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彼女はくノ一! 第一話 (3)

第一話 ある日、くノ一が落ちてきて……。(3)

 以下に、羽生譲が樋口明日樹のことを「わかりやすい」と判断する根拠を列挙する。

 その一。「狩野香也をまともに登校させる」という名目で狩野家に通っているのに、学校がない夏休みまで、なにかと口実を設けては狩野家に訪問していた。
 その二。香也に対するときと、他の人の対応するときとでは、まるで顔の輝きが違う。
 その三。今のリアクションにしても、裸になっている羽生譲に、ではなく、真面目にスケッチしている狩野香也に向かって、怒鳴りつけていた。

『……こんなん、わたしじゃなくったって、フラグぴんこ立ちしているのモロわかりやんかー……』
 ぼんやりとそんなことを考えながら、羽生譲は灯油ストーブの上に乗せておいたミルクパンを手に取り、中身の牛乳をマグカップに移して、口をつける。
 ぬるい。
『……あんな、ぽやぽやーっとした、掴みどことのない香也の、一体どこがいいのかねぇー……』

 傍らでは、裸のままの羽生譲は思いっきり無視して、樋口明日樹が狩野香也のネクタイを直したり、「ハンカチ持った? ティッシュは?」などと問いただしている。
『あー。せーしゅんだなー。若いっていいなー』
 とか思いながら、
「文句いうなら、堅物眼鏡っ娘もまざって脱いだり脱がせたり描いたり描かれたりすればいいんだよー。ヌードデッサンは基本中の基本だぞー」
 と、樋口明日樹の耳に入るか入らないか、という微妙な大きさの声で、ぼそっと囁いてみる。
 樋口明日樹は、羽生譲の期待通り、「脱いだり脱がせたり」のあたりから微妙に視線が落ち着かなくなっていたが、すぐにキッとした表情を作って、
「その、『堅物眼鏡っ娘』って言い方、やめてください」
 と、こちらに向き直る。
「んじゃ、あすきーちゃん。
 あれ、わたしら、不純異性交遊とかさー、そういう怒られるようなやましいこと、全然、なんも、やってないしー。
 あすきーちゃんはさー、放課後、部活とかで遅くまでこーちゃんとひっついているんだからいいけどさー。朝のわずかな時間くらい、おねーさんに貸してくれてもいいじゃないかよー」
 ことさらのんびりとした口調でいって、
「怒りっぽいのはカルシウムが不足しているからだなー」
 と、付け加え、まだ半分以上残っているミルクパンを突きだして、「これ、飲む?」と聞いてみる。
「いりません! もうそろそろ出ないと遅刻します。香也くん、いくよ!」
 といって、「あー」とか「うー」とか不明瞭なうめき声しか出さない狩野香也の腕を引いて、プレハブから出ようとする。
「あー。じゃあ、おねーさんはこーちゃんの原稿にペンいれしようかなー。今年はコミケの席とれたしー」
 その背中にポツリと呟くと、「こーちゃんの原稿」という単語にピクリと背中を震わせた樋口明日樹が、肩越しに振り返る。
「あのぅ……『コミケ』って、なんですか?」
『真面目っ子がおる! ここに世間知らずの真面目っ子がおるよ!』
 心中でそう叫んでいるの隠しながら、羽生譲は、表情を変えないように努力しつつ、
「うーん。一種の自費出版の即売会だなー。こーちゃんの絵を本にして売るのだなー」
 そう、答える。不正解でもないが、必ずしも正確な答えでもない。

 こと、絵に関しては、どんな画風も、たいていはしばらく見て、二、三十分練習しただけで、なんとなく真似てしまえる、という奇妙な特技を、狩野香也はもっていた。加えて、手が早い。それに、羽生譲の知恵が加わると、以下のような作戦が可能となる。
 売れ線のジャンル(たいていは、エロ。やおいやBLも含む)、旬な題材、作品、キャラなどを羽生譲が指定し、なおかつ、その時々のニーズに沿った、事細かな注文まで指定して、狩野香也に線画を量産させる。それに、羽生譲本人と、羽生譲の昔の悪友たちが寄ってたかってペン入れや仕上げ作業をし、製本し、コミケや即売会で大量に販売。
 たいていの画風を真似できる器用さ、描くものを問わない無頓着さ、それに、驚異的な手の早さ……という狩野香也の特質と、その時々の、旬な売れ線を的確に見抜く羽生譲のセンスならびに嗅覚がタッグを組むことで、初めて可能となる作戦だった。

 この作戦は予測以上に当たり、ここ数年、狩野香也や協力してくれた悪友たちへの分け前をさっ引いても、羽生譲に結構な額のボーナスをもたらしていたわけだが……。
『……コミケでバカ売れするような本を、この純情真面目っ子が見たら、一体どういう反応をするのか……』
 年末の楽しみが、ひとつ、増えたな、と、密かに期待を膨らませつつも、羽生譲は、態度には表さないように気をつけ、素っ気ないふりを装い、
「んじゃあ、さ。あすきーちゃんにみせたげるねー。本できたらー」
 といって、登校しようとする二人の若人に、手を振る。
「羽生さん」
 プレハブの引き戸を閉じる一瞬、樋口明日樹はチラリと羽生譲のほうに視線を走らせ、
「早く服着ないと、風邪引きますよ」
 といって、戸を閉めた。

[つづき]
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