなた……」
 半眼になった孫子が、荒野にいった。
「……食べている時は、本当に幸福そうですわね」
「うまいもの限定で、だけどな」
 荒野は即答した。
「最近、これ以外に楽しみがないし……」
 そのやりとりを間近で聞いていた香也は、「……平和だな……」と思った。
 香也は、炬燵にあたりながら、例によってスケッチブックを開いて鉛筆を走らせている。
「……ソードダンサーじゃな……」
 その香也の手元を覗き込んで、囁いた者がいた。
 香也は、突如目の前の視界を塞ぐように突き出された、濡れた赤毛をみて、若干のけぞる。
「……ちょっくら、絵を見せて貰っているだけじゃ。
 そうそう、大仰に驚くこともないじゃろ……」
 風呂上がりのイザベラが、上気した顔を香也の方に向けて、歯を見せて笑った。
「……んー……」
 香也は、のけぞった姿勢のまま、唸る。
 確かに、この時、香也は、日中にみたジュリエッタの姿を描いていたわけだが……こういう「無邪気な押しの強さ」の持ち主も、今まで香也の身の回りにいなかったタイプだ。
「……見たいのなら、どうぞ……」
 と、香也は、スケッチブックを開いたまま、イザベラの前に押しつけて、立ち上がろうとする。
「……おっ……」
 イザベラは、スケッチブックを受け取りながら、さらに、香也の腕を取って、立ち上がりかけた香也を座らせる。
「……まぁまぁ。
 別に、取って食おうってわけではないし、邪魔をするつもりもなかけん……。
 そんまま、そんまま……」
 香也の背中に回って、香也の肩に両手を添えて、体重をかけて押し下げる。
「……最強のお弟子さんも、そんな、うらやましそうに睨まんと……」
 イザベラは、自分を睨んでいた楓に向かってウインクをしてみせる。目鼻立ちがはっきりとした、いかにも白人といった顔をしたイザベラがそんな表情をすると、実に様になるな……などと、楓は思いながら、楓は、気後れしながら、
「べ……別に、そんなんじゃないですけど……」
 目線を逸らして、どもり気味に答えた。
「……ええから、ええから……」
 イザベラは、空のグラスを取りだして、香也と楓の手に握らせ、こぽこぽと一升瓶を傾ける。
 背後で、
「……あっ。
 いつの間に!」
 などという三島の声が聞こえたが、イザベラは特に頓着するということもなく、
「……さあさ、ぐーっといきまっしょ。
 お二人とも、いける口でしょ?」
 などと、楓と香也に笑いかける。




[つづき]
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