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彼女はくノ一! 第六話(108)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(108)

 翌朝、この家の男性三人組の中で一番最初に目覚めたのは、やはり二宮舎人だった。もともと舎人は、たいていの一族の関係者がそうであるように、眠りが浅い。浅い、というよりは、どんなに深く眠っていても、周囲の気配や物音に反応して瞬時に目覚めることが出来る。出来なくては、急場の役には立たない。
 舎人は寝ている香也や現象を起こさないように、物音を立てないで素早く寝床から抜け出し、立ち上がり、そっと襖を開いて廊下の様子を伺う。
「……何やってんだ、お前ら……」
 やはり足音を忍ばせて玄関方向に向かっていたテン、ガク、ノリの姿を見いだした舎人は、小声で声をかける。舎人はトランクスにシャツだけの下着姿だったが、三人はすでに外出着に着替えていた。
「……何って……」
「……朝ご飯」
「……まだ、みんな寝ているし、雨降っているからいつものトレーニングも出来ないし……」
「だから、コンビニに寄って買い物してから、かのうこうやのところでご飯、食べるの」
 三人組は、小声で細切れに説明をしはじめる。
「……お前ら……」
 舎人は、荒野に少し同情したくなった。
「雨が降った朝は、いつもそんな感じなのか?」
「いつもじゃないよ、日曜日だけだよ」
 ノリが、パタパタと顔の前で平手を横に振る。
「日曜の朝は、スーパーヒーロータイムがあるから……」
 テンが、もっともらしい顔をして付け加えた。
「舎人のおじさん、ヒーロータイム知らない?
 ミコレンジャーとか……」
 ガクが、舎人に向かって尋ね返す。
 首だけ出していた舎人は、廊下に出てそっと襖を閉じた。
「……子供向けの特撮番組だろ?
 戦隊物っていえば、おれがガキの自分は土曜日の夕方にやっていたもんだが……」
 答えながら舎人は、会話内容の間抜けさに軽く目眩を覚えている。
「……改めて、聞く。
 つまりお前らは、日曜の朝、雨が降っていて外でトレーニングが出来ない時は、荒野のところにお邪魔して朝飯を食らっている……と、こういうことだな?」
 念のため、これらの会話はすべて小声で行われている。この家の住人たちは、未だ寝静まっているからだ。
 がたいのいい下着姿の舎人が、上体をかがめるようにしてテン、ガク、ノリとひそひそ囁き合っている様子は、珍しいといえば珍しい。事情を知らない第三者がみたら、「一体、どういうシュチュエーションだろう」と首を捻ること請け合いである。
「そういうことになるね」
 舎人の問いかけに、テンが頷く。
「日曜の朝は、真理さんもたいてい遅くまで寝ているし……特に今日は、お客さんも来ているし……」
「……おれは、荒野のやつに同情する……」
 舎人は、ため息混じりに先ほどの感想をあえて口にした。
「あいつも……なんだかんだいって、面倒見が良すぎるくらいだからなぁ……」
「……こんなところで、何をやっていますの?」
「……あれ?
 みなさん、早いですねぇ?」
 そんなことを話している間に、今度は孫子と楓が姿を現した。
「……早いもなにも、いつもなら、土手を走っている時間だろう?」
 舎人が片手を上げながら、楓に答える。
「……自然に起きないのは、現象くらいなものです……」
 さらに梢までもが、顔を出した。
 一族の者なら、例え睡眠中であっても、近くでこれほどの人数が集まって会話していれば、すぐにそれと分かる。警戒して然るべき……という意味だ。
 言外に、「現象は生粋の一族とはいえない」という含みを持たせた口調だった。
「あいつは、まあ……」
 舎人は、顎に手を当てて、顔を軽く顰める。
「……最近、急成長してきたとはいえ、基本的な心構えをすっ飛ばして、実用的な応用技ばかりを身につけているようなもんだからなぁ……。
 根っこのところで、緊張感が足りないんだよ……」
 それに……と、舎人は心中で付け加える。
 それに、このところ、現象は、周囲の者たちとの実力差を目の当たりにして、かなり焦りが出てきている。体術にせよ、知識の習得にせよ……かなりの詰め込み教育を、自分の意志で体力任せに遂行していた。
 多少、頑強に出来ているとはいっても……あれだけ張り詰めた生活を続けていれば、やはりどこかで無理が出る。
 現象が目を醒まさないのなら、しばらくそのままにして寝かせておこう……と、舎人は思っていた。
「居間の様子はどうだ?」
 今度は舎人が、梢に尋ねる。
「イザベラさんとジュリエッタさんは、遅くまで酒盛りをしていました。今も寝ています」
 早口に、梢は報告する。
「静流さんとシルヴィさんは、ご自分の意志で浅い睡眠を維持しています」
 いつでも起きることが出来るが、そのタイミングを見計らっている……ということだろう、と、舎人は梢の言葉を、そう解釈する。世間一般でいえば、今の時間は、まだまだ早朝。用事もない普通の人間は、まず起きていない時間だ。だから、あえて目を醒まさずに体力を温存している……ということなのだろう。
 梢も訓練を受けた佐久間であり、その程度のことは……近くに寝ている者の睡眠の深度くらいは、察知できるようだった。
「……で、そこの三人は、これから荒野のところで朝飯を食ってくる……って、ことだそうだが……」
 舎人は、今度は、梢、楓、孫子に尋ねた。
「お前らは、どうする?」
「わたしは、現象を見張らなければなりませんから……」
 最初に答えたのは、梢だった。
 だから、現象がここで寝ている限り、遠くに離れるわけにはいかない……ということらしい。
「わたしは……そうですね」
 楓の答えに、舎人は少し意表を突かれた。
「自分の部屋で、勉強でもしています。明日から、期末試験ですし……」
 期末試験……そういえば、こいつら、学生でもあるんだよな……。
「わたくしの場合、勉強に加えて、会社のデスクワークもあります。
 ええ。これでも、時間を持てあせるほど暇な身ではないのですわ……」
 孫子は、どこか自慢げな口調で答えた。



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