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隣りの酔いどれロリおねぇさん (7)

隣りの酔いどれロリおねぇさん (7)

 胃の腑がぐつぐつと煮えたぎっているような気がした。
 頭も、ぼうっとしてきて、
「くーすー」→「古酒(?)」→「泡盛(!!)」
 という、単純な知識を反芻するのに、かなりの時間を必要とした。
 三島さんほど悪酔いこそしていなかったが、ぼく自身、今夜はかなり飲んできたのだ。ぼくは元々あまり酒に強いほうではないし、そこに、だめ押しでこんな強い酒を一気に流し込まれたら、足下くらい簡単にふらつく。

「んっふっふっふっふ」
 仁王立ちになった三島さんは、邪悪な(と、いいきってもいいと思う)笑みを浮かべ、
「このみにら先生から簡単に逃れられると思うなよ」
 とか、のたもうた。

 ……と、思ったら、そのままぐらぐらと姿勢を崩し、ぺたん、とその場に尻餅をついた。

 ……だってあんた、さっきあれだけ-げーと吐いたばかりじゃないですか……。
 あの状態から、そんなきつい酒口に含んだら、匂いだけでもやられてしまうんじゃないだろうか? それに、口移し、といっても、やはり幾分かは自分でも飲んじゃうだろうし……。
 目的のためには手段を選ばず。ただし、そのためにかえって自爆。
 この人らしい、といえば、あまりにもこの人らしい、展開ではある。
 ……後先考えずに、平気で無茶な真似をする人なんだよなぁ、やっぱり……。

「……せーねん……」
 三島さんはしばらくそのまま座り込んだ姿勢で俯いていたのだが、何分かしてから、同じように座り込んで、廊下の壁にもたれかかっていたぼくの足を掴み、ずりすりとこっちに這い上がってきた。
 多少はダメージから回復したらしいが、半ば泣き顔で、目尻に涙が溜まっている。
「……ぎぼぢわるい……」
「自業自得です」
 ぼくはズキズキと痛むこめかみを押さえながら、即答する。この頭痛の原因は、アルコールのせいばかりではないと思う。
「だいたいなんですか? そんなに男が欲しいんですか? セックスしたいんですか? ニンフォマニアなんですか、あなたは」
 そのときのぼくの声には、抑えきれない怒気を含んでいたと思う。
「いや、男性一般や性行為が好き、とかいうよりもだねー……」
 ずりずりとぼくの膝のうえにのっかってきながら、三島さんはいう。
「わたしを特別扱いしないタイプの男が好きなんだな、わたしは。
 あれだ。青年は、すっげぇー普通の人だろ。怒ったり呆れたり、コッチのやりように、素直かつ結構露骨に反応して表情に出すだろ。
 だからな、つい弄りたくなる」
 よっこらしょ、っと声をかけて、三島さんは壁によりかかっているぼくに、さらによりかかる格好で、重なる。
「いい迷惑です」
 ぼくがやはり即答すると、「そうだよなぁ」、と、ぼくの顎の下で、三島さんの頭が答えた。
「……その、三島さんのような体型の方を好む人も、それなりにいるのでしょう?
 三島さんなら、相手に不自由しないのでは?」
「あー。いるなぁ、割と。そういう嗜好のやつ、割合に多い。少なくとも、一般に思われているほどには、特殊な趣味ではないな。
 でもなぁ。そういう性癖の持ち主というのは、えして、フェティッシュな嗜好として本当に幼児体型を愛好しているんではなくってな。相手が子供か、子供のように小さくて無力な存在だったら自分の思い通りになる、とか、勘違いしている輩なんだな。ま、一種の、支配欲のすり替えだったりする。
 しかも往々にして、ご当人はそのことに無自覚で、自分のほうこそ弱い人間だと思いこんでいる場合が多いから、始末に悪い。
 幼児性愛自体に偏見もっている訳ではないが、わたしみたいなのにアプローチしてくる男どもの大半は、そういう手合いが大半だったな。そういうヤツラとまともな人間関係を築こうとすると……けっこう、気疲れするもんだぞ。
 そこへいくと青年は、ほんとうに、至って普通の若い男だからなぁ」
 三島さんはそういって、
「イヤなことはイヤだという。抵抗もすれば、喧嘩もできる。
 このちっこいわたしと、自然にそういうことをできる男は、実は少数派だったりするんだな、これが」
 と、付け加えた。

 善し悪しはともかく、現実として、わたしは先天的なこの体型のおかげで、「社会的な意味での女性性」からも阻害されている──と、三島さんはいった。
 そのとき、ぼくからは三島さんの頭のてっぺんしか見えなかったが、三島さんは、意外に真剣な表情をしていたのではないのか、と、想像していた。

[つづき]
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