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隣りの酔いどれおねぇさん (1)
ぼくのマンションの隣の部屋は、ここ数ヶ月、空き部屋だった。ぼくの部屋は角部屋で、その隣があいていたわけで、多少物音をたてても文句をいわれる事がない環境にあったわけだが、なにぶん、ぼく自身、つい先頃彼女と別れたばかり。夜中に騒ぐあてすらない、寂しい身の上だった。
ある日、仕事から帰ると、その空き部屋に、運送業者が荷物を運び入れていた。廊下に置いてある荷物を避けるようにして自分の部屋の前にたち、鍵を取り出そうとポケットに手を入れるたところで、ジーンズにポロシャツという比較的ラフな格好をした、二十代後半くらいの女性に声をかけられた。その隣に引っ越してきた女性は、
「加々見透理です」
と、名乗った。
引っ越しの作業のためだろうか、かなりラフな服装をしているが、そんな日でもメイクや髪をきっちりとセットしているあたり、「几帳面な人なのだろうな」、という印象を受けた。顔立ちも整っているが、それ以上に挙動や言動の端々にかいま見れる生硬さが、彼女の印象を硬質なものにしていた。
あとで聞いたところ、彼女はその若さで、小さいながらも会社を経営しているとかで、このマンションを選んだのも、「経営している会社から、歩いて五分の位置にあるから」、だそうだ。
「どうせ、家族が居るでもなし、寝に帰るだけの場所ですし」
と、彼女はひっそりと笑った。
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つづき]
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