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彼女はくノ一! 第一話 (4)

第一話 ある日、くノ一が落ちてきて……。(4)

 朝食の片付けをした後、お茶お入れて食卓にもなっている炬燵に陣取り、ノートパソコンを開いてメールチェック、次いで、表計算ソフトを立ちあげて、簡単な家計の点検を行うのが、狩野香也の母、狩野真理の日課だった。今時、「放浪の画家」などという流行らない職業をしている夫の仕事から、無理矢理収入をひねり出すのが狩野真理の仕事であり、「収入」の計算が一般のサラリーマン家庭よりずっと繁雑になっているので、表計算ソフトは必須(夫の順也は、南米や東ヨーロッパの聞いたこともないような小国へ赴いて、平気で数ヶ月居座って仕事をしてくる。しかも、ドル建てで報酬をもらうように契約してくれればいいのに、現地の貨幣で仕事をすることも多い)で、夫や取引先との連絡は、大抵、メールで済ませている。この辺、グローバルなネット環境が整備された時代に産まれて良かった、と思う。
『……今月も結構苦しいなぁ……』
 多少、名が知れてきたとはいっても「アーチスト」などというのは所詮虚業。「作品」を「商品」に、無理に変換しないとお金にならない、という一面がある。ここ数年の順也は、世界中転々として気に入った場所に壁画を描いて回るのに凝っていて、ローカルなニュースになることは多いのだが、額縁に入る絵(つまり、ギャラリーに展示できて、そのまま売れる)絵を描いていた頃よりは、収入が減っている。
 狩野真理は、年に何回か、たいていは地方の小さな美術館や画廊で行われる順也の個展の打ち合わせ、それに、当の順也との連絡をメールで行い、その後、家の掃除にかかる。このメールでの対応にかかる時間は日によって異なるのだが、その日は、順也の壁画をCDジャケットに使用したい、というロンドンからのオファーに返事を書いた程度で、三十分もしないで終わらせることができた。

 そしてまず、玄関前と庭のお掃除、とばかりに、箒とちりとりをもって外にでると、コットンパンツにセーター、その上にどてら、その上くわえ煙草、という、完全に室内着ファッションの羽生譲と出くわす。
「ども」
 百七十の長身とスリムなボディ、顔だって悪くないのに、ほとんどドレスアップすることがない羽生譲は、いかにも眠そうな顔をして、片手を上げた。
「香也、もう学校にでました?」
「そこ」
 今時、いかにも昭和的な、平屋木造一戸建て、の、古い日本式家屋である狩野家は、庭の造作まで純和風で、腰の辺りまでしかない生け垣越しに、香也と迎えに来た女生徒の姿が見えた。

 羽生譲が指さしたちょうどその時、なんだかかなり大きくって黒っぽい塊が、香也の上に降ってきて、
「げほぉ!」
 という悲鳴を残して、香也が、生け垣の下に姿を消す。

 羽生譲の口から、煙草が落ちた。

『なに?』と疑問に思う間もなく、香也が姿を消した当たりから、その降ってきた塊が勢いよく飛び出してきて、生け垣で見えない部分で、そのまま二、三度地面上を転がっている気配。『あれ、人間?』とか思う頃、最初の落下地点から数メートル離れた場所に、ばっ、と、真上に飛び上がった。そのまま、両手を高々と上げて……。
「あ。こけた」
 ……着地に、失敗した。

 ゴン、という鈍い音。

「きゃあー!」
 樋口明日樹が悲鳴を上げたのを皮切りに、
「なに? なんで? 空から、人が!」
 狩野真理が、呆然と、叫ぶ。
「こーやくん、大丈夫か!」
 真っ先に狩野香也に駆け寄ったのは、羽生譲だった。

[つづき]
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