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彼女はくノ一! 第六話 (100)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(100)

「……ほれほれ。
 みなさん、ぐーっといったってや。せっかくの出会いの宴じゃけ……」
 いつの間にか、孫子も連座していて、香也、楓、孫子の三人にグラスを持たせ、イザベラがそれぞれのグラスに酒をなみなみと満たしている。
 ……これは、一体どういうシュチュエーションだろう……といった意味のことを、香也、楓、孫子の三人は、それぞれに思った。イザベラに悪気がないのは理解できるが、今日であったばかりでこれほど親密な態度を取るイザベラのパーソナリティについては、三人の理解の外にある。
「……の、飲むのは、いいんですけど……。
 そうなると……歓迎の宴、ということになりますと、イザベラさんも主賓ということになります。
 まずは、イザベラさんから、ぐーっと……」
 基本的に人が好く、疑うことを知らない楓までもが、変な警戒心を持ちはじめていた。
 イザベラは、楓が一升瓶を引ったくったことに、特に警戒心を働かせることもなく、
「……おっとっと……」
 などといいながら、楓が注いだ酒をグラスで受け、その上で、一気に飲み干し、その後に、
「……ぱぁっー!
 うまかぁー!」
 などと感歎した。
 見事な飲みっぷりである上、リアクションにおやじが入っていた。
 その上、
「ささっ。
 皆様も、遠慮せずに、どんぞ……」
 などと、どこのものともわからない奇妙な訛りで、三人にも飲むように勧める。
 今度は断るわけにもいかず、香也、楓、孫子の三人は、一口、酒をすすった。アルコールに対する耐性としては、三人とも、決して弱い方ではない。
「……あなたに、聞いておきたいことがあります……」
 孫子が、イザベラの目を見据えて、単刀直入に尋ねた。
「……イザベラ……。
 貴女の目的は、いったいなんですの?」
 ジュリエッタやホン・ファ、ユイ・リィなどについては、今までの経緯から、「ここに来た理由」というものが理解できている。しかし、イザベラに関しては、そのような話題が出てきていない。
「……目的?」
 イザベラは、孫子にきつい目線を送られても動じることなく、飄々とした口調で答えた。
「……特にこれといった目的は、ないんじゃがのう……。
 面白そうじゃから、様子を見に来た……というだけでは、駄目なんかのう?」
「……目的なし、面白そう……」
 孫子が、イザベラが言ったことを鸚鵡返しにして、眉間に皺を寄せる。
「……Strange Loveの跡取りが、そんなに軽々しく動けるものですの?」
 孫子は、イザベラの動きに何か裏があるのではないか、と勘ぐっている。
「本当なら、動けんのじゃろうが……そこはそれ、わしには姉崎のネットワークがあるし……」
 イザベラは、肩を竦める。
「それに……おんしも、才賀の後継者やっとったんなら覚えがあると思うが、ええとこの子弟というのも、これでなかなか疲れるもんなんよ。
 向こうのええとこのおなごが通う学校なんぞ、肩が凝るだけでな。わしが行っておったのは、全寮制での。ありゃあ、異様な世界じゃった……」
「才賀の後継者やっとった……ではなく、わたくしは、今現在も、後継者です」
 孫子は、イザベラの発言の中の過去形を、律儀に現在進行形に修正した。
「……つまり、異様な世界だった全寮制の学校から抜け出すために、姉崎のコネクションをフルに活用して逃げ出してきた……と……」
 孫子も、その手の「世界」の異様さに身に覚えがあるので、イザベラの境遇は何となく想像が出来た。
「……平たくいえば、そういうこっちゃな……」
 イザベラは、悪びれた風もなく、孫子の言葉に頷く。
「向こうの全寮制の学校、いうたら、生活態度や学業だけではなく、思想的な面も含めて、生徒をぎちぎちに締め上げてくるからのう……。
 いくら家が裕福であっても、いや、生まれた家が上流であればこそ、相応のソサエティの色に染めようとしてきおる。
 それも、ごく自然に……」
「……わかります」
 全寮制ではなかったものの、同様の学校に通った経験がある孫子は、共感を込めて頷いた。
「あの中だけで完結した小世界……。
 馴染んでしまえば居心地がいいのかも知れませんが、その中では、自分は異邦人でしかない……ということを自覚している者にとっては、煉獄です……」
「……そうじゃ、そうじゃ……」
 イザベラも、したり顔で頷いた。
「……姉崎なり才賀なりの出自を持つわしらは、良くも悪くも、完成された小さな世界に閉じこもって満足できる柄ではなか。
 世界の複雑さと広大さを認識しておるけん、目をつむり耳を塞いでも、ほんの少し外で進行している矛盾や軋轢を無視することが出来ん……」
「……noblesse oblige……ですわね……」
 孫子も、頷く。
「そうじゃ、そうじゃ……」
 イザベラは、パチパチと手を叩いた。
「……わしらが富者たるゆえんは、財力だけはなく能力やコネクションも含めて、一般人より秀でおるということになるが……ともかく、ここでは目下、そのアドバンテージを死蔵せず、全開にしてもええよう、社会の方を改良する実験をしておるところなのじゃろう?
 ええ?
 加納の?」
 最後の言葉は、すぐそばでそのやりとりを聞いていた荒野に向けられたものだった。
「……実験……それに、高貴なる義務か……」
 荒野は、一人呟いてから、イザベラに向かって頷いてみせる。
「意図的にそうなるようにし向けた……わけではなく、結果的にそうなった……ってだけのことだけど……だいたいの方針としては、間違っちゃいないな……」
 一般人と一族の共存を目指す……ということは……最終的には、公然とその能力を全開にしても問題がない環境を作る……ということになるのだろう。




[つづき]
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