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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(358)

第六章 「血と技」(358)

 そのイザベラというのも、よくわからんヤツだよなぁ……と、荒野は思う。イザベラは、ぱたぱたと居間中を歩き回りながら、「よろしゅうに」とか「今後も、どうぞ」などといいながら、見境なくみんなに酒を注ぎ回っている。
「……どういう人種だ、あれは?」
 ホン・ファが荒野に近づいてきて、視線でイザベラを追いながら、荒野に小声で尋ねてきた。
「さぁ……」
 荒野は、肩を竦める。
「おれも、あいつとは初対面なわけだし……」
「……不可解だ。
 ああいう、何を考えているのかわからない相手が、一番、対応に困る……」
 バスタオルを頭に巻いたホン・ファは、思いっきり不機嫌な表情になっている。
「そうか……」
 荒野は、訳知り顔でうんうんと頷いた。
「ホン・ファは、何を考えているのかわからない相手が苦手か……」
「……それが、何か問題か?」
 ホン・ファは、少し険しい顔をしながら、荒野を軽く睨んだ。
「問題、ということもないんだが……」
 荒野は、真面目な顔をして答える。
「ただ……学校のヤツらとつき合うようになると、苦労はするだろうなぁ……と……」
「……学校?」
 ホン・ファが、眉毛を片方だけ、あげた。
「学校には、あんなのがごろごろしているのか?」
「あんなの……というよりも、もっと訳がわからないのが、ごろごろしてるし……」
 荒野は、やはり真面目な表情で答える。
 飯島、玉木、徳川……思い返してみても……確かに訳がわからないヤツらばかりだった。
 このうち、イザベラの人なつっこさは、飯島舞花のものに近いかな……という気は、するが……。
「……そ、そんなに、カオスな場所なのか……。
 日本の、学校というのは……」
 ホン・ファは、荒野の真面目な表情をみて、荒野の言葉を本気で受け止めている。
「カオスといわれれば、カオスだな……。
 実際、荒事とか修羅場のさなかに身を置く方が、よっぽど気が楽だと思うことが多いよ……」
 荒野がしみじみとした口調でそんなことをいったもので、ホン・ファが、目を見開く。
「……パ……パイランが……それをいうのですか……」
 数秒の間を置いて口を開いた時、ホン・ファの声は震えていた。ホン・ファは、荒野の近過去の噂を、かなり身近に聞く機会が多かった。
「が、学校というのは……そ、そんな場所なのですか……」
 それで、「……あの、パイランが、戦慄している……」などという、誤った印象を、「日本の学校」に対して抱いてしまう。
 荒野は「ここではその名前で呼ぶのは勘弁してくれて……」と前置きしてから、
「まあ……具体的に説明するよりも、実際に体験して貰った方が、良く理解できるだろう……」
 などと、荒野が軽く首を振りながら、気持ちを込めた口調で思わせぶりなことをいったもので、ホン・ファはさらに不安になった。
 ホン・ファは、想像力が豊かで、なおかつ、他人の言葉を真に受ける素直さを持っていた。

「……ほれほれ。
 みなさん、ぐーっといったってや。せっかくの出会いの宴じゃけ……」
 荒野とホン・ファがそんな会話をしている間に、イザベラは、香也と楓、それに孫子にグラスを持たせ、なみなみと酒をついでいる。
 香也、楓、孫子は、戸惑った顔をしてお互いに目配せをかわし合っている。イザベラの対応はこれまでに出会ってきた一族の者たちとの対応とは、まるで違った。
 正直、三人とも、イザベラが何を考えているのか測りかねていた。
「……の、飲むのは、いいんですけど……」
 楓が、意を決してイザベラに話しかける。
「そうなると……歓迎の宴、ということになりますと、イザベラさんも主賓ということになります。
 まずは、イザベラさんから、ぐーっと……」
 楓はそういって、イザベラにも空のグラスを持たせ、イザベラの手から一升瓶をもぎ取って、なみなみと酒を注ぐ。
「……おっとっと……」
 イザベラは、特に慌てた風もなく、グラスをしっかりと持ち、楓が酒を注ぎ終えるのを待ってから、
「……こりゃどうも。
 ほんじゃ、失礼して、お先に……」
 といって、いかにもうまそうな表情をして、ごくごくとグラスの中の酒を一気に飲み干した。
「……ぱぁっー!
 うまかぁー!」
 いい飲みっぷりであり、明らかに飲み慣れた挙動でもあった。
 一気のみをした後、イザベラは、そう感想を述べて、
「ささっ。
 皆様も、遠慮せずに、どんぞ……」
 と、勧める。
 香也、楓、孫子は、ちらちらと横目でお互いの表情を伺ってから、ほぼ同時にグラスに口をつけた。三人とも、未成年ながら、決して酒に弱い方ではない。しかし、酒豪というわけでもなかったので、イザベラのように一気にグラスを乾す、などという無茶な飲み方はせず、いくらかを嚥下したところでグラスから口を離した。
「……あなたに、聞いておきたいことがあります……」
 孫子が、若干頬を赤く染めて、イザベラを見据える。
「……イザベラ……。
 貴女の目的は、いったいなんですの?
 ジュリエッタは、出稼ぎ。ホン・ファとユイ・リィは、新種たちの見極めと社会見学……。
 貴女がここに来た目的が、わたくしには一番、想像できません」
「……目的?」
 イザベラは、孫子に見据えられても特に動じる様子もなく、にこやかな表情で首を捻ってみせた。
「……特にこれといった目的は、ないんじゃがのう……。
 面白そうじゃから、様子を見に来た……というだけでは、駄目なんかのう?」
 そういった時のイザベラは、虚勢を張ったりや芝居をしているようには見えなかった。





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