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髪長姫は最後に笑う。 序章 (5)

序章 (5)

 加納老人の依頼をぼちぼち真剣に検討しはじめたわたしは、手始めに疑問に思った点をまとめながら、さらに詳細な資料の提供を求めた。
 名刺に書かれた電話で対応したのは若い女性の声で、わたしが名乗ると、
「加納から承っております。失礼ですが、先生のプライベートなメールアドレスを頂けませんでしょうか?」
 と聞き返し、数分もせず、膨大なサイズのファイルを添付して、メールで送付してきた。どうも加納老人の一味は、わたしのことを「先生」と呼称することに決めたらしい。教鞭を執っているわけでもないのに「先生」よばわりされるのもこそばゆいが、院をでて研究職に就いている、というだけでわたしのようなひよっこが「ドクター」よばわりされるよりは、ナンボかましか。
 それにしても、加納老人は、わたしの出方をあらかじめ予測していたのか、イヤになるような手際の良さだった。

 送付してきたのは、少女「髪長姫」の件に関係した警察関係の文書のコピー、病院のカルテのコピー、どうやら、老人の一族が独自に調査したものらしい膨大なレポート、などが、未整理のままに混在しており、その全てに一通り目を通すだけでも、かなりの時間を要した。量も膨大だったが、バラバラで断片的な情報群をひとつひとつ整理しながら、それこそ、バラバラのピースからジグゾーパズルでもくみ上げるように丹念に読み込んでいったので、なおさら、時間がかかった。
 あえて、未整理のまま送ってきたのは、多分、老人の側で整理すると、わたしが余計な予断を持って情報に向き合うから、それを避けるため、という意味合いもあったのではないかと思う。本業の方にも時間を取られているので、結果として、年末年始の休暇をほとんど潰すような形で、わたしは、この情報群を「自分なりに解釈する」ことになった。

 すぐに気づいたのは、この一件は冗談でも捏造ではない、ということだった。どこかの誰かが、わたしなんざを騙すために、ここまで手間暇をかける理由、というものを思いつかなかった。それに、断片的な情報群も、そこそこ矛盾した箇所があったが、それも誤差として許容できる範囲内で、かえって、その点在する矛盾点が、一件のリアリティを保証しているように思えた。
 例えば、「複数の情報源から採取された、数年前の出来事に関する証言」、などというものに、一貫性がありすぎたら、かえってそれは、作り物めいていたと思う。そういう意味では、わたしが与えられた情報には、十分なリアリティがあった。
 次に感慨深く感じたのは、加納老人の「一族」の能力と意欲の、異常なほどまでの高さ、だった。

 与えられた情報をもとに、わたしなりに、一件の流れを軽く整理してみよう。
 まず、二月末某日、某県警に匿名の電話が入る。ボイスチェンジャーで変換された性別さえ判明しない声で、今では廃村になっている某所に、少女が軟禁されている、という内容だった。最初、某県警は悪戯として処理した。
 山中にあるその廃村は、人が住まなくなってから数十年以上が経過している。当然、電気、ガス、水道などのインフラもなく、村への道さえ、樹木に埋もれている。地図にさえ、村名が記載されていない。そんな忘れられた土地に住める人間が、いるとは思えなかった。ましてや、「軟禁」となると、食料や生活物資などを余分に用意しなければならない。誰かを虜にするにしても、車でいくことさえ不可能な、そんな不便な土地を、わざわざ選択するだろうか? そもそも、その通報者は、そのどうやってそんな場所に人が軟禁されている、と知ったのか? 「たまたま通りかかる」という土地ではないのだ。
 当所、その県警が「悪戯」として扱ったのは、常識的な判断だったと思う。
 だが、その悪戯電話は、毎日同じ時刻に数日にわたって繰り返され、不明瞭ながらも、廃村の村役場の前に佇む少女の写真(望遠レンズを使用して、かなり遠距離から撮られたものだった)が県警の近所のコンビニからファクスされるにいたり、動かざるを得ない状況となった。
 廃村から一番近い村の駐在に、県警から連絡がいき、山道に慣れている有志の村民数名とともに、山中の道なき道を二十キロ近くをあるき、半ば忘れられた村に踏み入れた。

 そこには、たしかに少女が居た。
 それだけではなく、その廃村だった場所は、小規模ながらも田畑や用水路、それに、自家発電の設備までが整備され、数年にわたり、人が居住していたらしい痕跡も、あった。
 少女は、その廃村で、たった一軒、まともに住めるくらいには補修された家の中で、布団にはいって、やすらかに眠っていた。
 彼らは、衰弱していた少女を担いで村に帰り、すぐに「事件性あり」と判断した県警から増援が派遣され、数日に渡り、その廃村が調査された。その廃村に関しては、夥しい写真とともに詳細な報告がなされていたが、分かったことといえば、ごくごく少なかった。

『その少女と加納仁明が、その村に十年くらい、住んでいた』
 ようするに、それだけのことしか、分からなかった。彼らの生活の痕跡が、あるばかりだった。

 少女の体に性交渉の痕跡を認めた警察側は、この件を「拉致監禁事件」として捜査し始めたが、すぐに連絡を受けた加納家からの圧力がかかりはじめたことと、それに、少女の身元がいつまでも不明のままだったので、自然、捜査活動は進展しないまま、徐々に下火になっていった。
 以降、警察側の資料はかなり乏しいものとなり、かわりに、加納老人の一族からの情報が飛躍的に増大する。特に熱心に加納仁明を追ったのは、やはりというべきか「仁明が捨てた身重の妻」の身内たちだった。
 もともと虚弱体質だった彼女は、仁明の息子、荒野を出産した際に亡くなっている。彼らは、執拗、かつ、熱心に、加納仁明の消息を捜査した。
 が、加納仁明の行方は、いまだに、不明のままだ……。

 年末年始の休みを潰して、詳細に資料を読むふけったわたしは、メールに、

『髪長姫と加納涼治への面会を乞う。
 できれば、加納荒野にも』

 とのみ、記述して、送付した。
 次のような素っ気ない返事が来るまでに、三日ほどかかった。

『了解。
 二月○日、午後一時、○県○市内の○病院に来られたし。』

 指定された日は休日で、指定された病院は、加納家の息のかかった「髪長姫」の現在の入院先。当事わたしが住んでいた場所からそこまでは、新幹線を使って二時間ほどかかる位置にあった。念のため、口座を調べてみると、「加納涼治」という振込人から交通費にしては多額の金額が振り込まれていた。

 髪長姫、と呼ばれる少女が「発見」されてから、そろそろ一年が経過しようとしていた、その二月……。
 わたしは、髪長姫と加納荒野に面会することになった。

[つづき]
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