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隣りの酔いどれおねぇさん (8)

隣りの酔いどれおねぇさん (8)

「上着は脱いでもらった方がいいですね」
 といいつつ、壁際にあるスタンドからハンガーをひとつとり、加々見さんに手渡す。加々見さんは腰を浮かせて上着を脱いでハンガーにかけ、それをぼくのほうに返す。加々見さんから手渡されたハンガーをスタンドにひっかけ、いよいよ加々見さんの背中に向き直り、肩に手をかける。
 ブラウスの薄い布地越しに、加々見さんの体温を感じた。
「それでは、いきます」
「お願いします」
 相変わらず、背筋を伸ばしたままの加々見さんが答える。
 ……うーん。まだ硬いよなぁ……。

 最初から力を込める、ということはしなかった。
 人差し指と中指、それに親指の三本の指にだけ、軽く力をいれて、加々見さんの首の付け根、両脇部分を摘む。他の指は添えているだけ、のような感じで、軽く振動を与えるように、動かす。さほど力を入れているわけでもないのに、
「はっ。んっ」
 と、加々見さんは、すぐに色っぽい吐息を漏らしはじめた。
 そして、加々見さんの首が、ほんのすこし、前後に揺らぐようになる。加々見さんの首が前のほうに振れると、加々見さんのうなじが丸見えになって、その白さが目にまぶしい。こうしてみると、加々見さん、色白だよな。

 まだまだ、ごく表層の部分を軽くほぐしているだけでもこれほど気持ちよさそうにしているとは……。加々見さん、予想通り、かなり凝っていると見た。
 それでも焦らず、じっくり、力は振動を与える程度に抑え、ぼくは揉む範囲を徐々に広げていく。
 首の根本からはじめて、徐々に外側に向かうにつれ、指の下に感じる加々見さんの温度が微妙に上昇していく。うなじとか、頬とか、加々見さんの肌の後ろから見える部分の、透けるような白い地に、ほんのりと朱色がさしはじめる。

「もう少し、力を込めていいですか?」
「お願い!」
 加々見さんは、いつもとの平静さとは打ってかわって、かなり強い語調で即答した。
「もっと強くして!」
 ……うーん。じらしていたつもりはないのだが、そんなに凝っていたのか……。
 たしかに、指に感じる加々見さんの肉の感触は硬質で、容易にほぐれない、つまり、長期戦になる、ということはすぐにみてとれた。だから、ことさらじっくりとウォーミングアップを施したわけだが、そのウォーミングアップの段階で、これほど反応するとなると、本格的に揉みはじめたら、いったいどうなってしまうのだろう?

 とりあえず、リクエストに応える形で、ギアをもう一段アップさせる。
 とはいっても、それまで皮膚あたりまでしか刺激しないようしにしていたところを、もう少し下層の、皮下脂肪に届く程度に力を込めた、というくらいの、本当にささやかに変化をつけただけなのだが……加々見さんの反応の変化は、覿面だった。
 ぼくが肩胛骨の上の、特に硬い感触を感じる部分に、親指に少し力を入れて、をぎゅっと押し当てただけで、加々見さんは、
「んはぁ」
 と、大きく息を吐いて、上体をのけぞらせて硬直した。
「あ。痛かったですか?」
「いい! すごく、気持ちいい!」
 加々見さんは、感極まった、という感じの声でいった。
「君、うますぎ!」
 そういって、加々見さんは、肩にのせているぼくの手の上に、自分の掌を重ねる。

 ……いや、喜んで貰えるのは嬉しいけど……。
 そういう反応は、こういうところではなく、ベッドの上でこそ、して欲しい。そういう思いも、ふと頭をよぎる。
 それに、ぼくがうまいのではなく、加々見さんの凝りが酷すぎたのだと思う。ストレスの原因には、事欠かないようだったし。
「……続けます」

 それから十五分くらい、ぼくは加々見さんの肩を揉み続け、加々見さんは大げさなほど反応し続けた。もし声だけを聞いている人がいたら、絶対二人で別のことをやっていると勘違いしただろう。それほど、加々見さんは、ことある毎に嬌声をあげ、痙攣し、悶絶した。いや、比喩ではなく、実際にそんな感じ。
 その証拠に、十五分くらいして、ぼくの手が痙攣して続行不能になった頃には、加々見さんは全身に汗をかき、きれいにセットされていた髪もほつれさせ、ブラウスを肌に貼り付け、肩で息をしていた。
 フォーマルな恰好をした女性が、こういう状態になっていると、妙に艶めかしい。
「さ。お風呂に入ってきてください」
 ぼくは、肘をテールブルにつけ、前傾姿勢で荒い息をしている加々見さんにいった。
「……お風呂……」
 俯いていた加々見さんがのろのろと顔をあげて、ぼくを見上げる。ほつれた髪の間からかいま見える、加々見さんの目は、とろん、と、蕩けたような感じだった。
「もう、お湯、張ってますから。ゆっくりとお風呂で暖まってきたら、今度は全身をマッサージしましょう」
 ぼくが続けて、「出て行った彼女が置いていった、マッサージオイルがあるんですよ」と、囁くと、加々見さんの顔が、ぱぁあ、っという擬音がするのではないか、と、思うほどに、鮮やかに、輝いた。

[つづき]
目次

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Comments

今日はお休み

ということで、寝坊して更新が遅れました。

  • 2005/11/10(Thu) 10:51 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

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