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彼女はくノ一 第一話(1)

第一話 ある日、くノ一が落ちてきて……。(1)

 少し回りくどいが、松島楓嬢が墜落した当事、彼女の周囲にいた人々のことについて、順を追って語っていくことにしよう。ということは、松島楓嬢が墜落したとき下敷きなった少年、狩野香也の周囲の人々について語る、ということでもあり、あらかじめ、そうしたことを語っておけば、当面の「登場人物紹介」にも兼ねることになる。

 まず登場ずるのは、樋口明日樹。
 この物語のもう一方の主役である、狩野香也と同じ学校に通う女生徒だ。ただし、学年は狩野香也の一学年上で、現在二年生。そろそろ受験の問題が身近に感じられる時期だが、地味な外見にふさわしく、堅実な成績をキープしているので、本人も周囲もあまり心配はしていない。おかげで所属している美術部の活動に積極的に参加していて、狩野香也との出会いも、部活を通じて、だった。
 より正確にいうと、まず狩野香也の描いた絵に興味を持ち、ついで、狩野香也の実物と接することが多くなると、今度は彼の「あぶなっかしい」挙動に、はらはらしながらフォローする、ということが多くなった。
 家も近所、ということが判明してからは、そのフォローの一環として、たいていは一緒に登校することにしている。狩野香也の家族は、狩野香也本人と同じくらいに浮世離れした人々であり、ともすると「登校時間」どころか、「狩野香也が学生である」という事実さえ重要視していない節があった。事実、絵を通して樋口明日樹が狩野香也の存在を「発見」し、興味を持つまでは、狩野香也は不登校に近い状態だったし、級友とっても教師にとっても、狩野香也という生徒は、極めて影の薄い存在でしかなかった。

 数ヶ月前、樋口明日樹は、美術室に放置されていた一枚の絵を発見した。
 A4の画用紙に、一見して、ぞんざいに書き殴られたような筆跡の風景だったが、水彩画であるのにもかかわらず、絵の具をあまり薄めずに描かれたその絵は、筆の跡がはっきりと残るほど、こんもりと絵の具がもりあがっており、油絵であるかのような錯覚さえ覚えた。しかも、大ざっぱに塗り分けられているようにみえて、よく見ると、細筆で、非常に細かく塗り重ねられていることに気づく。技法としては印象派に近いような気もするが、絵全体から受ける印象は、なにか別の、変な、としか形容できにない雰囲気を放射していた……。
 たまたまその場にいた、美術部の顧問も兼ねている美術教師に尋ねると、一年の生徒が、授業中にかき上げたものだ、という。
 美術と音楽は選択授業で、一回の授業を、二時限続きで行う。つまり、その二時限分だけのわずかな時間で描き上げた、ということになる。
 樋口明日樹は自分でも絵を描くのでよくわかるが、たったそれだけの時間で描き上げたにしては、その絵はあまりにも筆が細かすぎた。その話が本当だとすれば、狩野香也という生徒は、よっぽど手が早い、ということになる。

 ……たかが授業に提出するための絵、に、こんなクオリティのものが平然と提出され、なおかつ、誰もこの絵に注目していない、というのは、絶対に、なにか間違っている……。

 義憤にも似た、そんな焦燥にかられた樋口明日樹は、絵の隅に無造作に書かれたクラス名と署名を確認し、すでに放課後だったので、後日、その生徒を訪ねることにした。そして、実際に、その絵を描いた彼、狩野香也の所属するクラスで知ったのは、その生徒は滅多に学校に来ない、ということだった。
 樋口明日樹は、さらにその生徒の住所を聞き出し、そこまで足を運んだ。
 狩野香也の家は樋口明日樹の家から歩いて五分ほどの場所であり、対応に出た狩野香也の母親に聞かされたところによると、香也の父、順也は、国内ではあまり知られていないが、海外ではそれなりに名の通った画家である、ということだった。

「いえね。わたしにいわせると、親子揃って、たんなる変人なんですけどねー」

 学校の制服のままいきなり尋ねてきた初対面の女生徒を気軽に家にあげ、お茶を振る舞い、「そのうち帰ってくると思うから」の一言で、香也が使っているという離れのプレハブに案内する。しかも、平日の昼間から、当の息子が「登校もせずに外出している」ことにあまり関心をもっているように見えない。かなり若くみえる香也の母親は、自分のことを棚に上げ、のほほんとした声と表情で、自分の配偶者と息子を「変人」と評する……。
 このとき、樋口明日樹は「この親にしてこの子あり」という文句を想起した。

 そのまま放置されたおかげで、樋口明日樹は、そのプレハブ内多数放置された香也の絵やスケッチを存分に検分することができた。香也が描いた絵やスケッチはあまりにも数が多すぎ、午後七時近くになって香也が帰宅するまでみても、全てに目を通しきれなかった。
 ようやく当の香也が帰ってくると、待ちわびた樋口明日樹は、挨拶もせずに身を乗り出し、熱心に美術部への勧誘をしだした。
「……誰?」
 当惑した表情の香也にそう聞かれるまで、樋口明日樹は、香也とは初対面であることを失念していた。

 翌朝から、なにかというと「登校することを忘れ」がちな香也に、学校の存在を思い出させるために、毎朝のように狩野家によることが、樋口明日樹の日課として組み込まれた。
 そうなってから、既に半年以上が過ぎようとしている。

 その朝も、いつものように、樋口明日樹は、狩野家を訪ねていた。

[つづき]
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