2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

髪長姫は最後に笑う。 序章 (3)

序章 (3)

 加納老人の息子、加納仁明は、十数年前、身ごもった妻を置き去りにして、姿を消した。加納家の人脈と情報網は「率直にいって、かなりのもの」なのだそうだが、加納仁明は十年以上に渡って、そうした捜索網をかいくぐり、裏をかき続け、見事に自分の消息を消し去っていた。

「その少女が保護されたのは、今年の二月になります」
 少女は、国内の僻地……住む者が途絶えた真冬の廃村で、発見、保護された。
 保護された当初、少女と失踪した加納仁明とを関連づけて考える者はいなかったが、廃屋に残された慰留物から、十余年に渡り、少女を軟禁、及び性的な虐待していた男が、加納仁明だと判明した。この期間は、加納仁明が消息を絶っていた期間と完全に一致する。
 そうした事実が、独自の情報網に引っかかったので、当然、加納家の者はその廃村に急行したが、もちろん、加納仁明の姿はどこにもなく、それどころか、加納仁明の以後の足取りを示すような手がかりさえ、見つけることができなかった。

 かくて、加納仁明が、閉ざされた世界で育んできた少女だけが、一人、残された。
 もちろん、その少女は壊れていた。

 保護された当初、少女は衰弱が激しく、意識不明の状態だった。
 手当を受け、体力が回復してからも、数ヶ月にわたって、なにもしゃべらなかった。語りかけられた言葉には反応し、かなり限定したコミュニケーションなら、可能だったが。例えば、看護士のいうことは理解し、その指示には素直に従ったそうだ。
 ただ、少女自身がなにを考え、なにを思い、なにを欲しているのか……ということは一切外に漏らさず、長期間に渡り、なにもしゃべらなかった。
 入浴やトイレなど、必要最小限の用事以外には、ベッドから離れようともせず、柔らかく微笑んで、延々と長い髪の手入れをし続けた。軟禁されていた期間中、ほとんど切らなかったのではないか、と推測される、自分の身長よりも長い、黒い髪を、丁寧に丁寧に梳り、一日一日を過ごした。
 少女の、身元も本名(というものが、あるのだろうか?)も依然として不明のままだった、という事情もあって、関係者の間で、少女は「髪長姫」のあだ名を奉られる。

「こうや」
 少女が言葉らしい言葉を話しはじめたのは、保護されてから半年以上経過した、十月も終わりの頃だったという。
「かのう、こうや」
 食器を下げにきた看護士にそれだけをいうと、少女は穏やかな微笑みを浮かべ、驚愕した看護士をよそに、そのまま横になって寝息をたてはじめた。
 ようやく少女の口から出た言葉らしい言葉は、自分を軟禁していた男の、実の息子の名前だった。
 また、それ以降、少女がなにがしかの言葉をしゃべるということは、絶えてなくなった。

 加納家の関係者に衝撃が走る。
 少女を軟禁していた男、加納仁明が、失踪した当時、加納仁明の息子は、まだ母親の胎内にいた。まだ名付けられていなかった胎児の名を、加納仁明は、いかなる伝手で知ったのか。
 また、捨てたはずの妻の胎内にいた息子の名前を、どうして知ろうとしたのか?
 なぜその名を、少女が、今、口にするのか?

 加納仁明の消息と少女の来歴は不明のまま、数々の謎ばかりが、残った。
「で、わたしのような老骨が、一連の不祥事の始末をつけるために呼び出されたわけですわ」
 加納老人は、自嘲するように、薄く笑った。
「一応、わたしは、一族本家の中では最年長なわけで。うちら一族は、身内の不祥事は身内でかたづける、ということになっておりますのでな。
 よりにもよって、仁明は本家の直系です。なにがなんでも見つけ出して、始末をつけないことには、周囲に示しがつかん。
 それと、被害者の少女の先行きですな。先生にお頼みしたいのは、もちろん、こちらのほうです」

[つづき]
目次

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking HONなび




↓このblogはこんなランキングにも参加しています。 [そのさん]
アダルトランキング エロブロ・センター 夜のおかずドットコム アダルトブログいいよ☆いいなランキング 教えてエロい人! SWSアダルトサーチ エログ ホット ランキング MEGURI-NET 官能小節ネット ねこさ~ち

Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ