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髪長姫は最後に笑う。 序章 (6)

序章 (6)

 指定されたその日、わたしは最寄り駅からタクシーに乗り、病院へと向かった。写真でしか知らない髪長姫、それに、加納涼治老人と、加納涼治の曾孫にあたるという、顔も知らない加納荒野に会うために。
 わたしが乗ったタクシーは指定された時刻の十分前についたが、彼らはこの寒空のした、病院の玄関前でわたしの到着を待ちかまえていた。
「遠路はるばるご足労いただきまして」
 老人とその曾孫は、かろうじて背格好だけは、よく似ていた。しかし、それ以外の外見的な特徴は、ほとんど共有していない。
「こちらが、……」
 老人は、傍らにいる銀髪の青年を示して、わたしに紹介する。
「……加納荒野です」
 加納荒野は、一見したところ大学生くらいの青年に見えた。わたしがデータとして知っていた彼の年齢よりも、五歳以上年上にみえる。
 それ以上に、目を引いたのは、短く刈り込まれた彼の頭髪が、見事なプラチナ・ブロンドだったことだ。
「初めまして、先生」
 銀髪の青年は、わたしに手をさしのべた。どうやら、握手を求めているらしい。何年も前から一族の一員として、一人前以上の仕事をこなしている、という加納荒野は、海外生活が長いせいか、その容姿と相まって、そうした仕草が様になる。
「この髪、地毛っす。おれ、割と複雑な混血で。おれのばぁちゃんに当たる人が白ロシア人とかで、そっちの遺伝っすね。これでも髪を染めると、ちゃんと日本人に見えるんすよ」
 そういって、わたしの手を握ってぶんぶんと振り回す。
 その屈託のない表情と口調が妙に実年齢相応で、大人びた外見との間にギャップを感じた。
 加納荒野は、黙って立っていれば、イケ面の外人……白人青年、にみえた。

 わたしたち三人は、加納涼治老人の案内で、「髪長姫」と呼ばれる少女の病室へと向かった。身体面からみれば、少女はすでに完全な健康体だが、特殊な事情と精神面での不安から、この病院に保護されて、経過を見守っている、という。もちろん、そういうのは口実で、加納老人の一族の目が届くところに、彼女の身柄を押さえておきたいだけなのではないか、と、わたしは思った。

 病院の髪長姫にあてがわれた病室は、最上階にある個室で、そこそこの広さがあるわりには、見事になにもなく、空虚な印象を受けた。病室とは、そもそもこういうものなのかもしれないが。個室の中央にベッドが置かれ、そこに、少女……髪長姫が、腰掛けている。話しに聞いていたように、見事なストレートの黒髪がベッドの上からはみ出すほどに延びていて、彼女は、その時も、自分の髪を櫛けずっていた。
 が、ドアが開いた音に顔をあげると、彼女は大きく目を瞠り、日本人形のような端正な顔に、唐突に驚愕の表情が現れる。
「……こうや……」
 この一年、数えるほどしか言葉を口にしなかった髪長姫は、初対面のはずの少年の名を、口にした。
「……かのう、こうや……じんめいのむすこの、こうや……」
 そして髪長姫は、目を見開いたまま、静かに、涙を流しはじめる。
 髪長姫は、われわれ三人のうち、加納荒野しか、みていない。加納荒野の顔をまじまじと見つめながら、静かに涙を流し続けている。

 わたしと加納老人は、顔を見合わせた。老人の顔に表情を読みとることはできなかったが、わたしの顔は、困惑した表情がありありと現れていたと思う。
 髪長姫は、ほとんどしゃべないはず、だったのではなかったか? 彼女にとって、「狩野荒野」という存在は、それほど、重要な位置をしめるのだろうか? だとしたら、なぜ? 狩野荒野と髪長姫は、そもそも今回が初対面のはずである。
 髪長姫は、どうやって、今、ここに立っている少年が、狩野荒野である、と、即座に断定できたのか?
 ……際限なく、無数の疑問が湧いてきた。
 一体なにがどうなっているのか? 今わたしの目の前で、なにが起きているのか? 髪長姫にとって、加納荒野との対面は、どういう意味をもつのか?

 あれだけ大量の資料も漁りながらも、わたしには、わからないことだらけだった。わたしが貰った情報に重大な欠落があるというのだろうか?

「そう。おれ、加納荒野」
 加納荒野は、ベッドに近づいて、身をかがめ、目の高さを髪長姫と同じくらいにして、髪長姫に語りかける。
「あんたと一緒に暮らしていたらしい、加納仁明の息子。でも、おれは親父とは、一度も会ったことがない。
 不思議だよね。実の息子なのに、一度も親父と会ったことがないおれと、他人なのにずっと親父と一緒にいた君とが、こうして会っているのは。
 親父のこともいろいろ聞きたいけど、それよりも、さ……」
 加納荒野は、髪長姫に向かって、実に人なつっこい、いい笑顔を向けた。
「おれ、君のことは、なんて呼べばいいの?」

「……かや……かのう、かや……」
 加納茅。
 それは、資料に記されていた、加納仁明の妻であり、加納荒野の母でもあった女性の名前だった……。

 翌日、わたしは、かねてから用意していた退職願を提出した。
 わたしは、彼ら二人の、加納荒野と加納茅の行く末を、知りたくなった。

 ってぇか、こんな面白そうなことを目の前に差し出されて、ほっぽっとけるかってーの!

[つづき]
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