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髪長姫は最後に笑う。 序章 (2)

序章 (2)

 恩師を通じて、少年の祖父に奇妙な依頼について打診を受けてから、そろそろ一年になろうとしている。
 当時、わたしはあるシンクタンクに在籍していて、そして、自分の研究に行き詰まっていた。
 普段なら面識のない人物から面会の要請があっても相手にしないのだが、さんざん世話になった大学時代の恩師の紹介、ということと、軽い気分転換も兼ね、その老人と面会することにした。去年の今頃、十一月末ののことだ。
 その依頼主に面会可能日として指定されたのが、たまたま出張で東京に出ていた日だった、ということも、それなりに大きい。が、自分の研究に行き詰まりを……言葉を変えると、「研究者としての自分の資質」に疑問を感じていなければ、そもそも、転職の誘いになんか、応じやしないのだ。

 指定されたホテルのラウンジに現れた加納涼治と名乗る老人は、聞いていた年齢よりずっと若く見えた。
 艶のある、浅黒く日焼けした肌、体格が良く、きびきびと小気味良い動き、それに、眼光が、妙に鋭い。見た目だけでいうなら、「老人」というより、「中年」かせいぜい「壮年」くらいに形容するのが、ふさわしいように思えた。
「実際より若く見える、ということであれば、あなたと同じですな」
 名前と電話番号しか記されていない、奇妙な、かつ、素っ気ない名刺をわたしに差し出しながら、加納氏はいった。
 わたしの場合は、「若くみえる」というのを通り越して、「幼くみえる」。
 すでに義務教育を終えた頃から、初対面の人間で、わたしの実際の年齢を言い当てる者は皆無だった。わたしの外見的な特徴は、小学生の高学年程度のレベルで停止し、それ以上は、成長も老いもしていない。今では、単にホルモン分泌のバランスが、少し他の人々と違うだけだろうと思っているが、自意識過剰な十代の頃は、生物学の本を拾い読んで覚えた「ネオテニー」の人間例が自分なのではないのか、という、今にして思えば、かなり荒唐無稽な疑問さえ、抱いたこともあった。
 この、いつまでも変わらない自分自身の外観への懐疑が、わたしが研究職を選択した原動力にもなったわけだが……。

「先生のほうから、一応、お話は承っております。
 しかしそういったご依頼は、専門家の方ににご依頼になったほうが……」
 わたしの研究対象は、人間を構成するハードウェアのほうであって、ソフトウェアではない。カウンセラーでもないし、精神科医でもない。
「いやいや」
 加納氏はそうしたわたしの反応を予測していたように首を振る。
「わたしが依頼したいのは、彼らの治療ではありません。報告です。彼らの事情について興味を持ち、いくばかの注釈や考察も交えてレポートできる人材です。治療や必要以上の干渉は、どちらかというと、してもらいたくはない。
 わたしが欲しいのは、今後、彼らが直面する場面において、どのような選択をしたのか、という事実関係のレポートと、なぜ、その時その選択を行ったのか、という考察です。
 前者だけなら興信所でも使えば間に合いますが、後者の考察に関しては、細かい観察眼と透徹した思考の持ち主、つまり、あなたのような人材にしか頼めません」

 次いで、かなり大ざっぱな概略だけ聞かされていた「彼らの事情」について、かなり詳細な部分を、わたしに話しはじめた。

[つづき]
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