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彼女はくノ一! 第一話 (6)

第一話 ある日、くノ一が落ちてきて……。(6)

 とりあえず、正体不明のくの一を羽生譲と三島百合香の二人がかりで狩野家に運び込み、その間に、狩野家の主婦である真理が布団を準備し、そこに寝かせる。
 それだけのことをすると、女三人、朝もまだ早い時間から手持不沙汰になって、誰からともなく、「お茶にしましょう」ということになり、炬燵にはいる。
 すぐそばには、覆面をとってあどけない素顔をさらした忍装束の少女が、布団の中で安らかな寝息をたてている。
「おー。やっぱりロリプニだぁー」
 覆面をとったくノ一の素顔をみて、羽生譲が感嘆の声を上げた。

 で、当然、お茶うけの話題は、その少女のことになるわけだが……。
「せんせー。この子、本当に大丈夫なんすかぁ?」
「あー。たぶん。
 あれだろ。聞いた話を総合すると、ようするに自分ですっころんだだけだろ? 軽い脳震盪だよ。
 落下した勢いのまま直接頭うった、ってんなら、話は別だけどな」
「でも、打ち所が悪ければ……」
「そこら辺は、まあ、運だな。
 てぇか、お前さん。こういう恰好しているこいつ、病院に担いでいってみるか? ん? 注目を浴びること請け合いだぞ」
「……遠慮しておきます……」
「そういえば、せんせい。学校のほうは行かなくても……」
「んー。まあ、大丈夫だろ。基本的に閑職なんだよ、保健室の先生って。くる生徒のほとんどは、さぼりんぼの常連だし。
 第一、こっちのほうが学校より面白そうだしな」
「……そんなもんすかぁ……」
 羽生譲のこめかみに冷や汗が流れる。さっき、香也と眼鏡っ娘にどやしつけていたのは、一体なんなんだ……。
「あー。でも、そーかー。忍者かぁ……」
 ずずずずっ、っと、三島百合香は涼しい顔で湯飲みのお茶をすすり、
「念のためにちょっと、心当たりに確認してみるかな、っと」
 携帯電話を取り出して、どこかにかける。
「あー。朝早くからすいません。加納のおじいさん? はい。こちら三島百合香。ええ。あのですね。今朝、今し方、うちのマンションのお隣りの家の門前に、なんかモロにニンジャーってお茶目な格好をした女の子がおっこちてきたんですけど。ええ。墜落。見事に。今は自分でこけて伸びているんですけどね。そちらでなんか心当たりはないですか? はぁ。はぁ。あー。なるほど。そういうことですかー。はー。それはまた面白い……。あ。ちょっと待ってくださいね。はい」
 三島百合香は一旦携帯電話から顔を離し、
「立ち入ったことをお聞きいたしますが、こちらのお家の方……の、家計を預かっていらっしゃる方は、どちらですか?」
 怪訝な顔をしながら狩野真理が手を挙げると、
「あー。この女の子ニンジャの、ずーっと上の、元締めのさらに元締め、みたいな、大頭領様が、お話があるって」
 と、携帯電話を、一家の主婦、狩野真理に手渡す。
 おそるおそる携帯電話を手にした狩野真理は、長々となにやら話し込みはじめ、ときどき、「ええ?」とか「そんなに?」とか、感嘆の声をあげている。
「……すげーな、先生。あんた、何者だ? なんで学校の保健室の先生が、忍者の大頭領様とホットラインもってんだ?」
 羽生譲が目を丸くして訊ねると、
「ふっふっふ。すげーだろ、驚け。大頭領様はな、ちっくら年齢はいっているが、渋めでダンディーないい男だぞ。でな、わたしはその大頭領様の孫どもを、まとめて面倒みているのだ」
 と、成人女性にしては驚くほど平坦な胸を張る。
「……なんだかよくわかんねーが、すげーってことだけはよくわかった……」

 そんなことを言い合っている間に、
「はい! はい! はい! それはもう、よろしいように! はっ! では、そのように!」
 通話中にどんどん返答のテンションが高くなっていく狩野真理さん。ようやく、通話を切り、ぼーっとした顔をして、携帯電話を三島百合香に返す。
 その顔が、あまりに魂が抜けているように感じたので、羽生譲は狩野真理の目の前に掌をかざして、二、三度振ってみた。
 反応がない。

『……大丈夫かなぁ……』
 と、羽生譲が本気で心配しはじめたとき、狩野真理は突如、テキパキとした動作でノートパソコンを立ち上げ、銀行のサイトにアクセスし、口座残高を調べはじめる。その結果……。
「……うぉぉぉぉおぉ……」
 と、形相を変えて、驚愕の表情を作る。
「譲ちゃん! 今夜はお祝いよ! ごちそうよ! 我が家に新しい住人が増えるのよ! 春よ! 冬なのに春が来たのよ! そうね、冬だからお鍋がいいわ! いけない、今から買い出しにいかなけりゃ!」
 潤んだ瞳、上気した頬。まるで「恋する乙女」仕様、夢見心地の、ちょっとイっちゃた顔をして、狩野真理は、「たらららー」と鼻歌を歌いながら、炬燵の廻りをゆっくりしたステップで巡りながら、踊り始める。
「なななななんすか? いったい?」
 尋常ではない狩野真理の様子に、羽生譲が引き気味になる。
「あー。だいたい、見当がつく……」
 ずずずず、と、涼しい顔で湯飲みを傾けながら、三島百合香がいった。
「大頭領のじいさんのゲンナマ攻勢だな。わたしもやられた経験があるからわかるけど、あれ、不意をついてやられると、めっちゃ効くんだわ……。ほとんど心理攻撃だよなー、あれ。流石はニンジャ、っつうか……」
「そうよ!」
 軽やかなステップで炬燵の周囲をひらりひらりと巡りながら、狩野真理は両手を大きく広げ、うっとりとした顔をして、
「世の中、『先立つもの』さえあれば、大抵の問題は解決するの!」
 と、微妙、かつ、身も蓋もない「大人の事情」を披露する。
「……」
 狩野の居候、羽生譲は、数十秒にわたり目を点にしていたが、
「……すいません。今月から少しバイト増やすっす……」
 ぼそぼそといって、悄然とうなだれた。

 その様子をみていた三島百合香は、知り合ってから一時間もたっていないのにもかかわらず、この家の女性陣の力関係をすっかり把握した。

「ということで、譲ちゃん。お買い物にいってくるから、お留守番、おねがいねー」
 足取りも軽く、部屋から出て行こうとする狩野真理に、三島百合香が、
「まて、ママさん。まだ時間はやいって。お店、開いてない」
 と、声をかける。
「それに、どうせ暇だから、わたしも付き合う。この間ちょうどいい酒を入手したばかりでな。そちらも進呈しよう。ママさんたちはいける口かな? ん? なんならどっかでお茶でも飲みながら、謎のニンジャ集団との付き合い方なぞも、レクチャーしてしんぜよう」
「そうねー。おねがいするわー、せんせいー。ちょっと支度してきますねー」
 相変わらずふわふわした足取りの狩野真理は、家の奥に消え、すぐにコート姿になり、バッグを手に帰ってきた。
 そのまま、二人連れで楽しそうに談笑しながら、外出する。

 狩野真理と三島百合香のノリについて行きそこねた形の羽生譲は、一人炬燵に入りながら冷めかかったお茶を啜り、煙草に火をつけて、煙を、天井に高々と吹き上げる。
「……なんだかなぁ……」
 ぽつりといって、畳の上にごろん、と、横になった。

[つづき]
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